第一章 表層にて
第1話 愚者に浸る
景色が移り変わった瞬間、俺は簡素な祭壇の前に立っていた。
空が青くて、大きな木が聳え立っている。
生前の灰被りのような世界とは大違いだった。
「初めまして
後ろから突然声がして、振り返るとそこには銀髪の幼女がいて、俺は何故かソレが
その瞬間、
まるで最初からあったかのような……そんな気持ち悪い感覚だった。
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目の前の一切表情が変わらない幼女は
俺のようなここに連れてこられた
因みに
何でこんなこと知ってるのかは全くわからんが埋め込まれた知識の中にあったものだ。
「よろしく」
とりあえず空中に浮遊する
どうやら握手をご存知でないらしい。
まあどうでもいいか。
「ああそうだ、ダンジョンに行くための武器とか装備とかはどこにあるんだ?」
「案内します」
俺がそう聞くと抑揚のない言葉でまるで機械を彷彿とさせるような返答をする
これならば
「ここが倉庫です。武器や装備はこちらにあるのでお好きなものを選んでください」
そう言われたので無骨なバスタードソードと最低限、動きやすい服を着て倉庫から出る。
「他の所も案内して貰えないか?」
「分かりました」
ふよふよと先導する銀髪の幼女。
「なんつーか、最低限は整ってんな」
宿舎に、畑。
川、それからこれは訓練場か。
どこも無人だが、最低限は整っていて暮らすには申し分ないレベルだと言える。
そんなことを考えていたら
「イヴ、命令です。ダンジョンに向かってください」
「うわ、消えたと思ったらすげえ唐突に現れるな……」
いつの間にか現れた
とりあえずダンジョンに向かうための準備をするか。
ダンジョン。
俺がいた世界でもダンジョンのようなものはあったが別に興味が無かったから行ったことは無かったし、行く機会も無かったからその実態の詳細は分からないが大まかなことは知ってる。
ダンジョン内部は独自の生態系や地形、建物があってそこに住む魔物もダンジョンの階層によって千差万別だと学んだ。
噂では階層を進むごとに強い魔物が出るらしい。
「おーけー準備できた」
俺がそう言うと祭壇が光り、ゲートが現れた。
「階層ごとにクエストがあり失敗した場合、
クエストって……なんていうかゲームみたいな世界だな。
ゲームだとしたら失敗したら死ぬとか相当鬼畜な塩梅である。
表層一階。
そこは樹海が広がっている。
「これがクエストねえ」
【初級ポーションを作るための薬草を採取してください】
思いの外簡単で一先ず安心した。
それにしても初級ポーションを作るための薬草って一体どれなんだ?
そんなことを考えていると、一際目立つように光っている草を見つけた。
「もしかしてこれか?」
丁寧に採取すると、その草の光が収まった。
どうやらこれが薬草であっていたらしく、呆気なく最初のダンジョン攻略は終わり次の階層への挑戦権を得た。
基本ダンジョンは攻略していない階層に
とりあえずいつでも薬草を取れるようになった。
続けて表層二階に行けという指示を受け攻略する。
今回はウルフを討伐するといった内容のクエストで、俺は樹海を走り回りながら千里眼で探し回る。
「あれか」
目標を見つけた瞬間、速攻で詰め寄りウルフに気づかれぬまま一振りで綺麗に首を切断した。
ダンジョン攻略は至って順調に進んでいき、三階層では牛を捕獲して飼育。
四階層は十数匹はいるゴブリンの集団と対峙して討伐した。
どちらも比較的簡単にクリアできた。
しかし表層五階を攻略しろとは一切言われなかったので、とりあえず一階で薬草を沢山採取して倉庫にしまいダンジョン攻略を切り上げて、宿舎に入った。
「お疲れ様です」
部屋の中は簡素ながらもベッドがあって机があって、生活には何の問題もない。
俺はベッドに寝転んで天井を見上げた。
「すげえ、ダンジョンで怪我したところが回復してる」
なんなら俺の無くなった左腕や背中や横腹の抉れた部分、無くなった足の薬指なんかも治して欲しいんだが……
そう思った瞬間、無くなった左腕に激痛が走る。
「……いっ!?」
長年苛まれていた幻肢痛が蘇った。
くそ、気にしないようにしてたのに……
「はあ、はあ、くそが」
数分間ずっと痛みが続き漸く落ち着いてきた。
やっぱ意識するとすぐこれだ…
もう寝よう。
◆◇
なんか外が賑やかだな。
目をこすりながら手すりに捕まり階段をおり一階の食堂に入ると人が四人いた。
俺と同じように召喚された
「お、まだ一人いたんだな、いいじゃねえか」
舌なめずりをしながら吟味するように俺を見る。
なんだこいつ、初手から感じ悪いんだが。
にやにやと笑う男を俺はため息をつきながら男を適当に
「おい、お前俺のものになれ!」
「なんでだよ」
「俺はお前らとは違ってダンジョンで戦えるからな!お前らみたいなお荷物は何の役にも立たねえんだから俺の言うことは絶対だ」
想像を下回る持論を展開する男。
ここまでいくといっそ清々しいな。
他の三人は見たところ、村娘と農民、あとは、エルフか。
三人とも反論することもなく目線を泳がせている。
農民の男は、なんかめちゃくちゃ顔が腫れてんな……
喧嘩でもしたのか?
