第7話 初めてのおつかい
4人での生活が始まった訳だが、
早朝から新居を建てようと話し合いの場を設けることにした。
「私の1000年分の残業代と退職金もろもろ合わせて、ざっと100億ミリカは入ったから豪邸を建てましょう」
「それはダメです。アリスが今まで頑張って稼いだお金を俺たちが安易に使うのは反対だ」
「へぇー、親にたかってたニートとは思えないセリフね」
アリスが皮肉たっぷりに返答する。
「それならどうします?御婆様とマメオさんが一緒の山小屋で生活して、私はマメオさんが住んでいた山小屋で暮らしますよ」
「ちょっと待って、その場合あたしはどこに寝ればいいのよ?」
りこりんの提案に対してアリスが当然の疑問を口にする。
「アリス先輩は私が丹精込めて造った
「この前から気になってたけど、あんた先輩に対する扱いとは思えないわね。少しは敬ったらどうなのよ」
アリスは憤慨してりこりんに詰め寄る。
「いえいえ、私はアリス先輩を尊敬してますよ。あんなブラックな環境で1000年も働く物好きなんてそうはいないですから。あまつさえ先輩のせいで私は死んですぐに女神の仕事を押し付けられたんですから」
りこりんは特に隠そうともぜずアリスに不満をぶつける。
今の話でりこりんが現世で亡くなった事が確定した。炎上騒動の流れで一体何があったんだろう。
…訊きたいけど訊けない。
「そんなのあたしに言われたって知らないわよ。文句なら神に言いなさいよ!」
「まあまあ、2人共にそれくらいにして、今は住むところをどうするか話し合いましょう」
俺達の会話を黙って聞いていたばあちゃんが突然、声を上げる。
「うむ、それなら二郎に頼んでみようかの。いや三郎じゃったか…」
「初めて聞く名前だ。それって誰なんです?」
「三郎はこの山小屋を建ててくれた人じゃ。上手く話をつければ家を建ててくれるやもしれぬ」
認知症のため要領の得ないばあちゃんの話をまとめると、麓のオルバ村の外れに三郎という
右官というのは簡単にいうと
とりあえずばあちゃんはアリスに任せて、俺と、りこりんでその三郎という右官を探す事となった。
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日が昇りきる前に俺とりこりんは山小屋を出発した。正直、山を下るのは初めてだ。まだ見ぬ地への不安と興奮が同時に襲ってくる。
「りこりん様、喉は渇いてないですか?」
中の人とはいえ推しと対面すると、嬉しさ半分、緊張半分でどう接していいか分からなかった。童貞のツライとこだ。
「りこでいいですよ本名なので。それよりマメオさんは転生してどれぐらいになるんですか?」
「活動名は本名から取っていたんですね。俺は生後に転生したので18年ですね…あれ?」
そう言いながら俺は不自然な点に気付く。
りこりんは俺が前世で推し活をしていた頃は活動を始めて2年目だった。それから配信を継続していたから少なくとも20年は活動を続けていた事になる。
ともなればどれだけ若く見積ってもせいぜい35歳ぐらいの年齢ではなかろうか。
だが、目の前にいるりこりんは、俺とさほど変わらない歳に見える…。
そう考え込んでいると、りこりんが何かを察して説明を始めた。
「なんか引っかかってるみたいですけど転生時に年齢を選べたから17歳で転生したんですよ。あなたも転生者時にアリス先輩から説明を受けませんでした?」
「えっ!転生時に年齢を選べるんですか」
アリスめ適当な説明をしやがって、というか説明すらされてない。
ただ、真面目にこつこつ生きるってだけの願いだったから最初から人生をやり直した方がよかったのかもな。
「あの頃のアリス先輩は激務でしたから、私に引き継ぎもろくせずにいなくなりました。結局は自分で女神の業務内容を調べたんですけど」
「帰ったらアリスを叱っときます」
「はい、お願いします」
りこりんは冗談か嘘か分からない笑顔で返答する。
しばらくりこりんと山を下っていると、
突如木々がざわめきだした。
「りこさん」
俺は小声でりこりんに下がるよう合図する。
その直後、木々の隙間から巨大な
口横から天を穿つほど長く尖った2本の牙が雄々しく生えていた。
「こいつは
りこりんは細かい補足も合わせて魔物の情報を伝える。
「りこさん、魔法で倒せたりできないか?」
昨日見たりこりんの魔法を思い出し提案する。
「ごめんなさい。魔法は女神である間の福利厚生の一貫なの。私は昨日付けで退職したから使えないわ」
魔法が福利厚生ってどんな会社だよ。
「あれ?確かアリスは魔法を使ってた気が…」
「アリス先輩は有給消化中でしたから」
なるほどそれで魔法が…そうこう言ってる内に
俺は慌ててりこりんを突き飛ばす。そして、既のところで後方に跳び突撃を回避する。
…くそ、これなら武器の一つでも持ってくればよかったな。状況は
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