第4話 憎悪の剣

 夢を見た。


 そこは死んだ仲間と親がいて、ジャンヌと師匠が此方に手を振ってきて……


 なんともまあ、幸せな世界だった。


 他にも何かあった気がしたけど、もう曖昧になってきて細かい内容は覚えてない。


 ただそれでも微かに残された強烈な夢の記憶は、自分の心を蝕むかのようで。


 エイフィが自分の生活に口出すようになってしまったから、前みたいに一ヶ月寝ずに活動することが今はもう出来なくなって、睡眠をとる頻度は最低でも三日に一回になったから、単純に夢を見ることが多くなった。


 まあでも……


 俺にはやることがあるし、この幸せな記憶は、そっと片隅に置いておこう。


 これ以上は、進めなくなってしまうから。



 それに、師匠から最後に教えてもらったアレもそろそろ完成させないといけないし……



 俺はダンジョン中層三十五階に入る。


 そこは無機質な迷路でまさしくダンジョンと呼べるような空間が広がっていて、中層三十一階からずっとこんな感じだ。


 

 一通り魔物を切り殺しながら探索しているとドスンドスンと、迷宮内に鈍い足音が聞こえてきた。


「はー、でけえな」


 自分の二十倍以上の大きさがあるゴーレム。


 それにしては素早く動く。


 一度試しに剣を当ててみるがびくともしない。


「まじか」


 かったいな……


 三十階のボスである大蛇とは比較にならないくらい硬い。


 どうしよこれ、下手に剣を壊したくないんだけどなあ……


「久々だから、あんま手加減できないけど」


 そんな言葉に何か感じ取ったのかゴーレムが急いで俺を踏み潰そうとしてくる。


 そんな隕石のような速度で飛来するゴーレムの足裏を受け止め……


 その刹那、硬い外殻を持っていたゴーレムは徐々にひび割れていき、あっけなく崩れていった。


 人間相手にはまず使わない、悪魔の兵器とさえ呼ばれた破壊の剣術。



蜘蛛の糸エバノオリヒメ


 戦争を始めた者に因果応報を与える為編み出した憎悪の一撃。


 固有スキルの断罪やレベルが上がったことにより、生前とは比べ物にならないくらいに威力が跳ね上がっている代物だ。



「久々に使ったなこれ、ああでも……剣、壊れちゃったなぁ」


 剣の量産もできない此処で、あまり剣を壊したくなかったために大っぴらに使うことができなかった。


 それに憎悪これを使うのは気が引けるし……


 壊れることのない【失楽園】が恋しい。


 蛇腹剣とかいう癖の強い剣だったけど、一番使いやすかった。



 何かしらの金属でできたゴーレムのかけらは、ツァディーがどっかに持って行った。


 あの素材は全部保管庫行きか、


「あのゴーレム堅かったから、あれで剣を作ってもらおうかな」



______

____

__




「くそ、同じところを行ったり来たりしてると思ったけど、魔法かよ……」


 アルデンとイヴは一緒にこの階層の地図を製図していたが、性格の悪いトラップのせいで全て無駄になった。


 マメな性格であるイヴは途轍もない精度で地図を書いていたために、このような神経を逆撫でにしてくる罠のせいで、折角書いた地図を破り捨てた。


 そして、鋼鉄でできた剣を取り出して、憤怒をこめる。


「姐さん……何して、」


 そんなアルデンの疑問に、


「わざわざオレたちが、こんな性格の悪くてこんな狭い道を律儀に通る必要ないだろ?だから……」


 イヴは迷宮の壁を縦に割った。



 アルデンは愕然とした。


 初めて見る憎悪を込めた、理屈を何もかも捻じ曲げた剣術のような何かを見て、途方もない感情に染まるアルデン。


 イヴを底が見えない人だと思っていたが、その程度では決して無かった……と。


「は、はは……」


 乾いた笑い声を無意識にするアルデン。


 イヴにとっては何気ないものだったのかもしれないが、アルデンにとっては、得体の知れない神にも等しい。





◆◇



 

 イヴはエスタの世界の核兵器と言ってもいい。


 その強さを見た物は畏怖するか、手に入れたくなるかの二通り、各国の主はどうしてもイヴが欲しかった。


 かの大国を単身で捩じ伏せた少女のような兵器を。


 イヴとは、この上ない抑止力として、戦争の火種として、最適なのだ。


 ただ、その力に恐怖した民衆も多かったため、秘密裏に手に入れるか、殺すかのどちらかしか無かった。


 そんな事情を悟ってか、戦争が大嫌いなイヴは死を選んだ。


 最後までお前らの思惑通りにはならねえよと言いたげに。



 まさしく彼らにとって悪魔とは、彼女だった。

 

 楽園を作るでもなく、ただただ、壊すために……


 失楽園に嗤う少女を、悪魔と呼ばずして何と呼ぶ?






◆◇






 後書き


 どうも体調不良な海ねこです。


 ようやく10万字ですね。

 超えられて一安心しています。


 それから、10,000PVありがとうございます!


 皆様のお陰で執筆を続けていられる今日この頃……本当に嬉しいのです。


 自分だけでは、どうにも怠けてしまうので、私は皆様に監視されるのがちょうど良いのかもしれません(っ`ᵕ´c)


第二章、嵐の前の静けさに、雨は少し降るそうなので浸ってくれると嬉しいです。


 以上海ねこでした!


『☆☆☆』を『★★★』に評価してくれると創作の励みになりますので、気に入っていただけたのならどうかお願いします。


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