第5話 鬼の所業

 生産職の愚者アレフが増えて施設や装備も整い、着々と表層十階攻略の準備をしていく。


「ジャンヌ、これを持ってけ」


「これは……?」


「生還石。クエスト未達成でもペナルティを回避するためのアイテムらしい」


 ツァディーという仲介者アルカナからいつのまにか支給されていたもので、使い方を確認した俺はジャンヌに渡した。


「そんなものが……」


 たらればの話にはなってしまうが、サーニャの時に、これが欲しかった。


「生きて帰ってこい」


「相分かった」


 コフの指示によりジャンヌはイヴ無しで初の九階に行くことになり、ジャンヌにとってと不甲斐ない思いをしたオーガの集落のでの攻防だ。


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「はああ!!」


「ガァゥア!?」


 私はオーガに先手必勝の一撃食らわせた。


 今回はオーガのような耐久力のある魔物に勝つため以前のようなレイピアではなく、リーチもあり高い威力を誇るツヴァイヘンダーを使っている。


 だが、まだ慣れていない部分も大きく、特にオーガに試すのは初めてだ。


 落ち着け。


 判断を迅速に、こんな相手よりいつも稽古しているイヴ殿の方が圧倒的に強い。


 しかし、そうは思っても連携が取れないのなら意味がないのだ。


 アリアとイスラはオーガを相手に焦っている。


 当たり前だ。


 自分の三倍以上の大きさの相手に畏怖しない方が異常だ。


「くそっ!」


「いや、こないで!」


 ジャンヌはまだ味方も含めた立ち回りというものができていない。


 そんな芸当イヴにしかできない。


 次第に増えてきたオーガにジリ貧になり、ついには囲まれてしまい、ここにきて私たちは初めて死を明確に意識した。


 どうすればいいか分からない。


 ジャンヌは考える、こんな時イヴ殿がいれば……と。


 私にはイヴ殿のような明確な指示出しができない。


 一体、どうすれば……


「グォオオオアアアアアアアア!!!!!!」


「い、いやああ!」


 アリアの悲鳴に一瞬気を取られたジャンヌは目の前まで攻撃が迫っていることに気が付かず、横腹に棍棒がめり込むようにして大きく弾き飛ばされた。


「がっ!?」


 ジャンヌは苦悶の表情を浮かべ、地面に這いつくばりその隙を逃さずオーガは追撃してくる。


 思考は鮮明。


 それなのに言うことを聞かないこの体への無力感。


 避けられる力が残っていない。


 そんな状況を見たアリアは精霊召喚でなんとか時間を稼ごうとするが、彼らには全くと言っていいほどに効かなかった。


「これでもくらえってんだ!」


「グギァアアアアアアア!!!!????」

 

