第5話 現実世界にて
「ようやく卒業じゃあああ!」
遊里の家に転がり込んでいる居候の慎吾は両手を掲げてガッツポーズをしながらそう言った。
「おめでとシンゴ。これでもう就活できるね」
「え?」
「え?」
なにが、え?なのだろうと遊里は困惑する。
「いやだって、卒業したなら働けるじゃん」
「なんでお前はいとも簡単にそんな残酷なことが言えるんだ……」
慎吾はその場で崩れ果て、遊里がゴミを見るような冷ややかな目でその様を見つめる。
「つべこべ言ってないで、早く働け」
「そんなぁ……」
早くこいつを働かせないとダメになると思った遊里は、一つ提案を思いついた。
「じゃあ、この動画の編集をしてもらうから、毎日動画編集して。その分の給料はあげるから」
「え?」
「やらないなら自分の家から出て就活頑張って」
「やります!やらせていただきます!」
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今日は、自分の家に月の輪さんとシィロンさんと、自分は一度も面識がない伊吹さんが来るらしい。
白昼夢の面々でオフ会とのことなので、正直緊張している。
慎吾は部屋で動画編集の技術を磨くために出てこないから良いとして、お酒でも買ってくれば良いのかな……?
とりあえず、スーパーに行って食材やらなんやらを買ってきて、トマトやジャガイモ、ニンニクと玉ねぎで野菜の旨みを凝縮した特製のスープを注いでチキンを入れそのままオーブンでじっくり焼いておいて、と……
他にも昨日から色々と仕込んでおいた素材を調理していき、お皿に盛り付ける。
「今十時だから、あと一時間後……間に合うかなあ」
ピンポーン
そんなことを考えていると、家のチャイムが鳴った。
「え?誰だろ」
家の扉を開けると、猫目の少女?がそこにいて……
「兄ちゃんがユウリはん?集合場所は此処であっとるよな?」
喋り方からして、月の輪さんだろうか……
「ワイは月の輪っていうプレイヤーネームでやらせてもらってる
フランクな感じだけど、綺麗にお辞儀をするあたり相当育ちが良さそうに見える。
というか月の輪さん女性だったのか……
ネットでは全くわからなかった。
「あ、よろしくお願いします。自分はそのまま
玄関で話すのも悪いので、家の中に招く。
それからはロビーに入りお茶を入れて差し出すと、おおきにと言って笑った。
「それにしてもええ匂いやなあ、トマトの香りがする」
オーブンに吸い寄せられるように、匂いの元を辿っていく月の輪さん。
なんか、凄い猫っぽい……
「わぁ……!おっきなチキンや!」
とても嬉しそうに弾んでいた。
それにしても、見た目若すぎない?
自称二十三歳らしいけど、はっきり言って小学生にしか見えない……
「ユウリはん料理得意なん羨ましいわぁ」
「趣味ですし、月の輪さんは料理するんですか?」
「ワイは全く、あ!でもカップラーメンなら作れるで」
それは料理なのだろうか……
「そういえば月の輪さんってお酒、飲めるんですよね……?」
「ん、飲めるで。一応免許証見せよか?」
そうして財布から免許証を取り出すと、本当に二十三歳でびっくりした。
「まあそんな反応になるよな。ワイ小学生の時に成長止まって、容姿もずっとこのままなんよ。だからコンビニでお酒買う時とかも毎回毎回年齢確認受けるねん。まあ別にええけどな」
そう言ってガハハと笑う月の輪さん。
「ああそれから呼び方はリンでええよ。後、敬語も辞めてくれへんか?なんか距離感じるしな」
「了解、じゃあ今日はよろしくねリン」
「おう!」
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十一時の五分前に、シィロンさんと伊吹さんが来た。
二人とも、月の輪さんを見て、一瞬顔が硬直し、月の輪さん本人ということと、二十三歳であることを知って更に硬直した。
「なんや自分ら、そんなおかしいか?」
「いやいや……ただ、普通にびっくりしたと言うかなんというか」
シィロンさんはたじたじになりながら、そう答える。
うん、分からなくはない。
「日本の女性ってやっぱり見た目が若いんだね」
ドイツ人の伊吹さんがそんなことを言うが、流石にこの人は例外じゃない?
