第33話 タブレットの有用性
石レンガに囲まれた螺旋階段を早足に昇っていく。
城内は薄暗く、最低限の松明の火だけが壁に掛けられていた。
隆二は自分がここにいることが、さも当たり前のように赤い絨毯が敷かれた通路の真ん中を堂々と歩いている。
警備は見当たらないが、それでもまったくいないって事は無いだろう。
「何者だ、止まれ」
案の定、巡回していた兵に見付かってしまう。というか隆二にはそもそも隠れる気もなかったようだ。
「私はアーサーだ」
隆二は恐れる様子もなく、死んだ筈の者の名を端的に告げる。
「貴様、地下牢に囚えられていた偽物か!」
次の瞬間、兵士は片手サイズの角笛を鳴らす。
「おい!隆二、にげるぞ!」
「いや、俺はここに残る」
「残るってせっかく脱獄したのにどうして…」
そうこうしている間に兵士たちが集まってきた。
「大人しくしろ!」
50人程の兵士たちは皆、俺たちを取り囲み一斉に剣を向ける。
レメリアは既に暗闇に身を隠しているが、状況はあまり芳しくない。
そんな中でも隆二は落ち着き払っている。
「私はルバーン王国第二王子アーサー・リューイ・レインだ!これから私を貶めたカピス王子を討つ。お前たちは、今後、誰に仕えたい?あの傍若無人なスピカか、それととも他の王子か?…行く末は自分たちで決めろ。…ただ、もし私を捕らえるというなら相応の覚悟をしてもらおう。
隆二は丸腰だというのに気迫だけで兵士たちを怯ませている。
兵士の一人が道を空けた。それに続くように他の兵士たちも道を空けたのだ。
そのまま、城内の
ここに来るのはアーサーの体に転生した時以来だ。
スピカ王子は宮殿の食堂で宴会をしているようで、突入してすぐに下品な笑い声が聞こえてきた。
「ぐふふふふ、…こうもあっさりと事が運ぶとは」
「スピカ!ずいぶん楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」
「お…お、お前はアーサー!どうやって出てきた、それに兵士たちはどうした?」
「兵士たちなら道を空けてくれたぜ。お前たちは手を出すな」
「アーサー…様」
イリーナが少し寂しそうにアーサーの背後で呟く。
「アーサー、王位を譲るといったのはお前だろうが、あれは正当な取引だ」
いや、その約束をしたのは俺なんだ…。
「お前と取引したアーサーは偽物だ」
「な、な、何をバカな。私がお前を見間違うはずがない」
「偽物扱いしといてよく言うぜ」
スピカ王子は腰に
それでもスピカ王子は怯え、後ろに
「レメリアー!助けてくれ!」
スピカそう叫ぶと、レメリアが突如、アーサーとスピカ王子との間に割って入る。
「おい、どういうつもりだ?」
隆二の言葉に返答はせず。レメリアは震えながら短剣を構えている。
「あの時は不意を突かれて殺されたが今回はそうはいかねえぞ」
隆二から尋常じゃない殺気が放たれる。
スピカ王子の洗脳を甘くみていた。レメリアはスピカ王子から完全に解放された訳ではないのだろう。
一触即発の雰囲気が場を支配する。
「隆二、レメリアの事は俺に任せてくれ」
俺は隆二の肩に手を置き後ろに下がらせ、レメリアの前に立つ。
「レメリア、お前の相手は俺だ」
「にゃ!マメオ様、にゃにを言ってるにゃ」
何か案がある訳でもない。それでもレメリアを引き取ったのは俺だ。けじめは俺がつける。
俺は片手にタブレットを召喚する。
「いいんだな」
隆二の声に俺は無言で頷く。
「マメオ…ごめんなさい」
レメリアはそう吐き出すと、俺の視界から消えた。
俺は即座に屈んだ。その瞬間、鋭い風が頭上を通り抜けた。
レメリアは瞬時に背後に回り俺の首を狩ろうと短剣を振るう。
その後も鋭い剣閃が四方八方から閃く。
俺は必死にタブレットで捌くが、幾つか斬撃をもらい全身から出血する。
「レメリア!俺が勝ったら今度こそお前は俺のモノだ!」
レメリアは泣きながら短剣を振り続けている。
攻撃がほとんど目で追えない。
気配もあまり感じられないため、一瞬の油断が死を
レメリアが疲労した一瞬の隙をつき俺はりこりんの十八番、“りこりんレヴリューション”のMVを動画で音楽を流す。
突然の出来事に皆、きょとんとして数瞬、時が止まった。
俺は瞬時にタブレットを振り抜きレメリアの短剣を弾き飛ばした。
「レメリア、俺の勝ちだ!」
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