第11話 モルガンの鈴

 月が昇る頃、俺たち3人は軽く自己紹介を終えた後、領主邸付近の草むらに身を潜めていた。


 領主邸は東京ドームの半分程の大きさだ。

 前世では、よく東京ドーム何個分の大きさ等という表現を目にしていたが、正直どれぐらいの大きさか想像できない。


 どうでもいい事に思考がそれていると、五郎が領主邸の警備について話し始めた。


「領主邸は高さ5メートルの鉄柵で囲われている。そんで、洗脳された兵士がうじゃうじゃいる。こいつらも被害者だから無闇に殺すなよ」


「わかってますよ。それで、どうやって領主を叩くんですか」


「とりあえず柵を通れるようにするから、なんとか警備兵の目を掻い潜って領主のもとに辿り着く」

 俺の問いかけに五郎が答える。


「領主はどこにいるんです?」


「知らん!どうせ一番上だろ」

 五郎の適当な作戦にりこの顔がしかめっ面になる。


「えらくずさんな作戦だな」

 俺も呆れてため息が出る。


「はぁ、そんなこと言うならお前らが作戦を立てろよ」


「それで決行はいつなの?」


「今だよ!」


 五郎がそう言うと右手に黄金の金槌を召喚した。そのままの勢いで鉄柵を黄金の金槌で殴る。


 直後、鉄柵が放電し粘土みたいにうねる。

 流動する鉄が形を変え、鉄門に造り替えられた。


「みたか!これが俺様のチートアイテム“ヘーパイトスの金槌”よ」


「うぉー、すげー!」

「わー、スゴイ!」

 俺とりこがハモりながら感嘆の声を上げる。


 しかし、どうやら今の放電で敵にも気付かれたらしく数名の鎧を着た兵士たちが、無言でこちらに向かってくる。


「おい!気づかれたぞ急げ」

 五郎は俺たちを先導して邸宅へ向かう。


 邸宅のレンガの壁に五郎がなんたらの金槌を打ち付けるとレンガが粉々に砕け穴が空く。


 背後には兵士達が迫っていた。


「おい入るぞ!」

 俺たちが転がり込むように邸宅内に入ると、

 五郎が再び壁を金槌で叩き、砕けた壁が元通りになり穴を防ぐ。


「五郎のチートアイテムってマジで便利だな」

 くそっ、俺もカッコつけないでまともなチートアイテムをお願いしとけばよかった…。


 りこりんの動画配信のために万能タブレットをもらったのに、目当てのりこりんが活動終了したんじゃ意味が無い。


 ふと、隣を見るとりこりんが息を切らして、赤く豪奢ごうしゃな絨毯の上に座り込んでいる。


「運動不足なんじゃないか?」

 俺は嫌味っぽく、りこに言う。


「仕方…ない…じゃない。前世でも…女神になってからも…ほぼ動かなかったんだから」


「なんだ?りこのお嬢は女神だったのか。どおりでキレイだと思った」

 五郎は思った事をストレートに言う性格のようだ。


「な!」

 りこは恥ずかしがって顔を伏せる。


 確かに“りこ”は可愛い。しかし、俺は声を大にして言いたい。3Dモデルの“りこりん”の方が100億倍可愛いと。


 あの銀髪に流れるようにサラサラの髪に薄緑の瞳。黒の魔女っ子衣装に短パンを履き、太ももから覗く絶対領域…。


 俺がりこりんの世界に浸っていると、2人は既に先に進んでいた。

「ちょっと、待ってくださいよ」


「マメ…なんか顔がいつもよりキモかったですよ。なんかいかがわしいことでも考えてたんでしょ」


「なんやマメ坊、こんな時に発情してんなや」


「ちっ、違いますよ」

 とても侵入者とは思えない雰囲気で俺達は転生者よ領主とやらを探し回る。


 邸宅内は魔物の剥製やら銀食器などの高価そうな物が目に付く。ここの転生者はチートアイテムで私腹を肥やしていたのだろう。


 しばらく探索を続け、どこを通ったかも分からなくなっていた頃、広いエントランスホールのような場所にでた。


 …そう言えば邸宅内に侵入してから追手らしい追手は見当たらなかったな。


「全く何とも嘆かわしい。我が屋敷に不逞ふていの輩が忍び込むとは…」

 突如エントランス端の暗がりからブロンドでオカッパの小太りの男性が姿を現した。


「コイツがクソ領主だ」

 五郎はそう吐き捨て領主とやらを睨みつける。


「なんだねチミは?まあ良いとりあえず我が奴隷となれ」

 領主が懐から漆黒に輝く鈴を取り出すと、一振り鳴らしてみせた。


「ほら跪き我が足を舐めよ」

 次の瞬間、五郎が領主の方へゆっくりと歩き出した。


「五郎!」

 声を掛けるが反応が無い。


「なんだね後ろの2人は転生者か」

 五郎も言ってた通りどうやら転生者には洗脳が効かないみたいだ。


 あれ…俺とりこは転生者だが、五郎も転生者って言ってなかったか?


 りこは何かを察しているようで特に焦った様子もなく、五郎の行動を見ているだけだった。


 五郎は領主の前に行くと、

「下衆野郎が!」

 そう言い放ち領主の頭を金槌でぶん殴る。


「ぐぇ!」

 領主はガチョウみたいな声を上げそのまま床に倒れた。


「…なんか、あっけなかったわね」

 りこは気絶している領主の隣に落ちてた漆黒の鈴を持ちあげる。


「なあなあ、チートアイテムって誰でも使えるのか?」

 俺は素朴な疑問を口にする。


「いいえ、それは無理ですね。誰でも使えてしまったら転生者の死後、大量のチートアイテムが横行して、このパルメ大陸が混沌の世界になるわ」


「なーんだ残念」


「マメ坊はそいつの鈴を悪用しようと考えてたのか?」

 五郎がいぶかしげな目で俺を見ている。


「いやいや、これがあれば異世界攻略が便利だと思っただけだよ。でも、そもそもチートアイテムなんか転生者に与えなければこの世界の住人が苦しむことなんざなかったんじゃないか?」


「確かにそうですね。現役の時は私もそこまで考えいませんでした。でも女神が仕事として容易されてる以上、神には何かしらの思惑や益があるんじゃないかしら」

 りこは何やら考え込んでいる。


「まあ、こんなとこで雑談もなんだ…コイツを殺さねえならこのままにはしとけねえ。また目が覚めたら同じ事を繰り返すぜ」 

 五郎は気絶してる領主を指差す。


「そうですね…鈴だけ取り上げてもどうせ手元に召喚し直されるでしょうし」


「そうだ!名案がある。とりあえず屋敷に捕らえられている奴らを解放しよう」

 五郎に促されるまま俺たちは屋敷内の人々を解放していった。



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