第6話 来ちゃいました

 …今朝も一晩中鳴り響くアリス式目覚ましに起こされ、不快な朝を迎える。


 ベッドで気持ち良さそうに寝ているアリスを見てため息をつく。


 …もう少し女性らしいところがあれば。

 アリスははだけたお腹を掻きながら何やら寝言を言っている。


 いや今の時代、女性らしさという枠に当て嵌めるのはナンセンスかもしれない。


 そう自分に言い聞かせながら寝ているアリスの鼻をつまむ。


「うぐっ…が、がっ」

 排水溝が詰まったような独特な音が鳴る。

 寝苦しそうにしているがなおも目覚めないアリス。

 次は剥き出しのおヘソに指を入れようとしたところで山小屋の扉をノックする音が聞こえる。


 …あれ、ばあちゃんもう起きたのか。


 すぐに扉を開けると、そこには白のワンピースに白い帽子を被った黒のショートボブの少女が立っていた。


「来ちゃいました」


 …とりあえず一旦扉を閉めて横になる。

 なんかデジャヴだな。


「マメオさーん。入りますよー」

 透き通るような声の少女は俺の返事を待たずして扉を開け放つ。


「きゃっ!すみませんでした」

 りこりんが可愛らしい声を上げ一旦ドアを閉める。


 ああそうか…。衣服がはだけベッドに寝ているアリスの隣の床に寝ている俺。りこりんがどういう想像をしたのか容易に分かった。


 軽く身なりを整えて外に出る。

「りこりん様。今日はどうされたんですか?」


「いえ、すみません。既にお二人がそのような関係だったとは…」


「いえいえ、違いますよ。りこりん様が思ってるような関係ではありません」


「思っているような関係ではない?…それはセフレ的な関係ということですか」


「せ、せっ、セフレ!そういう関係でもないです!」

 突然の言葉に驚いてしまった。


「やはりその反応を見るに童貞ですか。さっきは落ち着き払っていたからまさかとは思って、ごめんなさいね」


 この娘もサラッと失礼な事を言うタイプか?


「とりあえず、今日は何用で?」


「あのー、私も女神を退職しましたので、マメオさんのところでお世話になろうかと思いまして…」


「…でしょうね。それで一応聞きますけどどうして俺のとこなんですか?」


「モニタリングの時に…マメオさん優しそうだなって思いまして。それに、童貞だからがっついてなくて良いかなって…」


 りこりんは失礼なことに童貞前提で話を進めてくる。まあ、童貞なんですけども。


「わかりました。別に構いませんが見ての通り我が家は狭いですよ」


「それならご安心下さい」


 りこりんはおもむろに詠唱を始める。

 「母なる大地よ。円環えんかんことわりに従い、つい住処すみかを創造せよ」


大地の墓グレイブ


 突如りこりんの足元の地面に小さな穴が空く。

 その後、木の板を山小屋の脇から持ってきて、穴の前に立てた。


 そして、何やら文字を書いている。

「なになに…ア・リ・ス・先・輩・の・お・う・ち?」


 それだけ書き終えると、りこりんは俺の家に入りアリスを引きずり出してきた。

 そして、そのまま穴もといアリス先輩のおうちに投げ入れた。


 りこりんは「これでよしっと」

 そう言いながら両手をはたく。


 りこりんは何事も無かったかのように俺の家に入りベッドへダイブした。そして、アリスも何事も無かったかのように穴の中で爆睡している。


 俺はいろいろ考えるのが面倒臭くなり、自宅の中に入ってもう一眠りした。


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「ぎゃあああああ」


 今世紀最大の目覚ましにより、俺は再び目を覚ます。


 外の墓穴で寝ていたアリスが勢いよく扉を開け放つ。


「きゃあ!」

 アリスは生娘のような声を上げる。


 ベッドの上で寝ているりこりん。

 そして、その横で寄り添うように寝ている俺。


「おはよう、アリス。ゆっくり眠れたかい?」

 俺は童貞感を出さないように落ち着き払って対応する。


「ちょっとアリス先輩…うるさい…です…よ」


 目覚めたりこりんはアリスを見た後、隣で添い寝していた俺と目が合う。

「やありこりん。昨日はよかったよ」

 童貞感を出さないように落ち着き…。


「きゃああああ!」

 次の瞬間、りこりんの右ストレートによって俺は一発KOされる。


 気がつけば俺は穴の中にいた。

 這い出して、立てかけてあった板に目をやると、アリス先輩の家という文字がぐちゃぐちゃに消されていて“変態の墓”と書き換えられていた。


 家の前の焚き火に目を移すと、ばあちゃんとアリス、りこりんが、談笑しながら炙った干し肉を食べていた。


「皆さんおはようございます」

 声を掛けるもアリスとりこりんは目すら合わせてくれない。


「あら、まめちゃんようやく起きたのね。もうお昼よ」

 俺に反応してくれるヒロインはばあちゃんだけだ。


「それよりまめちゃん。どちらが本妻でどっちがおめかけさんかえ?」

 ばあちゃんはまたとんでもないことを口にする。


「ちょっとおばあちゃん!どっちも違うわよ」


「そうですよ御婆様。誰がこんな…」

 りこりんは流石にばあちゃんの目の前で孫をけなすのはまずいと思ったのか、口元まで出かかった暴言を飲み込む。


「まったく、朝から賑やかなことで」

 俺のこつこつ真面目に生きるスローライフは慌ただしい日常を迎える事となった。

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