 矢が私の目の前にいたオーガの頭を貫いた。


「おい! 動けるか!」


「すまない…肋が折れた」


 そう言うが、どうみても肋が折れた程度ではないほどには甚大な怪我を負っている。


 血が流れすぎて視界がぼやけてくるが、ジャンヌはなんとか拳に力を込めて、剣を地面に突き刺しなんとか立ち上がろうとした……


 その瞬間だ。


「無理すんな、撤退するぞ!」


 イスラの声がし、そちらの方に視線を向けるジャンヌ。


 イスラはアリアを急いで担いで立ちあがろうとするジャンヌを背負ってなんとかオーガの方位人から脱却し撤退する。


 イスラにはここにいる最年長としての意地とこの二人を守るという役目があったから。


「イスラ殿、無理するな……」


 浅い息を吐きながらジャンヌはイスラにそう言う。


「う、私が足止めします……」


 そしてアリアも何とか役に立つ為に残された魔力で精霊を呼び氷の壁を展開した。


 しかし、何度もその氷の壁は破られているをアリアは知っているので、恐らく持って十数秒だと推測する。


 ここで死んだら、終わりだ。


 だからジャンヌは言った。


「おい、私をおろせ」


「だめだ」


「このままでは全員死んでしまう!」


数十体のオーガたちが、氷の壁を壊し凄まじい怒号と共にこちらを追ってくる。


「はあ、はあ、くそ、もう少し、もう少しだけ…」


 そして、ゲートまであと僅か。


 頼む、間に合ってくれ……


 ただひたすらに、走り続けた。


 イスラはとにかく投げ出したい気持ちでいっぱいだった。


 もう楽になりたい。


 そんな精神状態でもイスラはとにかく走った。


 足がもつれそうになる。


 血が目に垂れてきて視界が塞がれて、それでも走った。


「見えたぞ! ゲートだ!」


 そうして三人はボロボロになりながらも帰還した。


 ゲートを潜った瞬間、傷が癒えていく。


 露出した骨、抉れた血肉も再生していって、元々怪我なんて無かったかのようで……


 生還石が割れ、粉々になった。





◆◇





 それから三人は九階で毎日死にかける日々を送った。


 地獄だった。


 何度も何度も死にかけて、ボロボロになって帰る。


 三人に苦痛耐性のスキルが芽生えるほどには過酷で、いつ死ぬかも分からない。


 ただ、最近ではレベルが上がってきて全体的に強くなっていて怪我することも減ってきたジャンヌたち。


 もう少しで攻略できそうになり、漸く希望も見えてきた。


 しかしアリアやイスラは既にレベルが打ち止めになっていて、劇的に強くなれることは無くなり地道にスキルの熟練度や連携プレーを上達させるしかなかった。


「ジャンヌ嬢、アリア嬢、イスラ氏、防具と武器を新調したので、付けてみてください」


 最近この世界に来た十人の生産職のうちの一人、鍛冶屋のクロナ=アーハイルは三人にそんな声をかけた。


 クロナはこの世界に来てから三人の装備を修繕する日々に明け暮れている。


 三人はこの拠点に戻ってくると怪我が無くなって身体は元通りになっているけど、防具を見ると血がべっとりとこびりついていて、どんな怪我を負ったのか鮮明に分かる。


 それ故に何度も歯痒い思いをしながらも、自分の技術を余すことなく使って、彼女たちが生きて帰ることを願った。


「いつも助かるクロナ殿」


「ボク達はこれが仕事ですから」


にこりとはにかむクロナ。


誰かを守る武器を作るのが、クロナの鍛冶屋としての矜持きょうじであり、彼女達が生きて帰ってくることを願って鋼を打つ。


それがこの世界での僕の役割だと思うから。


______

____

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「クロナ姉、この革防具の金具の部分お願いっす」


「了解です」


「あの人達帰ってこれるっすかねえ……」


「ヨルナ、縁起でもないこと言わないでください」


姉のクロナと妹のヨルナは喋りながらも一切のミスなく作業を進めていった。





◆◇





 訓練場で反響する金属がぶつかり合う音。


 それは一切鳴り止むことは無く、二人の影が縦横無尽に攻防を繰り返していた。


「アルデン、やるじゃねえか」


 本当に劇的に強くなっているアルデンに俺はそう言った。


「うす!」


 もはや初期とは比べられないくらい真人間になったアルデンだが、強くなることに貪欲で、物怖じしない性格、そして何よりも戦いへの才能があった。


ーーーーゴォオオン!


