第12話 オルバ山の巫女
俺たちは手分けして屋敷内の洗脳者を外に逃がした。どうやら領主の手元から鈴が離れれば洗脳は解けるようだ。
捕らえられていた者の中には、女性の獣族や村娘たちがいかがわしい衣装を着せられている者もいた。
本音を言うと少し羨ましいとも思ったのは、ここだけの話しにしといてくれ。
「よし!これで全員だな」
「けっこういたな」
屋敷内には50名ほど洗脳された者が潜んでいた。
「ゲス野郎が…」
りこは女性たちの格好を見て、彼女たちが受けた仕打ちを想像したようで、悪態をつく。
羨ましいなんて口に出さなくて良かった。
とりあえず、彼女たちには屋敷内にあった布類を羽織らせておいた。
「さてと、取りこぼしはないな」
五郎が指を鳴らし右手に黄金の金槌を召喚する。
五郎は屋敷の扉に金槌を打ち込む。
次の瞬間、屋敷全体が放電して変形する。
「本来はこれで解決してたんだが、屋敷内に人が大勢いた場合、変形に巻き込まれて怪我をする可能性があったからな」
五郎がそう説明している最中も屋敷は変形を続ける。
「よし!これでどうだ」
放電が収まると屋敷全体が透明で正方形の牢獄になっていた。
「二重に囲ってあるから、防音仕様だぜ。食事はここから入れて、こっちのレバーを引けばいい」
解放された人々の中にオルバ村の村長がいたらしく、五郎が牢獄の仕組みを説明していた。
領主が檻の中で壁を叩きながら何やら泣きながら叫んでいるが何も聞こえ無い。確かに防音は万全のようだ。
「生かすも殺すもあんたらの好きにしてくれ」
五郎はそう言い残し俺達の元へ近付いてきた。
「今回、俺らの助けなんかいらなかったんじゃないか?五郎一人で十分だった気が…」
「そうですね」
俺とりこは何も出来なかった事に意気消沈する。
「いやいやそんな事ねえさ。万が一戦闘になればお前らもチートアイテムで助けてくれたんだろ?」
「私は元女神だったから不老不死のチート能力を持ってるだけよ。魔法はもう使えないし」
「俺も動画が観れるタブレットだけなんだけど…」
自分の役立たずさを再認識させられた。
てか、女神になると不老不死になるのか。
確かにアリスは1000年もの間、女神をしてたって言ってたもんな。
「そうか、まあ細けえ事は気にすんな、ここまで手伝ってもらったのも事実だしお前らの家を改築してやるよ」
「ホントか!ありがとう」
「ありがとうございます」
俺とりこは揃って礼を言う。
俺達が盛り上がっていると、オルバ村の村長がこちらに歩いてきた。
「あなた方は村の英雄です。何かお困りごとがあればいつでも村に立ち寄って下さい」
そう言われ俺は村八分にされていた事を思い出した。
「あのー、俺はオルバ村の山に住んでる者何だけど気軽に立ち寄ってもいいんですか?」
すると村長は一瞬、驚いたような表情を見せる。
「そうでしたが…あなたがあの時の巫女様でしたか、大きくなられました」
「巫女様?」
「あっ、そうか!マメオは村のしきたりを知らないんだったね。御婆様もあんな状態だったから…」
どうやらりこも事情を知っているようだ。
…でも五郎は爪弾き者って言ってたし。
は五郎の方を見やる。
「あん…何だよ?俺はもともと、よそもんだから詳しくは知らねえぞ」
なるほど…いろいろと誤解していたようだ。
俺は村長から村のしきたりをざっと訊いた。
オルバ村の山には魔が封印されているらしく、
1000年に一度、空から巫女が舞い降り封印を張り直してくれるそうだ。
俺は転生時、赤子の状態で空から舞い降りてきたらしい。
てか、封印ってどうやんだよ。
まあ、ありがちな村のしきたりだろうから特に気にしなくてもいいんだろうけど。
更に衝撃だったのが、ばあちゃんは本当の祖母ではなく、巫女の世話係だったらしい。
「お世話役のタバラがそのような状態だったとは…申し訳ございませんでした。それなら我が娘のメルルを世話役としてお連れ下さい」
そう言って村長はメイド服を領主に着させられていた獣人を差し出した。
栗色の耳と尻尾に猫目の美少女だ。
「巫女様のお世話は村長の家系が代々務めてまいりました。家の娘も巫女様に仕えるべく育ててきましたので、
村長はそう言って深々と頭を下げる。
村長は人間だよな…娘さんが獣人ってことは奥さんは獣人かな。
そんな事を考えていると村長の娘が自己紹介を始めた。
「メルルと申しますにゃ。ご主人様にゃんにゃりとお申し付け下さいにゃ」
はい!満点!
俺は心の中でそう叫ぶ。…てか下の世話って何だ?いかがわしい方へと妄想が
「いだっ!」
何故か、りこに足を踏まれた。
「あらごめんなさい。足が滑ってしまいましたわ」
りこはわざとらしく棒読みで話す。
…何なんだいったい。
「何にせよ一件落着だ。さっさと山に向かうぞ」
村長や村人たちに見送られ俺たちはその場を後にした。
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