第41話 第2ラウンド

 蘇生魔法の光が消えシーラさんの死に顔が心なしか生気を帯びた気がする。


「ここから目覚めるかどうかは運と彼女の気力次第です」


「すみません。ありがとうございます」

 ステラさんは涙ながら何度もイリーナに頭を下げる。


「いえいえ…まだ助かるかどうかは分かりませんから。アーサー様、これからどうします?」


「それよりも誰かレメリアの麻痺を解除できないか?」

 レメリアは浮烏賊ヤルモルの麻痺毒により声すら出せない。早く何とかしないと。


「それよりもってなによ。麻痺回復魔法なんて使えないわ」

 イリーナは話しを遮られたせいか少し苛立ちを見せる。


「すみません。私も回復魔法は収めていません」

 ステラは申し訳無さそうに頭を下げる。


「話の腰を折って悪かった。なら今のメンツで作戦を立てるか」

 まったくレメリアだって大事な戦力、いや仲間なのに…。


「ステラさん。この結界ってあとどれくらい保つんだ?」


「ええっと…私の星魔法も古代魔法なので日に一度しか発動できません。この日に一度というのが厳密に言うと、次に同じ魔法を唱えれるようになるまで丸一日かかるんです。この結界…星の殻は最大でも1日しか維持できず、再び使用するには1日空けなければなりません」


「リキャストが1日かかるのはわかった。俺が訊きたいのは猶予がどれだけあるかだ」


「す、すみません。シーラがやられてから無我夢中で…ここに逃げ込みましたから。おおよそですが1時間も無いかもしれません」


「ここに逃げ込んだのはいいがすぐにお暇しないといけなさそうだな。隆二どうするよ?」


「そうだな…とりあえず俺と真芽夫まめおで奴を引き付ける。ムーアはシーラさんとレメリアを抱えてくれ。ステラさんとイリーナもダンジョンから脱出してくれ」


「そんなの駄目です!」

「そうですよ。わたくしも戦います。今、水月烏賊ブルームーンから逃げても、サルーバの町はいずれダンジョンに取り込まれます」

 イリーナとステラの意見がここで一致し隆二に反論する。


「ダンジョンに取り込まれる?」


「はい…ダンジョンのボスの力が増大するに連れダンジョン自体も大きくなります」

 俺の疑問にステラさんが答える。


「確かにまだ成長しきれていない段階で水月烏賊ブルームーンを仕留めたいところだが、今挑んでも無駄死にだ。それなら一旦退いて態勢を立て直した方がいい。俺と真芽夫で挑めば犠牲者は真芽夫だけで済むから安心しろ」

 

「俺が死ぬ前提で話すなよ。なあ隆二…少し気になったんだが、水月烏賊ブルームーンってもしかして火が苦手なんじゃないか?」


「どうしてそう思う?」


「あの時、隆二は吹き飛ばされて見てなかったんだが…!?」

 会話の途中で突然、周囲の白光が輝きを失い、元の洞窟の背景に戻った。そして、水月烏賊ブルームーンの蒼く光る巨体が視界に入る。


「すみません。魔法が解けたみたいです」

 薄暗い洞窟内にステラさんの申し訳無さそうな声が反響する。


「まったく大事な時に、結局、1時間も猶予は無かったか。この中で炎魔法が使える奴はいないか?」


 隆二の問いかけに誰も言葉を返す者はいなかった。


「仕方ない。なら予定通り俺が囮になる。みんな逃げろ!」


 そう言って隆二は水月烏賊ブルームーンに向かって突っ込む。


「あれ…俺も逃げていいのか?」


「ああ、真芽夫はいても犬死にするだけだ。俺も適当に相手をしたらずらかるから気にするな!」


 隆二は最初っから俺を逃がすつもりだったのだ。


 何故か前前前世で隆二の誘いを断ったあの日の出来事が脳裏を過る。

 くそっ!なんであの時の事を思い出す。


 俺に取ってはトラウマだ。隆二を見限り距離を置いてしまった。


 ダメだ!ここで隆二だけを行かせたら、また後悔に苛まれる。


 俺はすぐに隆二の後に続いた。


「わ、私も!」

 イリーナも後に続こうとしたが…。


「イリーナ!」

 隆二の怒号が広い洞窟内を駆け巡った。

 隆二は後ろを振り向きイリーナに視線を送る。


 どこか愁いを帯びているその表情にはイリーナにしか伝わらない意味が込められていたのか、俺がその意味を窺い知ることはできなかった。


 イリーナはそのまま顔を伏せレメリアとシーラさんを担いでいるムーア、そしてステラさんと共に洞窟の壁伝いに走り出口を目指す。


 水月烏賊ブルームーンは貴重な餌を逃すまいとイリーナたちに目掛けて、無数の足先をもりのように変形させ伸ばしてきた。


 すかさず隆二は自身のランタンを水月烏賊ブルームーンの伸ばした足目掛けて投げつける。


 すると、水月烏賊ブルームーンは奇っ怪な声を上げ、伸ばした足は主導権を失ったように水に還った。


「真芽夫!珍しく冴えてるじゃねえか」


「やっぱり火が弱点か。でもマナを吸収するなら火でも吸収できそうな気もするが」


「細かいことは後にしろ。これで残るランタンは真芽夫、お前の物だけだ。使い所を見極めろよ」


「わかってる!」


 俺と隆二は二手に別れて水月烏賊ブルームーン狙いを分散させる。

 何か作戦があるわけではないが…とにかくみんなが逃げる時間を稼がないと。


 辺りには再び浮烏賊ヤルモルが湧き出てきた。

 ふぅー、ここからが正念場だ。



















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