 凄まじい風切音と共に大きな刃が飛来する。


 俺はそれを完璧に受け流そうとするが、その速さを見誤ってしっかりと受け切ってしまった。


 これじゃあアルデンの攻撃を見切れてないと言ってるようなもんで自分の爪が甘かったと認識し、素直にアルデンを褒める。


「お前の破壊力凄まじいな」


「そう言いながら片腕で真正面から防がれると釈然としないんすけど姐さん」


 弓矢のように放たれる大剣の一撃。


 以前はオーガにも太刀打ちできなかったアルデンだが今では俺のように一撃で屠れるほどには強くなった。


 着々と表層十階攻略への準備が整っていく。


「後はあいつら次第だが、何かあったらお前が守ってやれ」


「うす」



 表層十階は二手に別れることが必要だとコフから聞いている。


 だから俺一人とそれ以外、アルデン、ジャンヌ、イスラ、アリアの四人で別れないといけないらしい。



 全員技術の練度は上がってきていて、後は連携だ。


 俺は四対一で真剣勝負をした。


 この世界ではダンジョン以外で怪我を負っても回復するため、死ぬ寸前を見極めて俺は全力で彼女たちを叩き潰す。


 アリアに怖いと流れてしまったがこれは致し方ないのであることをいつか理解して欲しい。



 そして、表層十階の攻略を命じられた。


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 生贄として召喚された愚者アレフ


 十階がどんなクエストなのか確認するためにツァディーが確認するためだけに呼び出した者だ。


「な、なんで、いやだ! 帰してくれ! 死にたく無い!!!」


 自分が何故ここに呼び出され、どういう役割なのか察した彼は、泣き叫ぶ。


 こんな、こんな理不尽なことがあるか、と。


 彼は運が無かった……


 自分を証明する機会さえ与えられずに死んでいった。


 それを見ていたジャンヌとイスラとアリアの三人は真の意味で理解する。


 もう自分たちは何処まで行っても引くに引けない場所まで来ているのだと。


 この先幾多に渡る死を乗り越えなくては生きる道が無いのだと。


「はは、こんな、バカなことが……」


 ジャンヌは笑うしかなかった。


 尊い犠牲もあり、クエスト内容は鬼王の討伐とオーガ軍の白兵戦の二つということが分かりパーティが二つ必要な理由を把握する。


 まずパーティ一が鬼王を倒さなければ、オーガたちは永続的にバフが掛かるため早期撃破が必要だ。


「作戦という作戦は無い。お前らは強化されたオーガ達相手に耐えることが先決だ」


 役割分担を決め、後は覚悟を決めるのみ。


「遺書は必要か?」


「「「「必要無い(です)」」」」


「は、上達だ! 死ぬなよお前ら」


 そうして、俺は先にダンジョン十階に入った。


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__



 そこで待っていたのは、シルクハットと片眼鏡をつけ杖を持つボーイッシュな女の子が立っていた。


「ようこそチュートリアルの終着点へ」


仲介者アルカナの一人、クエストを管理するシステムである吊るされた男メムは口角をあげて嗤う。


「意外と慎重で何よりだけど、我はもうちょっと刺激ハプニングが欲しい。だから……」


ーークエストの内容が変更されましたーー


「もっと楽しんでいってね」


 パーティ一とパーティ二のクエスト内容が、入れ替わった。


「は?」


 何がどうなってる……


「おい、待て! ふざけんな!」


 しかし、吊るされた男メムは蜃気楼のように消えていった。




◆◇______

愚者アレフ:イヴ・レナク=サタナエラ

等級レアリティSSRスペシャルスーパーレア

Lv.32/140

種族:人間♀

称号:隻腕の剣姫/断罪者


固有スキル:断罪Ⅰ

スキル:

剣術Ⅶ.格闘術Ⅶ.苦痛耐性Ⅵ.

歩法Ⅵ.千里眼Ⅵ.観察眼Ⅵ.

空間掌握Ⅵ.猛毒耐性Ⅳ.超回復Ⅳ.

気配遮断Ⅳ.熱耐性Ⅲ.浄化Ⅱ.

房中術Ⅱ.奉仕Ⅱ.乗馬術Ⅱ.指導Ⅰ



◆◇______

愚者アレフ:アルデン

等級レアリティANアンノーマル

Lv.30/30

種族:人間♂

称号:天才戦士/怖いもの知らず


固有スキル:無し

スキル:

大剣術Ⅴ.挑発Ⅱ.超集中Ⅱ.腕力強化Ⅰ.



◆◇______

愚者アレフ:ジャンヌ=アレット

等級レアリティANアンノーマル

Lv.30/30

種族:人間♀

称号:女騎士


固有スキル:無し

スキル:

細剣術Ⅲ.乗馬術Ⅰ.ダンスⅠ.苦痛耐性Ⅰ.



◆◇______

愚者アレフ:アリア=トネリコ

等級レアリティNノーマル

Lv.20/20

種族:エルフ

称号:箱入り娘


固有スキル:無し

スキル:

長寿命Ⅱ.精霊召喚Ⅱ.魔法効率強化Ⅱ.苦痛耐性Ⅰ.



◆◇______

愚者アレフ:イスラ

等級レアリティJジャンク

Lv.10/10

種族:人間♂

称号:愚直な農夫


固有スキル:無し

スキル:

剣術Ⅱ.不屈Ⅱ.料理Ⅰ.収穫Ⅰ.栽培Ⅰ.苦痛耐性Ⅰ.

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