「まあそんなことは気にせず飲もうや」
いつのまにかビール缶を開けている鈴さん。
あれ、よく見ると、飲み干された解析があるビール缶が既に二つもあった。
早くない?
「日本のビールは上手いなぁ、ドイツにはない甘みと香りがあって、とても好きだよ」
伊吹さんもまたビール缶を開けていた……
「とりあえず、乾杯で」
気の早い二人に遅れて、自分はオレンジジュースを、シィロンさんは日本酒をグラスに注ぐ。
自分はお酒に酔いやすいし、飲み会でやらかした記憶があるから、こういう場では飲めないんだよね……
オーブンからチキンを取り出して、テーブルに耐熱ボードを敷いて、その上に置く。
「すげー美味そうやな!」
「リン、よだれ出てるよ……」
「これはあかんわ、よだれ出てまう」
月の輪さんがよだれを拭いているうちに取り皿を並べチキンを取り分ける。
「おおきに!」
「ありがとね」
「
そうして、手を合わせてからチキンを頬張る。
肉汁が口の中であふれて、玉ねぎやトマトが凝縮されたようなスープが口の中に広がる。
「
「イブキはんの顔、賢者タイムみたいになっとるやんけw」
鈴さんが伊吹さんの顔を見て爆笑しながらチキンを頬張った。
その瞬間、伊吹さんと同じような顔をして……
「うは、これは、あかんわ……」
感慨深そうに頬を緩ませた。
「すごく美味しいよこれ……!もしかしてユウリくん料理人だったりする?」
「いや、全然そんなことはないですよ」
自分がそう言うと、嘘でしょ!?みたいな顔をするシィロンさん。
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「いや〜、おいしかったわあ〜」
「おいしかったよ、ご馳走様」
口にあって良かった。
「おそまつさまです」
こうして誰かに料理を振る舞うのは慎吾以外そういないから新鮮な気持ちになる。
それにしても……
ビール缶が山のように積み上がってるのは一体……
伊吹さんはお酒に強いのか全く酔っているようには見えない。
その反面、
「なあゆうりは〜ん、ほんまおいしかったわぁ〜」
頬がが赤く染まって、ベロベロに酔いながら絡んでくる鈴さん。
お酒くさい……
というかこの人、家に帰れるのだろうかと心配になる。
「ワイ、泊まってもええ?ゆうりはん」
「え……」
唐突にそんなことを言い出すので、助けを求めるため二人の方に顔を向けた。
しかし……
「あ、俺はおかまいなく」
「私も気にしないでくれ」
いや何のこと!?
シィロンさんと伊吹さん、ニヤニヤしないでこの人止めてよ……!
まあ、一応使ってない部屋が一つ空いてるから泊められるには泊められるけど……
うちには居候が一人いるしなぁ。
一応編集中の慎吾に聞いてみると、自分が良いなら全然良いとのこと。
まだ泊まると決まったわけじゃ無いから、酔いが覚めたら改めて聞いてみよう。
そんなわけで食事も終わったことだし、自分の部屋に三人を案内する。
「部屋広いし、凄い配信環境整ってるね」
「AA始めてから、大画面で見たいなと思ったので」
「分かる、アニメーションとかの迫力凄いよね」
シィロンさんとそんな感じで意気投合した。
それから録画していた映像を見せる。
「やっぱイヴちゃんバグみたいに強いなぁ……他の子も一般的にみたらかなり水準が高いはずなんだけど、霞んで見える」
「私は初めてみたけど、何これ……強すぎなのでは?」
二人はイヴというキャラの性能にドン引きした。
鈴さんは……
さっきから何も喋ってないと思ったら自分のベッドで寝てた。
「これは、いよいよじゃない?」
「だね」
他人事だと思いやがって……
実際他人事だけどさ。
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結局二人と色々AAについて語り合って、リンさんは寝たまんまだった。
それから二十時過ぎて、シィロンさんと伊吹さんは帰っていって、鈴さんを起こしてみたけど全く起きない。
「おーい、起きて月の輪さーん、リンさーん」
「むにゃあ、もう食べられへん……」
なんてベタな独り言をかまし寝返りを打つ。
凄い自由人だ……
もう仕方ないので、凛さんを担いで使っていないが小綺麗に掃除しているもう一つの部屋のベッドに寝かして毛布をかけた。
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