第20話 再訪

「ああっー!」

 突然のイリーナの叫び声で俺は目を覚ます。


「なんだイリーナ、朝っぱら騒々しい」


「ちょっとアーサー、レメリアちゃんとなんで一緒に寝てるんですか!」


「なんでって可愛い女の子がいたら一緒に寝るのが普通だろ」

 レメリアも目を覚ますが、状況をいまいち理解していないようで眠たそうに目を擦っている。


「それを言うなら私も可愛い女の子じゃない」


「確かに可愛いけど、レメリアみたいに守ってあげたい感はあんまりないな」


「なによそれ!」

 何故かイリーナは憤慨している。


「アーサー…ご安心を…私は自分の身くらい守れますから。イリーナさん程度の…実力の人と比べないで下さい」

 レメリアはレメリアで何故か変な方向でイリーナにマウントを取り始める。


「私は回復魔法が専門なの!アーサーのお腹の傷痕だって私が治したんだから」


 自分の服をめくって腹部のシックスパックを見ると、致命傷だったにも関わらず傷痕が一切残っていない。


「へぇー、イリーナって回復魔法専門だったのか。どおりで、可愛い意外取り柄が無いのにアーサーが傍に置いてたわけだ」


「アーサー、記憶を無くしてるからって言っていい事と悪い事があるのよ。そう言えば貴方は王子じゃなくなったのよね?仮にここで手を上げても不敬罪にはならないのかしら」

 イリーナが不敵な笑みを浮かべながらこちへ歩み寄る。


「いや、待て!俺が悪かった。明日は一緒に寝てやるから許してくれ」


「いや…そういうことを言ってるんじゃなくて…」

 イリーナは急に歯切れが悪くなり照れだした。


 こういう時にイケメンは便利で楽だな。


 なんとなくだが、賑やかだった前世の雰囲気を思い出した。


 あの頃が酷く懐かしく感じる。 


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 あれから数日が経ち、ようやくオルバ村まで到着した。領主邸で造ったオルバ村一番のガラス張りの牢獄。中にいる元領主は牢獄内で座り込んでおり、さんさんと日光を浴びている。


 元領主を捉えてからどれぐらいの日数が経っただろう、おおよそ2週間ぐらいか。


 どうやらまだ生かされてるみたいだ。


 チートアイテムである漆黒の鐘からの洗脳を防ぐため、牢獄が防音仕様にされている。


 牢獄を眺めていると突然声を掛けられた。

「あっ…あなた様はアーサー王子!」


 振り向くと、簡易な鎧を着た兵士が5名直立不動で敬礼していた。

「この白鋼しらはがねの鎧はルシアン王国の兵です」

 イリーナがそっと耳打ちをして教えてくれる。

 変装していたが身内には通用してないようだ。


「状況から察するに連絡が取れなくなっていた先遣隊か?」


「そうであります。2、3日前に巫女殿に解放していただきました。洗脳の後遺症からも回復し、明日には身支度を整え王都に向けて経ちます」

 小隊長であろう兵士が返答する。


 …ん?なんか俺が2度目の転生をしてからの日数が合わない気がする。オルバ村を救って2、3日後であればギリ俺は死んでなかったような。


 それに王都エルミナからオルバ村まで1週間はかかった。

 

 どういう事だ?

 この兵士が嘘を言っていないのは明らかだ。

 俺の“目”がそう言っている。

 それとも洗脳の後遺症とやらで記憶が混濁してるのか。


 考え込んでいると突如、村長が息を切らしながら走ってきた。


「お取り込み中すみません、兵士の方々。オルバ山に鉄蜘蛛サリヴァンが大量発生しまして山菜採りに行った村人が何名か殺されました」


鉄蜘蛛サリヴァン!」

 俺はこの魔物を知っている。前世の俺を殺した蟹のような蜘蛛のような鎌手の化け物だ。


「イリーナ、レメリア!オルバ山に急ぐぞ」

 もしかすると、もしかするかもしれない。

 俺の考えが正しければまだ間に合う。


「アーサー王子、微力ながら我々も同行させてください!」


「ありがとう。心強いよ」


「いいえ、こちらこそ“くれないの剣聖”と呼ばれたアーサー王子の剣捌きが見れるかもしれないなんて、光栄です」

 ルシアン兵たちは目を輝かせている。


 なんだよ紅の剣聖って、アーサー王子ってそんな強キャラだったのか。確かに城の近衛兵共は瞬殺てきてたが。


「アーサー…なんか嬉しそう」

 レメリアが俺の顔覗き込んでいた。


「まったく調子に乗って死なないでよね」

 イリーナが俺に喝を入れる。


「皆様、どうかご無事で」

 村長は頭を深々と下げながら俺たちを見送る。


 こうして日が傾く中、俺たちは鉄蜘蛛サリヴァン討伐に向かう事となった。










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