第14話 目覚め

 んーー昨晩はよく寝た。

 新居後、初の目覚めを迎え見慣れない広い天井が視界に飛び込んでくる。

 俺はふかふかのツインベッドから起き上がり背伸びをする。


 ふとリーザの花の甘酸っぱい香りが鼻を撫でる。

 匂いの在処ありかを探して部屋中を見渡すと…俺の隣に誰か寝ていた。


 その誰かは頭まで掛け布団にくるまっていて、どのヒロインかは分からない。


 おっと…これはお約束の朝チュン展開。

 ここで騒いで他の女性が駆け付け、俺が詰められる展開はB級童貞ラノベ主人公のすること。


 俺ぐらいになると隣の淑女レディー蜜月みつげつの一時を過ごすために画策するのさ。


 俺はゆっくりと布団に潜りどのヒロインか期待に胸を膨らませながら背後からそっと抱き寄せる。


 やはり匂いの発生源は隣の淑女レディーの髪からのようだ。


 …あれ?この淑女レディーやけに筋肉質だな。アリスか?


「おっ、マメ坊…どうした、朝か?」

 その淑女レディーの声は男性のように野太く、男性のように筋肉質な二の腕…男性のように…。


「んぎゃーーーーー」

 俺は前世38年、今世18年、合わせて56年の人生の中…計算あってるよな?

 人生で一番の絶叫がオルバ山を支配した。


「なになに!敵襲?」

 俺の声を聞きつけた女性陣が総出で部屋に押し寄せてくる。


「マメ坊、朝からうっせーぞ!それにお前らも落ち着け」

 俺の隣に寝ていた淑女レディーもとい半裸の五郎がむくりとベッドから起き上がる。


 俺は初めて知る男の肉体に恐怖しおののき、体の芯から震えが込み上げてくる。

「こら貴様!マメオ様ににゃにをした!」

 メルルがベッドに飛び込んできて五郎を蹴落とす。


「おいっ!なにすんだよ、俺がマメ坊になにかするわけねぇだろ」


「にゃにもしてにゃいのに、こんにゃに怯えるわけにゃいでしょ!」


「にゃーにゃーうっせんだよ、野良猫が」


「にゃんだと!私を野良扱いするにゃんて万死に値するにゃ」


「まめちゃんや、昨晩はお楽しみじゃったようじゃな」

 ばあちゃんまで意味深な発言をする。


「マメ…まさか…不潔です!」

 りこは顔を真赤にして部屋を飛び出していった。


「えっ!なによ、りこ、どういうことよ?」

 アリサは状況が分からず困惑している。


「マメオ様、これは悪い夢です。どうぞ私の胸で眠って下さい」

「まめお…おとと…こわい…」


「ちょっと!オレンジ頭、なんか知んないけどマメオが退化しちゃったじゃない」


「そんなの知るかよ!」


 カオスな状況のまま新居での最悪な朝を迎えた。


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 俺たちは食堂で少し遅い昼飯を食べていた。


「マメ坊、悪かったって…昨日はマナを使い果たして寝床を追加で容易出来なかったんだ」


「なんでお前いい匂いがするんだよ!逆に気持ち悪いよ」


「はぁ!匂いはエチケットの基本だろうが」


 昼には俺の精神も五郎と言い争えるぐらいまで回復していた。


「マメったらびっくりさせないでよ…マメの初めては私なんだから…」

 りこがなんかゴニョニョ言っている。


「えっ、なんて言ってるですか?」


「もう!」

 りこは頬を膨らませて何処かへ行ってしまった。


「そう言えば、五郎はこれからどうするんだ?」


「んあ、俺か?俺はオルバ村に帰るかな。村の復興を少しばかし手伝ってくるわ。かれこれ数年は洗脳されてたから建物も随分手入れされてなかったから」


「そうか…残念だ。もしも、気が向いたら俺たちと暮らさないか?」


「おっ!それは俺と一緒に寝たいってことか」


「馬鹿言うな、二度とゴメンだ」


「まあ今生こんじょうの別れじゃ無いんだ。村まで近いんだし、いつでも会えるさ」


「それもそうだな。そう言えば、オルバ山の歴史が分かる書物とかオルバ村にないか?」


「書物だぁ、そんなもんは聞いたことないな。アリスばあはなんか知らないのか?」


 食事にがっついてるアリスに五郎が話を振る。

「もう、つっこむのも面倒ね。そう言えば転生者の一人が王都で本を読み漁る変態がいたわね」


「変態?」


「そう変態。王都エルミナには王立図書館があるから領土内の歴史とかも調べられるわよ」


「へぇー。それは少し興味をそそられるなあ」


「でしょでしょ!私も直接は行ったことないから行ってみたいのよ」


「そうかそれなら俺も途中までマメ坊たちの旅のお供に預かろうかね」


「なんか王都に行く流れになってるな」

 そこでならオルバ山の魔とやらの情報も得られるかな。オルバ村を離れる際に村長たちに詳しく訊けばよかった。


「メルルー、ばあちゃん」 

「にゃんですかご主人様」

「はいはい」

 俺は炊事場にいるメルルとばあちゃんを呼ぶ。


「2人共オルバ山に封印されてる魔って知ってるか」


「うーん、村長が恐ろしいモノが封印されているってはにゃしてたけど言ってる当人も詳しくは知らにゃいようでした。にゃんせ1000年に一度封印しにゃおすから昔過ぎて誰も詳しく覚えちゃいにゃいみたいで…」


「なんか私が女神になる前にそんな話を聞いたことあるような無いような…」


「アリスの脳みそには期待してないから安心してくれ」


 「なによムカつくわね。私だって頑張れば出来る子なのよ」


「コホン…」

ばあちゃんの咳払いが喧騒を打ち消す。


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