第25話 掲示板5

 地獄だ。


 彼ら彼女らは、此処をそう捉えていた。


 特に魔物も絶滅し、戦争もなくなった平和なエスタの世界を生きた戦ったこともない者たちは、地獄と呼称するのも生ぬるい。

 

「私は女なんだから戦わなくても良いじゃ無い!それに働きたくなんて無いわ!」


 それが許された世界に生きた彼ら彼女らにとって、ダンジョンに強制的に行かされるというものは認め難いものだった。


 此処はのらりくらりと生きる場所ではない。


 良い生活がしたければ、必死に戦い、必死に働かなくてはいけない完全な実力主義の世界だ。


「ひい!助けて!助けてくれ!」


「ちんたらすんな!死にてえのか!」


 そうして、絶えず何人も死んでいく。


 文字通り必死に生きなくては、今日明日死ぬことも、なんらおかしくない。


「こんなの、こんなの死者への冒とk……」


「ち、口を動かす前に身体を動かせっつーの」


 ダンジョン表層十階では既に数十人の死者が出ていて、このペースで死者が出たらもうすぐ三桁に到達する。


 生還石の数も限られ、それらは死なすのが惜しい者に配られるのが大半のため、こうして無能な者たちは排除されていくのである。


「命を、なんだと思ってるんだ……」



 イヴよりも前の時代の者たちは死ぬことが当たり前だったが故に刹那主義が多く、命という価値よりも、やりたいこと、やらなくちゃいけないことを命を賭して突き進む者が多い。


 特にイヴの時代の人間の平均寿命は三十半ばくらいだ。


 生きるということへの覚悟は、ぬるま湯を生きてきた彼らとは桁が違う。


 それが褒められるべきかは置いておくとして、此処ではそれが生存競争に於いて優秀だということは間違いない。


「なんであんたらは、戦えるんだ……?」


「それが役割だからだ。そんなことを考えている暇があったら明日生き残ることを考えろ」



 生き物を殺すのが苦手。


 血を見るのが苦手。


 持病があるから動けない。


 そういう暴力が嫌だ。



 そんなことを言ってた彼らは今、とっくのとうに死んでいった。


「余裕が無いのにあーだこーだ考えるから、更に余裕が無くなるんだよ」


 男はそう言って、此処に来たばかりの新人に剣を渡した。


「振り方なら教えてやる。よく見とけよ」


 そうして、ただただ、真っ直ぐ揺らぐことなく振り下ろした。


 それはとても地味で、一見なんの凄さも感じられない。


 しかし、やってみると理解する。


 一切ぶれることなく剣を振るう難しさに。


「そうじゃねえ、もっとこうだ!」


 男は、新人の腕と腰を支えながら指南する。

 そうして、一日中稽古に明け暮れた。




「今日は教えてくれて、ありがとう」


「今日は、じゃねえよ、明日も明後日も、どれだけ日が経っても終わんねえよ」


 それが暗に、ずっと稽古してやるから死ぬんじゃねえぞと言っているようで、その男なりの優しさがあった。


「分かった……」






 そうして新人はダンジョンに向かい、死んだ。


 もう何回目かも分からない。


「俺よりも歳が下のやつが、簡単に死ぬなよ……」


 序列37位にロベールは態々わざわざD級拠点に降りて彼らを指導する役目を買って出たが、幾度にわたり自分が教えた彼らが死んでいくことへの無力感に、力なく言葉を吐き出した。


 




◆◇





 


001:Uri

 最近キャラのデスが多くて、どう対処した方がいいですか?



 002:名無しのプレイヤーさん

 攻略が進んでるならデス数は放置でもいいよ

 進んでなければ、育成に注力したほうがいいけどね!



 003:名無しのプレイヤーさん

 どうしてもノーデスに拘るならダンジョンに行かせない手もあるけど、そうした場合キャラの管理が凄まじく大変になるから、これはお勧めしない



 004:名無しのプレイヤーさん

 一番良いのはギルド入ることじゃね?



 005:シィロン

 俺んとこ来る?



 006:名無しのプレイヤーさん

 シィロンさん……何でこんなとこにいるんですかね



 007:名無しのプレイヤーさん

 わぁ、深層プレイヤーだ……



 008:Uri

 シィロンさんお久しぶりです、この前は色々教えてくれてありがとうございました


 それからギルドってどういうものなんですか?



 009:シィロン

 ギルドっていうのは、サーバー同士を繋ぐ連合みたいなもので、アイテムとかギルメン同士で交換したり、キャラをギルドに所属しているプレイヤーに送り出したりできる

 


 010:名無しのプレイヤーさん

 たまにキャラを強制的に交換させようとしてくる悪辣プレイヤーいるから気をつけてね。


 まあシィロンさんのとこは大丈夫だとは思うけど



 011:名無しのプレイヤーさん

 というかシィロンさんが所属してるギルドってランキング一位のAlephさんがいる所だよね……



 012:名無しのプレイヤーさん

 確か深層百七十二階だっけ……


 えげつないな



 013:名無しのプレイヤーさん

 俺も入りたい



 014:Uri

 是非入らせてください



 015:シィロン

 お、よかった。

 

 じゃあホームからギルドってところ開いて、

『白昼夢』って検索して申請送っておいて


 

 016:名無しのプレイヤーさん

 ユーリはんワイらの所来るんか

 


 017:名無しのプレイヤーさん

 ≫016 この前エトラちゃん失ってた匿名の深層プレイヤーじゃんか……


 特定できるから意味なしてないけど



 018:月の輪

 せやな……

 というか、傷えぐらんといてや



 019:名無しのプレイヤーさん

 ≫017 モラル拾ったんだけどいる?



 020:名無しのプレイヤーさん

 ≫019 丁度足りなかったから貰っとく



 021:月の輪

 それじゃユーリはん、これからよろしゅうに



 022:Uri

 よろしくお願いします

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