第9話 虚構と現実
日もすっかり落ち、空には星が散りばめられている。
2人でヤバリの床に寝転がる。 ハンモック程ではないが、かなり柔らかく若干中心に向かって
隣を見ると、りこさんの黒髪が夜空に溶け、黒く大きな瞳に星空が反射している。
良い雰囲気に呑まれながら、りこさんに話しかける。別に下心はない…と思う。
「今晩は明るい夜ですね」
「そうですね。こんな風にゆっくりしたのはいつ以来ですかね」
「りこさんは毎日配信してましたから…」 俺はそう言って、しまったと言葉を止めた。
「そう言えばマメオさんはリスナーさんでしたね。私の炎上騒動を知ってどう思いました?」
りこさんの表情は窺えなかったが、俺は本音で答えようと思った。
何故かは分からないが、ここで
「そうですね。本音を言うと少しショックでした。でもその時気付いたんですけど…俺が崇拝してるのは“りこりん”であって、“りこさん”では無いですから、中の人であるりこさんがどう過ごしていようとそこまで引きずる事はないです」
そう言うと隣から啜り泣く声が聞こえてきた。
俺はりこさんの顔を見れずにただだだ泣き終えるのを待つだけだった。
しばらくするとりこさんの方から話し掛けてきた。
「マメオさんは正直ですね。私は正直な本音がバレてしまったから炎上したんです。でも、私の心無い言葉で傷付いたリスナーさんもたくさんいたから当然ですよね」
「さっきは“りこりん”と“りこさん”は別人って言ったんですけど、全部りこさんなんだと思います。上手く言えないですけど、僕らもVTuberのりこさんしか知らないですから。当然、リアルの一面もあるでしょう。僕らはその一面を知ったに過ぎません」
「マメオさんは大人ですね」
「まあ、実際、転生後の人生も含めたら55年ぐらい生きてますから」
「私だって30…」
りこさんはそう言いかけて、俺の横腹を軽く叩いた。
「いたっ!暴力的な一面が出でますよ」
「ふふふ、マメオさんは優しいですね。女神って実は担当の転生者の行動を監視できるんですけど、マメオさんとアリス先輩の生活を見てて、何だか羨ましくなって私も来たんです」
「えっ…全部見られてたんですか!」
俺はその言葉を聞いて血の気がさっと引いた。
「マメオさんは少しキモいだけなので安心してください。世の中にはもっとハイレベルな変態がいるんですから」
どさくさに紛れてキモいと言われた気がしたが、全て見られていたショックの方が大きくて気にもならない。
「それなら、アリスも俺の全部を観てたって事か」
「どうでしょうね。アリス先輩は不真面目ですから、キモオタの生態よりアニメを観てたんじゃないですか」
「それって俺も含まれてます?」
「どうでしょうか。キモいのは間違いないですが…」
「やっぱりキモいのか」
次の瞬間、りこさんは急に声のトーンが真面目になる。
「マメオさんって根は真面目なんだと思います。前世の内容も閲覧しましたが、貴方は何も悪くないです。その後、引き籠ってご両親に迷惑を掛けたのはいただけないですが…」
「でも、俺は…友達を救えなかった」
「そうですね。残酷な言い方をしますがお友達は自らその道を選んだんです。でもマメオさんは真面目だったからこそ、お友達を救えなかった自分を責め、2度目の人生でも潔癖なまでに誠実さを求めた」
「そうかもしれない…
りこりんは俺が話し終えるのを待って、深呼吸をする。
「もう一度いいます。マメオさんは悪くないです。それ以上自分を責めないで下さい」
りこさんがそこまで言うと俺の目からとめどなく涙が溢れてきた。
俺はアイツから許してほしかったのかもしれない。道を踏み外そうとしているアイツを止めれなかったことを…。
「私だけ泣かされるのはフェアじゃないですからお返しです」
そう言って、ひとしきり泣く俺をりこさんが優しく頭を撫でてくれた。
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