第3話 序列

「ツバキ、刀は……常に納刀して、避けながら斬る。これを意識しないとだめ」


 アーロンはツバキにジト目を向けながらそう言う。


「うへぇ、教官が増えて大変だよぉ」


「無駄口叩いてないで、さっさとやる」


 アルデンがイヴと一緒にダンジョン攻略に専念することになったため、代わりにアーロンが教官としてツバキたちを指南していた。


「じゃあ自分、D級の新人たちの稽古つけてこいって、コフに言われてるから、じゃあね。それから、修行、手抜いたら、処すから」


「ひぇっ」


 冷え切った紅い猫目に睨まれてツバキは萎縮し、さっきまで途轍もない運動をして身体がほてってるはずなのに妙な寒気を感じた。


 それにしても、先ほどアーロンが言っていた言葉が気になるツバキ。


「D級って一番弱いところじゃん……大丈夫かな」


 稽古とか言って、粉微塵に壊しそう。


「土俵が数段間違ってる気がする……」


 ツバキはアーロンに言われた通りちゃんと修練しながらも、大丈夫かなあと不安になった。


「それならロアちゃんが行った方が良かったんじゃないかなぁ」


 基礎的な体術だけで自分よりも強いロア。


 めちゃくちゃ勤勉だし、教職にもついてたと聞いたから教えるのも得意そう。


 片言で、身体能力を含めた才能全振りのアーロンよりも良いんじゃ……


 そんなことを思うツバキだったが、



「カイン嬢、まだ終わって無いです。やり直してください」


 次々とカインに鬼畜な訓練を無表情で強いるロアを見て、なまけものの自分の方が適任じゃないかと思えてくるツバキだった。


______

____

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 前まで序列37位にいた新人を育成する教官を勤めていたロベールは現在10位になっている。


 一般的なロングソード使いである彼は、そこまでの才能は無く、最も基礎的な技のみで中層三十階を突破している。


 この才能が絶対的な世界で腐らず生き抜いてきた英傑だ。


 イヴ曰く、ロベールはサーニャの成功した姿だと言っており、性別も雰囲気も異なるが、多大な劣等感に押しつぶされて、それでも前に進んだ漢だ……と。


 

 

「弱い、次」


 そんなロベールは、見てしまった。


 龍の血という絶対的な才能を有し、尚且つ努力も怠らない超人を……



 アーロン=デュラ。

 彼女は特別だった。


 ロベールは、彼女とは天と地ほどに差があるのだと、彼女の動きを見て理解させられた。


 あまりにも遠いのだ。


 自分がこの先、十年二十年修練を積んだとしても辿り着けない領域なのだと、ロベールは思うのだ。


「遅い、次」


 アーロンの容姿は、成熟した女性、というには少しばかり幼く、可憐という言葉がこの上なく似合う。


 そんな彼女を見て、力量を見極められる者がいるならば、教えて欲しい。


 アーロンを舐めてかかった者たちは、刹那に地面に叩きつけられていく。


 得意な刀は使わずに、組み手や体術を用いて。


「綺麗……」


 アーロンの体捌きを見て一人の少女が、そう言葉を吐露した。


 柔軟なその身体で、脚を真上に突き上げて投げ飛ばすその様は、芸術と呼んでもいいものだった。


「遠慮せず、かかってくると良い。自分が女性だからと、気を使うことは、しなくていい」


 凛として、捩じ伏せる。


「ただ、夢中に……無我に、無心に、殺し合おう」


 アーロンの大好きな師であるヤタベエの言葉を反芻して……


「そうすれば、見えてくるはず」


 


 この日、彼らはアーロンという頂点を見た。


 最初はその容姿に舐めてかかったが、振り返ってみればとても愚かな行為だったと皆後悔した。


 ただ、彼らには勘違いしていることが一つある。


 それは、アーロンは体術が最も得意だということ。


 そんな彼らが、アーロンが最も得意な物は刀を使った戦いだと知ったら、一体どんな顔をするだろうか……と。


 

 後日、彼らは嫌と言うほど理解した。


 そしてこう叫びたくなる。


 反則だろ、と。







◆◇







・戦闘職A級序列


 1位.イヴ・レナク=サタナエラ


 2位.アルデン


 3位.アーロン=デュラ


 4位.エイフィ=コーラン


 5位.アリア=トネリコ


 6位.ツバキ


 7位.カルメン=ノーザン


 8位.ロア=ルーネイル


 9位.カイン



・生産職A級序列


 1位.クロナ=アーハイル


 2位.ノルン=シエロト


 3位.ガクテツ


 4位.サラバン=ガレット


 5位.ロヴェル=ファイ・ルクシャナ


 6位.ヨルナ=アーハイル


 7位.リィマ


 8位.サリカ=クルロガー


 9位.ロキ

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