第31話 作戦開始
約束の時刻。
酒場を後にした俺達はカリメル王子の待つ王立図書館の玄関に訪れた。
「皆さんお待ちしておりました」
カリメル王子が入口の扉を開くが既に館内は消灯しており、晶石による僅かな照明が足元に灯されているだけであった。
「ほぼ足元しか見えないな」
「そうにゃ?」
「そう言えばメルルは猫目だったな」
「すみません。火災にならぬよう照明は全て晶石のみでして、夜間は光量を抑えているのです」
「いたっ!」
りこが何かに躓き転ぶ。
「大丈夫か?」
俺は笑いながら、りこに手を差し出し引っ張り上げる。
その後も暗がりをカリメル王子が先導し、脇にある小部屋へと案内された。
「ここが我が城です」
何の変哲も無い小さな小部屋だ。
家具も最低限の物しか置いていない。
「皆様、とりあえず適当なところに腰を掛けて下さい」
そう言えば自己紹介を終えてなかった事を思い出し俺たちは軽く挨拶を済ませた。
「さっそく本題に入らせてくれ。隆二…いやアーサーが明日処刑されるって?」
「お耳が早い。残念ながら他の者ももれなく全員処刑されるそうです」
「そんにゃ」
メルルとは対照的にりことレメリアはその事をある程度想定していたようだ。
「…それで、どうやったら助け出せる?」
「ええ、私としてもアリス様が処刑されることは何としても避けたい…ですが犯罪者の脱獄に加担すれば王族であっても極刑になります」
「俺は既に死んだ身だから構わないけど、メルル、レメリアは無理に協力しなくてもいいぞ」
「もう、マメオ様を置いていくなんてもう二度としないにゃ!」
「うん」
メルルの決意に合わせてレメリアも頷く。
「マメ、私には訊かないんですか?」
「りこは当然来るだろ?」
りこは目を逸らして頷く。
「もしやマメオ様も転生者でこざいますか?」
「はい…カリメル王子も転生者とアリスから聞いています」
俺の言葉を聞いた瞬間カリメル王子が身震いを始める。
「はわわわわ…まさかアリス様が私を認知して下さっていたとは、この
正直キモい。推しは盲目とはよく言ったものだ。
俺もりこりんを推していた時はこうだったのかと改めて思う。
「きもいにゃ」
「メルル、心の声が漏れてるぞ。これでも王子だちゃんと敬え。それよりカリメル王子は俺たちに協力して大丈夫なんですか?」
「今更なにを仰りますか。私はそもそもアーサー派ですし、アリス様第一主義者ですから」
そんな第一主義者はおそらく目の前の変質者が最初で最後だろうが、ここで曲がりなりにも王族の協力を得れるのは有り難い。
「それは助かります」
「一番、手っ取り早いのが堀にある水路からの侵入です。王都の地下牢まで直通ですからそこから助け出しましょう。ただ堀の中にはガルパスという魚類の魔物がいますので要注意です」
「ガルパス?」
「小魚ですが、水に入った全ての生物を骨まで残さず喰らいつくします」
「ピラニアのすごい版ですね」
「そのように解釈していただいて大丈夫です」
「とりあえずその案でいきましょう」
「ちなみに私は非戦闘員ですので、万が一の時は任せましたよ」
「大丈夫だ。レメリアとメルルが全て片付けてくれる。それと、りこは応援よろしく」
「そうですね。私の応援で士気が爆上がりですから」
「にゃ!私は戦闘なんてしたことないにゃ」
「大丈夫だお前が殴るだけで大概の生物は生涯を終える事になる」
以前、動画で知ったのだが、
それもあり、先日はメルルのおんぶにあやかろうとしたのだ。
「酷いにゃ。メルルはか弱い乙女にゃのに」
「私が…全て…殲滅する」
「レメリア、気持ちは有り難いけど殲滅は最終手段にしてくれ」
こうして俺たちは水路への先入の準備に取り掛かる。
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日を跨ぐ頃、俺たちは城壁の勝手口から堀へと出ていた。
夜間は警備兵が巡回していたが、四角い黒縁眼鏡を掛けたカリメル王子の指示で難なく到着した。
「カリメル王子、すごいですね。警備の巡回を把握されているのですか?」
「いえいえ、このチートアイテムのお陰です」
そう言ってカリメル王子は眼鏡をくいっと上げる。
「へぇー、チートアイテムですか。ちなみにどんな能力なんですか?」
「これは簡単にいうと透視眼鏡です。私の操作次第で透視の度合いを調整もできますので、壁の向こうにいる兵士の動きも一目でわかります」
透視眼鏡?俺はこの話を何処かで聞いたことがある。アリスが裸を見てくる変質者が転生者にいると言ってたような…。
「カリメル王子、失礼かと存じますが、それのチートアイテムで女性の裸を見たりはしてないですよね?」
「ななな…何を仰りまするか」
カリメル王子はあからさまに挙動不審な反応を見せ否定する。
「それで、りことメルル、レメリアはどうでした?」
「いやはやりこ殿はなかなかキレイな臀部をしてらっしゃる。メルル殿は年相応といったところでしょうか。右胸のホクロがセクシーですね。レメリア殿は今後に期待としか…ぐはっ!」
カリメル王子が話し終える前にメルルの拳が
りこはそんなカリメル王子を冷めた目で見下ろしていた。
カリメル王子のギャグパートにやや時間を取られたが俺たちはようやく城壁の堀の水路への侵入を開始した。
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