第3話 闘争
あれから四人に剣術と体術を実践で教えるようになったイヴ。
ことの経緯は三日前。
戦闘ができるアルデンはイヴに引き連れられダンジョン表層五階の攻略をしていた。
そのクエストの内容は樹海のゴブリン集落を殲滅するというものだった。
ゴブリン、単体では弱いが連携が取れ知能があるが故に充分な脅威だ。
それを知っているからこそアルデンは臆していたが、イヴは真っ向から斬り伏せた。
文字通り何もさせずに、ゴブリンの集落は殲滅されていった。
その光景を間近で見ていたアルデンは畏怖を覚える。
そのあまりにも異常な力にアルデンが持っていたイヴへの怒りと何もせず敗北したことへの羞恥心はボロボロに崩壊していった。
しかし、イヴは別のことを考えていた。
自分一人で攻略できるのならそれが一番に越したことはない。
しかしあの愉快犯である
階層を上がるごとに難易度は増している。
もしこのダンジョンが百階以上あるのなら、その難易度は未知数すぎる。
ならば、自分の他にもダンジョンを攻略できる人がいなくてはいけない。
今のままでは、明らかに戦力が足りない。
そうしてイヴは四人を鍛えることに決めた訳である。
______
____
__
「はあ、はあ、はあ……攻撃が、当たらない」
四人同時に相手しているはずなのに、イヴは全く疲れる気配も無く、当たりそうで当たらない完璧な間合いで避けていく。
自分から手は出さないという制約をかけているはずなのになにも出来なかった。
剣術の基礎がしっかりしているアルデンはなんとか一撃当てようと躍起になるが他三人は全くの初心者であるため、上手く連携が取れず掻き乱されていく。
がむしゃらに剣を振るイスラ。
木剣を汗で滑り落とすアリア。
どう攻撃すればいいか分からないサーニャ。
アルデンは文句無しだしイスラも体格がしっかりしているから振り回すだけで効果はあるだろうとイヴは攻撃を受け流しながら思う。
アリアは、弓でもやっていたのか相当目が良いみたいだけど、ただ剣の扱いに関しては実力が足りずその反射神経と動体視力が噛み合ってないように見える。
問題は……
「おいアルデン、イスラとアリアに剣を教えてやれ」
「分かった」
最初の印象とはまるで違い真面目になったアルダンは素直にイヴの言うことに頷く。
「な、なんで……!?」
アリアは滅茶苦茶嫌そうな顔をしていた。
アリアは正直嫌がるだろうなあと思っていたがあの顔は、予想より遥かに嫌だったみたい。
しかしイヴの言うことだからと渋々言われた通りにするアリアだった。
______
____
__
俺は問題のサーニャに向き合い剣を構える。
「サーニャは、猫背と目を瞑る癖を止めろ」
毎回寸止めをしているし、事前に伝えてるはずなんだが何度やってもサーニャは目を瞑る。
それどころか自分が攻撃する時も目を瞑る始末。
運動神経は壊滅的。
とりあえず目に見えた課題点はそれくらいか。
「で、でも、やっぱり怖いんです」
俺は師匠みたいに剣術を教えたことがないから、とにかく物量で練習させるしかない。
自分で言うのも何だが一年で軍の中で最強の剣士だった師匠を片腕のみで超えるくらいには才能あったし、覚悟が決まってたから意欲もあった。
ただ目に見えて戦う才能が無い娘を一端の剣士にするほど教える才能が自分にはあるのだろうか……
まあまずは体力と姿勢と呼吸の仕方を矯正する必要がある。
さて、どうしたもんか。
◆◇
新たにジャンヌという騎士がこの世界に召喚され、攻略メンバーに加わる。
やるべきことは理解しているし、飲み込みも早い。
現在のダンジョン攻略編成は俺とアルデンとジャンヌの三人のみ。
他のメンバーが
「イヴ殿、手合わせ願う」
「ああこっち終わったらすぐ行く」
俺はいつも通りサーニャの稽古を終わらせて、ジャンヌの元へ向かい、木剣をしまって真剣であるバスタードソードを構える。
これは真剣勝負が良いと言ったジャンヌの要望だ。
お互いに武器を構える。
それが合図となり、ジャンヌは俊敏な動きで近づいて、俺に避けられないように突いてくる。
「相変わらずレイピアの扱いが上手いな」
「イヴ殿に言われると嬉しいものだ」
ジャンヌの太刀筋はとても綺麗で愚直な基礎が固められている。
まあ悪くいうとそれまでで
俺は微細なフェイントを入れる。
「っ!?」
こういう視線を誘導して見えない場所を奇襲されることに慣れていないようでとにかく応用に弱い。
型通り、形式上の修練しかしてないように思える。
それに比べたらアルデンの方が奇想天外で面白い剣技を披露するのだがな。
「型を守っているだけじゃ強くはならないぞ」
「くっ……!」
俺はジャンヌの剣筋を一つ一つ丁寧に潰していく。
あれもダメ、これもダメ。
そうして選択肢を潰されていったジャンヌは次の手をどうするだろうか。
「はあ!!」
そのジャンヌの声と共に細かく速く貫かんとするそのレイピアは、虚空を掠めた。
外れた、その瞬間次の手を考えようとするジャンヌだったが、いつの間にか迫っていたイヴの峰打ちを横腹にくらい悶絶する。
