第36話 霧の町
立ち込める霧を抜けた先には、
赤レンガを基調として造られた、寂れた港町が広がっていた。閑散としていて、町中を出歩いている人はまばらだ。
町の周囲は濃霧に覆われていて、日光も遮られているためまだ日が昇っているというのに辺りは薄暗い。
「おやおや珍しいのう。こんな忘れられた町にお客さんがくるとは…」
「おっ、ミネルヴァの婆さん、元気だったか!」
隆二は親しげに痩身で小柄な老婆へ挨拶をする。
「おや…?アーサー王子ではありませんか。大きゅうなられましたな」
「俺はもうアーサーじゃないんだ。今は流浪の身さ」
「アーサー様、皆さんが置いてけぼりになってますよ」
「おっ、そうだったな。すまんすまん。てかイリーナもいい加減アーサーは止めてくれ」
隆二は改まって俺たちの方へ向き直る。
「こちらは先々代の宮廷魔術師のミネルヴァだ」
俺たちは隆二の促しで軽く自己紹介を済ませる。
「私が王宮にお務めしてたのはかれこれ150年も昔の話になりますゆえ、過去の肩書に過ぎませぬ。今はサルーバの町長をしております」
150年前?…この老婆はいったい何歳なのだろうか。
「俺が訪れた数年前と比べて町の雰囲気も随分変わったようだな」
「いろいろ立て込んでおりまして…とりあえず立ち話もなんですから、私の自宅までご案内します」
こうして、俺たちは海辺に佇む灯台へと案内された。
「町長なのにどうして灯台に住んでるのよ?」
アリスは皆が気になっているであろう事を真っ先に質問する。
「私は
「かいせいまどうし?」
聞き馴染みのない言葉だ。俺はこの世界の魔法に関してはとんと疎い。りこという例外もあるが転生者は魔法が使えないため、学んでも意味が無いからだ。
「この世界では各属性魔法のどれかを上級まで収めると属性毎に魔導師の称号を得られるのです。…でも海星魔法なんて聞いたことないですね」
りこは顎に人差し指を添えなにやら考え込んでいる。
「海星魔法は今では失われた古代魔法の一種ですから」
「へぇーそうなんだ」
ミネルヴァさんの説明で、アリスは納得したようだが、コイツは1000年もの女神生活でいったい何を学んできたのやら。
「とりあえず前座はこれぐらいにして本題に入る。ミネルヴァ、頼みがある。ここのアリスとりこに魔法を教えてほしい」
「はて…どうして突然そのような事を?」
隆二は今までの経緯を掻い摘んで説明し、足りない部分は俺が補足を入れる。
その間、既に話に飽きたレメリアは猫じゃらしの様なものを振り回し、それにつられたメルルと部屋の片隅で遊んでいた。
「なるほどのう。オルバ山の…魔ですか。そう言えばそのような言い伝えがあった気が…。そうですなお手伝いしたいのは山々ですが今は…」
ミネルヴァはそこまで話して言い淀む。
「村の状況と何か関係があるんだな」
「そうですな。実はひと月ほど前に海上に突如ダンジョンが出現しましての。そこから
知らない魔物だな。
動画アプリを起動してヤルモルとやらの映像を確認する。
「なるほどね…」
映像を観る限りだと30cmぐらいの大きさで、なんというか紫色の
10本の足先は
「奴らは霧を泳いで空をに飛びます。あのダンジョンが出現してから霧の日には
「それで何か手は打ってるのか?」
「はい、弟子2人と護衛数名がダンジョンに潜ってるのですが連絡が途絶え数日が経ちました。助けに行こうにも町民を守らねばなりませんのでどうしたものかと考えあぐねていたところです」
「これは俺たちが助けに行く流れだな」
隆二も同じことを思っていたようで頷く。
「なら俺とレメリアと隆二、イリーナで助けに向かおう」
「はい…」
「にゃ?私も行くにゃ」
気付けばメルルとレメリアも会話に参加していた。
「メルルはダメだ。力はあるが戦闘経験はほぼ無いだろ」
「イヤにゃー」
メルルは床に寝そべり5歳児のように駄々をこねる。
「ミネルヴァ、余裕がある時で構わないからアリスとりこの修行を頼む。アリスは火属性でりこは土属性が得意だ」
「隆二さん、そんな事も分かるんですか?」
りこが感心したように声を漏らす。
「俺の目はちと特殊でな。マナの流れが見えるんだ」
俺がアーサーだった頃はそんなの見えなかったぞ。
アーサーの体になってからの年季の差か?
「アーサー様、それと皆様、ありがとうございます。お二人方は責任を持ってお育て致します」
ミネルヴァは深々と頭を下げる。
「メルル…お留守番よろしく」
レメリアは嫌味ったらしくメルルを煽る。
「ずるいにゃ。私も行きたいにゃ」
「メルル。皆のお世話が出来るのはお前しかいないんだ、頼む」
「むぅ…マメオ様がそこまで言うなら仕方にゃいにゃ」
「あんた、だいぶメルルの扱いが上手くなったわね」
アリスはメルルに聞こえないように話す。
「ははは…」
「ほら、お前ら1時間後に出発するぞ!」
「えっ、今から行くのか?」
「命が掛かってるんだ。早いほうがいいだろ」
朝から歩きっぱなしで、既に日は落ちていた。
元ニートに長時間労働はきつい。
「いだっ!」
ため息をついていると背中に衝撃が走る。
「ほら、しっかりなさい!」
アリスに背中を叩かれたようで、喝を入れられる。
「わかったよ。りこ、メルル。アリスを頼んだぞ」
「手が掛かる先輩ですから、言われなくても」
「仕方にゃいにゃ」
「なによ二人して!」
こうして俺たちは初のダンジョンに挑戦する事となった。
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