第23話 セルフ寝取られ
その後、兵士達の協力もあり、俺たちはオルバ村まで引き返した。
村長が空き家を宿代わりに貸してくれ、その一室にマメオを運び込んだ。他人事かもしれないが、俺はもうマメオではなくアーサーなのだ。
マメオの仲間たちは意識が戻らない彼を交代で看病をしている。それが少し羨ましく、何だか自分に大事な人を寝取られた気分になった。
セルフ寝取られかという新ジャンルを開拓してしまったなとバカな妄想をしていると、
イリーナとレメリアが長椅子に座る俺の両隣に腰を掛ける。
「アーサー…顔色が優れないけど…大丈夫?」
レメリアは心配そうに俺のを覗き込み、小さな手で服の袖を引っ張る。
「あ…ああ、そうだな。大丈夫だよ」
「そういえば、イリーナ1つ確認しときたいんだが、俺がレメリアに刺された時もあの回復魔法を使ったのか?」
レメリアは申し訳なさそうに顔を伏せる。
「レメリア、別に責めてる訳じゃない。キミの立場で命令を断るのはまず無理だろう」
俺はレメリアの頭を優しく撫でる。
「アーサーが暗殺された時、既に絶命していたわ。それなんとか助けようとして…その…禁忌とされる蘇生魔法を使ったの」
なるほど…てことは、どういう事だ?
ここで確かな事はマメオが意識不明ながらも生きているということだ。
そして、もう一つはばあちゃんが目を覚まさない事。
前世で俺が逃がした時は、まだ自分の足で歩いていたはず。
マメオの隣のベッドに寝かされているばあちゃんに目を向ける。
ここで考え込んでても仕方ない。
俺はばあちゃんの隣で座っている五郎の元へ歩み寄る。
「よう!五郎」
「お前、初対面なのにやけに馴れ馴れしいな。俺も人の事を言えた義理じゃねえが。ともかく、さっきは助けてくれてありがとうな」
「いや、他の皆の協力があったから何とか助けられた。それよりそちらのお婆さんはいつ頃気を失ったんだ?」
「ああ、そうだな。マメオが囮になって
「そうか…」
そう言えば、囮になった時、ばあちゃんが去り際に何か言ってた気がする。
…駄目だやっぱり分からん。
「そちらの
「残念ながら無理です。私の
いつの間にか隣にいたイリーナが申し訳なさそうに頭を下げる。
「アーサー…何か…悩んでる」
「そうだな。人生思い悩む事ばかりだよ」
当初、望んでいたスローライフとはかけ離れた状況だ。平穏に生きるのがこうも難しいとは。
「アーサー、今日はもう休んだら?」
「そうだな…」
本当は救出した時に皆を抱き締めたくて仕方なかった。アリス、りこ、メルル、ばあちゃん…まあ五郎はいいか。
しかし、それも俺がマメオだった時の話。
見た目も中身も、自分自身が本当に嫌だったのにここにきてマメオだった頃が羨ましくなるとは。
人が替わるという事は周囲との繋がりまで変わってしまう。転生すると当然ながら今まで築いてきた関係性もリセットする事になる。
今ある人間関係を大事にせねばと、つくづく思う。
五郎がたまたま繋いでしまった謎の遺跡。転生時の時間のズレ。これ以上考えても無駄と悟り俺は最終手段を取ることにした。
とりあえず部屋に戻って床に寝転がる。
横になると、すぐに疲労と脱力感に襲われ、俺の意識は微睡みの中に落ちていく。
…さあ答えをくれ、こんな状況になってる理由はお前なら分かるはずだ。
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…なんて都合の良い展開は無かった。
俺に3度目のチャンスを与えてくれた白装束の少女には会えなかった。
目が覚めると両手に花状態で、イリーナは俺の腕に、レメリアは俺の足に絡み付いている。
イリーナの寝顔をみていると顔が泥だらけだ。
そう言えば、しばらく風呂に入っていなかったな。
そう言えば、前前世でラノベを読み漁ってたときに、美少女はみんな良い匂いがすると、なんとなく思っていたが実際はどうだろう。
…いや止めておこう。ただでさえ、メンタルに多大なダメージを負っているんだ。ここで幻想を壊されたら、とどめを刺されるどころかオーバーキルされてしまう。
俺は二人を起こさないように、そっと腕と足を抜き、部屋を出る。
部屋を出るとアリスが廊下を歩いていた。
まだ夜明け前なのか辺りは薄暗い。
「ちょっといいかしら」
「あ…ああ」
俺はアリスに誘われるがまま家の外に出た。
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