「見てくれは可愛いし、片腕がなくて少し気持ち悪いが我慢してやるよ」
まじでこいつどうしようかな。
拳が抑えられる気がしないんだが。
「おい
俺が虚空に語りかけると、
やっぱりいたか。
「
融通が効かない奴である。
まあ殺しは駄目なら半殺しはありってことか。
「顔が良いからって無視すんなよ!」
そう激昂しながら今にも殴りかかりそうな男だったがいつのまにか自分の首がしまっていることに気づいた。
「うがっ、ぐっ!?」
少女らしからぬあり得ないほど強い力で首を絞め上げられた男の首はみしみしと音が鳴り、男は泡を拭き白目を剥きその場に倒れた。
「はあ、先が思いやられる」
こいつと一緒にダンジョンに行くとか、まず言うこと聞くのかさえ怪しい。
矯正できるなら早めにやっておくかなぁ……
俺はとりあえず男を担いで外に放り投げて、三人の所に戻る。
「それじゃ、自己紹介でもするか」
俺は気を取り直してそう言うが、一部始終を見ていた三人はとんでもないものを見たかのような目をしていた。
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エルフの少女は分からないことだらけだった。
「おおエルフなんて初めて見た! こいつはついてるぜ」
人間の目つきが悪い男が私に向かってそう言う。
「お前ら、俺のいうことを聞けよ。そうすりゃあ、いい思いをさせてやる」
何を言っているのかわからなかったけど、そう言って迫ってきて怖かった。
ちらっと横を見ると人間の少女も怯えているようだった。
「おい、やめないか!」
その声と共に、私と目の前の怖い人間に間に割って入る長身の人間がいた。
「ああ? 何だお前」
「俺はイスラ。ただの農夫だ」
イスラと名乗った彼はそう言いながら、私の目の前に立って手を広げる。
私を守ってくれてるのかな……
こっちの人間はなんだか怖くないなと思った。
だけど……
「は、農夫だぁ? ここに戦えない奴なんて要らないんだよ」
「うっ!?」
男はイスラと名乗る農夫を何度も殴り、その度に鈍い音がこだました。
その光景と音が怖くて私は、ぎゅっと目を瞑って耳を塞ぐ。
私は望んでこんな場所に来たわけじゃないのに……
「規律を不用意に乱すなアルデン」
そんな時、耳を塞いでいるはずなのに声が聞こえた。
とても綺麗な声が……
「んあ?」
恐る恐る目を開けると天使の輪を持っている少女がいた。
誰?
ここには私たちしかいなかったはず。
「私は
その言葉に、私は全く動けなくなり、いつのまにかどこかの建物に飛ばされていた。
「は? 何が起こった?」
「今のは……」
何が起きたのかは分からなかったけど、彼女がどういう存在なのかを私は何故か知っていた。
身に覚えのない知識。
なにこれ……
私は困惑しながらも、辺りを見回すと先ほど
しかし何が起こったのか分からなかったアルデンと呼ばれた人間がまた私に近づいてくる。
「とりあえずそこのエルフとお前は俺の妾になれ、野郎は雑用でもしてろよ」
そう、声高らかに男は言った。
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アルデンはまるで王様になった気分だった。
ダンジョンを攻略するだけの世界。
なんて単純明快なんだ。
腕っぷしだけは自信があったが元いた場所ではこき使われていた。
だが今はこいつらしかいない。
先ほどの
この世界では自分の独壇場だと本気でアルデンは思っていた。
そんな中、一人の黒髪と翡翠色の瞳をした美少女が二階から丁度降りてくる。
「何だお前ら」
欠伸をしながらそう言う少女。
アルデンは思った、こいつを俺のものにしたいと。
今まで見た中で、とびきりの上物だった。
しかし、その欲望は呆気なく砕かれる。
アルデンが犯そうとした少女は、一国を滅ぼした存在なのだ。
わけもわからずアルデンの記憶はここで途絶た。
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「おい、何を……」
それぞれの自己紹介が終わると、アリアと名乗るエルフの少女が俺に抱きついてきた。
少しビクビクと震えながら、俺に抱きついて顔を埋めてくる。
「……」
こういう場合どうすればいいんだ……?
先ほど自己紹介した時に農夫だと言ったイスラと村娘のサーニャに目配せをするが、なんか微笑んでるだけなんだが。
記憶を探りながらどうすればいいか模索する。
そういえば辛かった時、父は依然として見守ってくれたり母が抱きしめてくれたり師匠にはよく頭を撫でてもらったりしたっけ。
微かに覚えている幸せだった記憶。
それを頼りに、アリアを抱きしめ返して頭を優しく撫でてみる。
「お母さん……」
「????」
すると俺に抱きつきながらそんなことを言い放った。
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