第4話 徘徊
気が付くと視界に2つの富士山が見える。
ここは…日本か…そう思ったがどうやら違うようだ。
アリス様が気絶していた俺に膝枕をしてくれてる。真上にそびえ立つのはアリス様の自前の山だったようだ。
どうやらアリス様もそのまま寝てしまっているようで、
「アリス様、お疲れでしたね」
俺はアリス様を起こさないそうにそっと抱き抱えるとベッドの上に寝かせ、ネザンという藁よりも柔らかい草で編んだ掛け布団を上から被せた。
正直、りこりん像を壊したことは許せない。でも気持ち悪いってのが正常な反応か。
俺は心の傷が癒えぬまま、山小屋の外に出た。
気付けば日は落ちていて辺りは真っ暗だ。
「そう言えば、ばあちゃん大丈夫かな。気絶してたから食事の準備を一切してなかった」
俺は寝ているアリス様を起こさないように静かに隣の山小屋の扉を開けて、中を覗くが…誰もいない。
「ばあちゃん!」
慌てて部屋中を探すが、どこにもばあちゃんはいなかった。
再び外に出て、ばあちゃんを呼びながら自宅周囲を探すが何の応答もない。
「ちょっと…マメオどうしたのよ」
俺の声を聞きつけてか、眠たい目を擦りながらアリス様が外に出てきた。
「すみませんアリス様、隣に住んでた祖母が見当たらなくて…」
「そういえばアンタのおばあさん見てないわね」
「そうなんです。食事の際にいつも様子を見に行ってたんですけど、どこにも見当たらなくて…。もしかしたら俺が来なかったから外に探しに行ったのかもしれません」
「まったく、仕方ないわね」
元はと言えばアリス様がりこりん像を壊したせいな気もするが、今はそれどころではない。
「ちょっと待ちなさい。闇雲に探してもダメよ」
「でも、どうすれば…」
「あたしに任せなさい」
アリス様はばあちゃんの家の中から
「迷える
“
櫛が光り天に昇る。次第に形が定まってきて
「あっちよ」
「はい!」
俺は先導するアリス様の後を追い、光の帯を頼りに暗闇の中を駆ける。
しばらく進むと一本の木の幹の元で見覚えのある小柄な老婆が
「ばあちゃん!」
俺は慌てて駆け寄りばあちゃんの肩を揺らす。
「…おや、まめちゃんじゃない。もうご飯の時間かい?」
「よかった…」
俺はばあちゃんを抱きしめて安堵のため息をつく。
それを見ていたアリス様も満足そうに頷いている。
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その後、山小屋に帰り食事にすることにした。
アリス様も空腹だったようで、焚き火の前で上機嫌に鼻歌を歌っている。
俺は動画を参考にバルガムのステーキ肉をを焼く。
バルガムという魔物の味は牛肉のようだが脂身が少なく肉が固い。まずは肉を柔らかくするためにナイフで筋を切り、肉を叩く。
下味に塩と砕いたカルボの実(胡椒に独特な甘みが付いてる小さな木の実)を肉にまぶし、そのままオルバの実(熱すると油が出る。味や香りはオリーブオイルに近くエグミが少しある)を焚き火に置いた平たい鉄なべで炙る。
次第にオルバの身が溶けオイルになると肉を乗せて焼く。
焦げ目が付きミディアムレアで仕上げたらハルハ(大きな葉っぱでやや窪みがあるためお皿代わりに使っわれている)に肉をのせ、仕上げに砕いたカルボの実と塩を追加でまぶす。
付け合せにサブラス(水分量が多くてみずみずしい葉っぱ。やや酸味が強い)を乗せ完成だ。
「うわー、美味しそう!あんた見かけによらず美味しそうな物を作るわね」
一言余計な気がするが、アリス様はよだれを垂らしながらステーキを凝視している。
「今日はアリス様の退職祝いということでご馳走にしました」
「まめちゃんや、ありがとう」
ばあちゃんもバルガムのステーキを見て嬉しそうにしている。
「では、アリス様、退職おめでとうございます」
「ありがとう。てか私はもう女神じゃないから“様”は付けなくていいわ」
「わかったよ、アリス」
直後アリスから平手打ちが飛んできた。
「あんた、誰が敬語をやめろっつった。“さん“付けで呼べや」
「はい…すみません。アリスさん」
この暴力女神が…。
「ふふふ、アリスちゃんは元気が良い娘だねえ。まめちゃんにピッタリのお嫁さんだよ」
「オホホホ、お
「そうさね。まめちゃんのお嫁さんにするなはもう少し品性を身につけてもらわにゃ」
何故かアリスとばあちゃんがバチバチにやりやっている。
まったく…ばあちゃんは普段はボケてるのに、時々しっかりしてる事もあるから不思議なもんだよ。
こうして、久しぶりに
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