「気迫は良いがバレバレだ」
とりあえず手を差し出して、俺はジャンヌを起き上がらせた。
______
____
__
稽古も終わりジャンヌが風呂に入ってると片腕の無い少女、イヴが入ってきた。
身体は傷だらけで、背中には大きな火傷痕と脇腹には抉れたような切り傷が縫われている。
それによく見ると、足の指も二本足りない。
初めて見たが、その姿はあまりにも痛々しかった。
この世界に来てから一週間。
ジャンヌはイヴと一緒にダンジョン探索をしたが、怪物と称してもいい程には凄まじい強さを誇った。
「よおジャンヌ、って、お前胸でけえな…」
「おい、どこを見てる!」
「あーわりぃ」
ジャンヌは慌てて胸を隠した。
◇
それにしてもあれほど強い少女は見たことがない。
片腕しかないという圧倒的な弱点を持ちながらも、自分より圧倒的に強いと評価するジャンヌ。
それ故に、何故あんな細身であれほどの強さを発揮できるのか、その身体にどんな秘密があるのかジャンヌは気になった。
観察すると、やはりというべきかとても綺麗な顔をしている。
今まで会ってきた中でこのような美少女は見たことがない。
青みがかった黒髪と宝石のような翡翠の瞳。
それなのに一体何故あんなに傷だらけになったのだろうか……
「そっちこそ、オレの身体見てんじゃねえか」
「あ、ああすまん…」
笑いながらそう言うイヴ。
身体を洗っていてこちらに視線を向けていないはずなのに何故見ていたのがバレたのだろうか……
ダンジョンでの戦闘でもそうだったが、視界に入っていない所まで正確に把握している節がイヴにはある。
「まあ気持ち悪いよなこの身体」
身体を洗い終わったイヴがジャンヌの隣に来て言った。
「そんなことは! …っ」
無い、と言いたかった。
だが、イヴはジャンヌの口を軽く塞ぎ、その先を言わせてはくれなかった。
「まあ気にしないでくれると嬉しいよ」
ジャンヌにはその笑顔の中に黒く濁った何かが見えたような気がした。
◆◇
ダンジョン表層九階。
クエストの内容はオーガ集落の鎮圧。
先のゴブリン集落と比べて難易度は桁違いに上がっていると言ってもいい。
「おいアルデンよそ見すんな首飛ばされても知らねえぞ!ジャンヌはもっとリラックスしろ、動きが硬い!」
二人に声を荒らげて言い放つ。
俺は既に九階を攻略しているからいいが二人には未知の階層だ。
とはいえ初見の対応力を鍛えるため俺は二人の戦闘にはあまり介入せず見守ることに徹する。
声かけが少ないし、連携できてない。
「な、オーガ!?」
「オーガ……の集団、か?」
俺がオーガの集落の近くに二人を誘導すると漸くオーガと対面した。
今まではゴブリンやウルフといったような顔ぶれだったが、大型の魔物であるオーガに臆すアルデンとジャンヌ。
「怯むな! オーガを一体誘導してなるべく囲まれないよう一対一で対応するようにしろ!」
俺は若干動きが固くなっている二人に指示を出した。
「わかった!」
「了解!」
二人とも素直だから有難い。
しかし……
「く、攻撃が通らない」
ジャンヌが持っているレイピアでは、オーガを貫くまでには至らなかった。
単純に火力不足だ。
「アルデンは足を揃えるな、腰を落とせ!」
「うす!」
「ジャンヌはオーガの首と顔を狙え! 敵の急所を狙う癖をつけろ! これは稽古じゃ無い。様式美に囚われたらあっという間にお陀仏だ!」
「了解した!」
______
____
__
アルデンもジャンヌもここ最近嫌と言うほどイヴの強さを垣間見た。
あの小柄な体でなんであんな破壊力が出るのか不思議でしょうがなかった。
魔法と言われた方がまだ分かるが……
だからこそ、二人はイヴの指示には素直に従う。
そんな二人を見ているとオーガがイヴに近寄り攻撃しようとしてきた。
その次の瞬間、イヴを襲おうとしたオーガの首と胴体が亡き別れになる。
その様子を横目で見てしまったアルデンとジャンヌ。
自分たちはこんなに苦労しているのに、どこにあんな力があるというんだ……と、
「おら、よそ見すんな! 驚く暇があったら目の前の敵を殺せ!」
敵には異常なほどに殺伐とした雰囲気を持っているイヴ。
敵という存在にはまるで容赦しないイヴだが殆ど敵対することはない。
何故なら敵対する前に対処できてしまうからだ。
オーガ程度ならば目配せすることもなく、ゴミのように掃除されてしまう。
「はあ、はあ、やっと倒せたか」
アルデンは荒い息を肩でしながらそう呟く。
それぞれ四、五体のオーガを討伐した二人。
ただその間に、イヴを襲ってきたオーガは三十体を超える。
つまりそういうことだった。
______
____
__
「今回のクリア報酬です」
唐突に現れてクリア報酬を渡してくる
五階層を超えたあたりから気まぐれで姿を表しクリア報酬を俺らに与えてくる。
そうして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます