第32話 地下牢にて

「さあ皆さん準備はよろしいですか。水の中に飛び込みますよ」


「えっ、水中にはガルパスって魔物がいるんじゃにゃいのか?」


「それならご安心を、反対側の堀に血の滴る抗牛バルガムの生肉を10kgほど投げ込みましたので、しばらくはもつでしょう。ささ、水路の入口は真下です。私に続いて」


「私…泳げない…」


「大丈夫、レメリアは俺に掴まってな」

 正直、俺も体育が2だったため泳ぎにはあまり自信がないが、レメリア一人ぐらいならなんとかなるだろう。


「ごめんなさい。実は私も泳げなくって…上で待ってていいですか?」


「そうか。なら、りこはどこか身を隠して退路の確保を頼む」


 カリメル王子の合図で順番に堀の中へ飛び込む。暗闇の中、真下にある水路の中を泳いでいく。


 奥に進むにつれて腐った卵のような腐敗臭が鼻をついてくる。


 少し進んだところで足が水底に着くようになり、道なりに進むと少し開けた空間に出た。

 

「こちらです」

 カリメル王子が小声で誘導する。

 そこには扉があり、俺たちは汚水から上がり、更に奥まで進んで行く。


「カリメル王子、よくこの暗さで難なく進めますね」


「実はこのチート眼鏡は暗視機能もついていまして、暗闇でもよく見えるのです」


「それは便利ですね」


「ただ、1つ欠点がありまして…」


「それはにゃんにゃ?」


「おっとお喋りはここまでにしておきましょう」


 そこまで話したところでカリメル王子が口元で人差し指を立て、静かにするように促す。


「ここを上がれば牢獄内の通路に出ます」


 俺たちは王子の後に続いて錆びた鉄製の梯子を上がる。

 梯子の先にある鉄製の蓋を明けると、薄暗く湿気の立ち込める地下牢に出た。


「よう、遅かったじゃねえか」


「まったく、明日処刑されるってのに余裕だな」

 捕らえられているとは思えない態度で、隆二は牢屋の中で膝を立てて座っている。


 他の牢獄を見渡すとアリスとイリーナ、先遣隊の方々も囚えられていた。


「アリス様…なんとご無体むたいなことで」

 カリメル王子はすぐさまアリスが囚われている鉄格子の前に縋り付く。


「マメオ…許すまじ…マメオ…許すまじ…マメオ…許すまじ…」

 アリスの口から不穏な言葉が漏れ聞こえてくる。

 後でちゃんと謝ろう。


「おいおい。何でカリメルもいるんだ?それに兄の心配は後回しか?」


「いえいえ、心配してましたとも。だからこそアーサー兄様を助けに馳せ参じました」

 カリメル王子は苦しい言い訳をする。


「メルル、この鉄格子をこじ開けられるか?」


「さすがに無理にゃ。マメオ様はいったい私をなんだと思ってるにゃ」


「すまん。念の為確認してみた」


「マメオ殿、地下牢の入口で兵士がうたた寝をしています。腰に牢屋の鍵らしきものが透けて見えますゆえ盗りにいけますか?」


 俺はレメリアに目配せをして2人で地下牢の前に向かう。

 先ほどの位置では兵士は見えなかったが、カリメル王子の言った通り、机の上に突っ伏して寝ている兵士がいた。


 俺は忍び足で兵士に近寄り腰に手を伸ばす。


「ぐあ!」

「うお!」

 鍵束に手を伸ばしたとこで兵士が突然、悲鳴を上げ、それに驚いた俺の口からも情けない声が出る。


「こうすれば…心配ない」


「おい、なにしたんだ?」


「無防備な…首に…手刀を…食らわせた」

 レメリアは決め顔でこちらを見てくる。


「さすがにそれは可哀想じゃないか?」


「マメオは…優しいね。今は…急いで…戻ろう」


 レメリアに急かされつつ全員を解放した。


真芽夫まめお!こっちも頼む」


 隆二に言われて一番奥の牢屋の鍵を開ける。


 薄暗くて分かりづらいが、褐色の肌に、金髪の天パの見知らぬ少年が、牢獄から出てきた。


「いやー。助かりました」


「あなたは?」


「コイツは俺の弟だ!」

 隆二は何故かドヤ顔で紹介する。


「ってことは…王子様?」


「そういう事になりますね。私は第三王子のロメオ・エイフォン・レインになります」


「どうやらこいつもスピカの野郎に囚われたらしい」


「ははは、権力争いは大変ですね」

 ロメオ王子は他人事のように笑う。


「お前は相変わらずだな」


「あれ…ところでアリスは?」


 ふと、アリスだけが何故か牢屋から出てきていない。近くでカリメル王子が話しかけるもまるっきり無視だ。


「アリスさーん。開きましたよー」


「マメオ〜、よくも私をこんなとこに追いやったわね」


「こんなとこって、アリスがいた転生の間もこんな雰囲気だったぜ」


「なによ!」


「ほらほら痴話喧嘩は帰ってからにして。あれ?アーサー様、そちらは城内ですよ。兵士たちに見つかってしまいます」

 イリーナの言葉で、アーサーに目を向けると水路とは真逆の方へ進んでいた。


「なぜ自分の城でこそこそしなきゃならんのだ。それにスピカの野郎に愛剣の深紅ルージュを取られた…取り戻してくる」


 まったく頭に血が上ると後先を考えなくなるのは相変わらずだな。


「アーサー様、お戻りください」

 俺はイリーナの肩に手を置き、首を横に振る。


「こうなった隆二は止められない。着いていきましょう」


 こうして俺たちは隆二が再び死なないように後に続く。


「おい、先遣隊!ロメオとカリメルを連れて水路から逃げろ。後は俺に任せとけ」


「水路を抜けた先でりこが待機してますから一緒に城外まで逃げて下さい」


「はっ、かしこまりました。しかし、アーサー王子は大丈夫ですか?」


「愚問ですよ。兄なら大丈夫です」

こうして見ると隆二は結構慕われているようだ。

 いや、そう言えば前世からコイツは人望があったな。…俺とは違っていつも周りに人がいた。


 それも過去の事だ。今は俺の周りにも仲間が、いや愛すべき家族がいる。

なんとしても平穏な日常を取り戻すんだ。


 ロメオ王子とカリメル王子は先遣隊に任せて、隆二の後を追い俺たちは城に突入した。
























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