第23話 騎士
「なあ知ってるか?ジャンヌっていう伯爵様のとこの騎士がいるんだが、主君を置いて逃げたんだってよ」
声高らかに、男は言った。
のちに分かったことだが、支えていた主君は毒殺され、それが御子息の仕業であることが判明した。
しかし、ジャンヌは伯爵の味方であったため既に追いやられた。
反逆できないように騎士なのに主君を裏切ったと言う噂を流して。
女の騎士というものは肩身が狭く、ジャンヌは以前から差別のようなものを受けていた。
いや違うな、ようなもの、では無く純然たる差別だ。
しかしその時代では当たり前のこと。
女が騎士をやるなどと、無理な話だというのが常識だったから。
侮蔑、嘲笑、愚弄、恥辱。
彼女は、自分の意見すら言うことはできず、人形と化した。
己の中にあるちっぽけなプライドなど粉々に砕けるぐらいには。
そうして今回の件が起きて、もうジャンヌは、全てを失った。
何をすればいいのかすら分からず、自分では何も選択できない。
ただただひっそりと、死を待つことのみ。
それしか、道が無かった。
いつの日か目指した騎士の道。
父親に憧れ、夢を見た幼い少女が、現実を思い知らされた。
ただそれだけのお話しだ。
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「ひゅー、ひゅー」
表層二十階での戦いはもうこれで七十八回目。
その度に死にかけて戻ってを繰り返す毎日。
「どうした
「こ、ぐふっ……!?」
何もできない。
体術も剣術も、生前は他の騎士と比べても抜きん出るほどには強かったジャンヌは今、年端も行かない幼い少女に殺されかけている。
レイピアも槍も、最近習得した水魔法も、何も彼女には効かない。
「それにしても、何で足掻くんだ?」
イヴには少しばかりジャンヌが不思議だった。
何度も殺されかけて、それでもこうして足掻いてる彼女の原動力が、分からない。
「なんの、こと……」
「いや、単純に疑問に思っただけだ。もうすぐこの煩わしいおままごとが百回になりそうなんでな。なんでこんな目にあっても立ち向かえるのか聞きたくなった」
そうしてイヴは、攻撃を辞めその場に胡座で座り込む。
今まで戦っていたのは単に、身体が戦うことを強いられていたから。
しかし、この無意味で戦いすら成立しない一方的な暴力が嫌でしょうがないイヴは、己の意思で攻撃することを辞める。
今にも動き出しそうな身体を必死に抑えて……
そうして、死にかけのジャンヌの返答をイヴが待っていると、消えいりそうなほどに小さい声量でこう呟いた。
「……必要とされてるから」
こんな自分に居場所ができて嬉しかった。
そうジャンヌは心から思っていた。
辛くて苦しいけれど、自分が必要とされてるこの場所が、ジャンヌにとっては何よりも嬉しかった。
だから、頑張れる。
「そこが地獄でもか?」
「それでも……こんな私に、期待してくれているから、応えたい」
「じゃあいつまで寝てるんだよ、オレを殺して先に進まなくちゃいけねえんだろ?」
しかし、立ちたくてもジャンヌは立てない。
何故ならジャンヌの骨盤から下が切られて無くなっていたから。
「また来いよ、百回までは付き合ってやる」
◆◇
戦闘職と生産職の序列の棲み分けとして、A級、B級、C級、D級の四つの
【A級:戦闘・生産職1〜9位】
戦闘職はそれぞれ豪邸が割り当てられ、生産職は最上級のアトリエ工房や店を構えることができ、A級に該当する
素材や食材の利用は無制限であり、
【B級:戦闘・生産職10〜49位】
ある程度の贅沢、
住居は
A級の管理下の元、素材や食材の給与をされている。
【C級:戦闘・生産職50〜99位】
主にはB級の内容と然程違いはなく、多少の劣化程度。
【D級:戦闘・生産職100位以下】
多少暮らすには問題ない程度ではあるが、D級に該当する
こうした体制により、完全な実力主義の世界になった。
ダンジョンを攻略すれば上に行くことができ、贅沢も認められる。
こうした上下を分ける単純明快なシステムにより、
しかしこの体制にも欠点があり、下の者の育成を損ない、上の者の地位が盤石になることで権力を行使し更に下にいる者が上がることを許さない環境を作ってしまう恐れもある。
その点このサーバーでは、イヴやアルデン、アーロンといったダンジョン攻略にストイックな人(?)がいるおかげで、今のところそう言う権力の行使は皆無と言っていいほどだ。
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「あ、ジャンヌさんおはよう」
「おはようアリア」
「ジャンヌさん……顔のクマ酷いよ?」
「それは、アリアもじゃないか……」
最近豪邸を与えてもらい、柔らかいふわふわなベッドで眠れるといった贅沢ができるとはいえ、表層二十階でのイヴに何度も何度も殺されかけているのだから、気が滅入っていた。
「はは、この状況に慣れてしまった自分が怖いな……」
「うん……」
二人はそう思うも、この今の状況が嫌というわけではなかった。
こうして徐々に戦闘民族に染まっていくのである。
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