第16話 中層四十階
「さて、四十階なんだが、今回は一つのパーティのみだ」
一つの編成は最大四人。
俺とアルデン、もしくはジャンヌといった固定メンバーで、余った二枠を入れ替えれば一番攻略できる確率が高い、か……
さてはて、鬼が出るか蛇がでるか……
あ、もう鬼も蛇も出たんだっけ。
「うし、行くぞ」
ゲートを潜るとそこはまさに今まで通り迷宮が広がっており、松明しか光源がない静かな世界だった。
「音一つしねえのは、流石に不気味だな」
アルデンがそう言う通り、魔物の足音や鳴き声すら聞こえない。
そこにあるはただ一つ、静寂のみだ。
「……魔物がいない」
気配に相当敏感なエルフのアリアでさてそう言う。
真っ直ぐ進んでいくが相変わらずの壁ばかり。
「ここか」
ようなく、壁しかない通路を抜け、大きな扉が目の前に現れた。
「これどうやって開けるのだろうか……?」
ジャンヌが力一杯引っ張っても扉を開けられず、そう言うが……
「こういうのはな、斬れば良い」
失楽園を構えて、一閃。
頑丈で荘厳な扉はあっけなく真っ二つに切れた。
「姐さん……それ多分正攻法じゃねえぞ」
「ああ、そっか……オレがいないと成り立たねえな、これは」
確かに盲点だった。
俺がいなくても攻略できる方法を探しておくべきだったか……
「まあ正攻法を探すのは次回だな。初回はボスがどのくらい強いのか見たいから、基本様子見で行く」
ただ、油断はするなよ……と忠告して。
ジャンヌの守護という力でバフがかかっているとはいえだ。
さて、ご対面。
「……亡者?」
アリアがぼそっと言う。
見た感じはグールだ。
俺たちを見ても動きが遅く反応もにぶい。
「あいつがボスなのか?」
アルデンが言う通り本当にボスとは思えないほどには覇気もなく弱々しい。
それに攻撃もしてこない。
それを見かねてか、アルデンがグールに大剣を叩き込んだ。
のだが……
真っ二つになったはずのグールが、再生して二体になった。
「まじかよ」
ジャンヌも加わりなんど切り刻んでも、そのたびに分裂して再生する。
「うわぁ」
このダンジョン性格悪すぎだろ……
「これどうやって倒すの……?」
「分からん、というか多すぎだろ。姐さんこれどうすりゃいいんだ?」
というか、グールが増えるにつれ個々の力も増していってる気がするんだが、多分気のせいじゃ無い。
分裂した一体のグールが俺に噛みついてこようとするので斬り殺すが、また分裂して再生した。
厄介だな。
「あ、魔法は効くみたい」
アリアが精霊を召喚して、魔法を放つと再生せずに倒れていった。
「おお、ほんとのようだな!」
ジャンヌも一応氷魔法を使えるため、対抗手段は魔法で会っているらしい。
とはいえ……
相当増えたグールを一掃できるほどの魔法は持ち合わせていないし、魔法での連携もあまり実践ではやってこなかった怠慢が、返ってきたと言うべきか。
数百体にも増えたグールを倒し続けられるほどの魔力は、おそらく二人とも無いと思う。
「すまない。魔力がもうない……」
ジャンヌの魔力が尽きる。
俺とアルデンは極力グールを増やさないように逃げるだけだから何も出来ないし……
「っち」
不甲斐ないな。
グールへの憎悪が溜まっていく。
そこへ一体のグールが目の前に急に来たから、斬ってしまった。
「あ……あれ?」
再生して増えると思ったら、何も起こらなかった。
「なあ、アルデン!一体だけ攻撃してみろ!」
「了解!」
アルデンがグールを殺すと再生した。
一体何故?
もしかして、俺の固有スキルか?
今までは此処に来てから漠然としか理解してなかった固有スキルだが、この前、
断罪……憎悪か。
如何なる耐性の貫通。
詰まるところ、俺の憎悪は奴らを殺せる。
ならば……
「アリア、ジャンヌ、下がれ!」
アルデンには一度見せてるから、これだけで伝わるだろう。
しかしこの前と違うのは、失楽園が今手元にあること。
周りに気をつけなくてはいけないから全力は出せないが……
「事足りる」
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失理の剣貌【
蜘蛛の糸のように縦横無尽に巡る剣のその唸りは、的確に彼らの首を無慈悲に落とす。
それらは、再生することなく、消え果てた。
「……はは、まじかよ」
アレが、全力では無かったのか……と、
アルデンは戦慄した。
ジャンヌもまた、【
知っている二人でさえこの反応だ。
「え、え……え?何が起こったの!?」
一秒にも満たない、刹那の出来事。
瞬きした瞬間、全てが終わっていて……
中層四十階、幕引きは意外にも呆気なかった。
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