第28話 オオカミVS人間 決着

「風よ!我の敵を薙ぎ払わん【風刃ウィンドカッター】!」


 老人は魔法による不意打ちを止め、何やら変な言葉を大声で叫びながら魔法を発動した。


 すると、先程の【風刃ウィンドカッター】よりも一回り大きいものが現れ、更に速度も上がった状態で俺に襲いかかってきた。


 何やら大声を上げた時は気でも狂ったのか?と思ったが、油断させて攻撃するためにいつもこんな手段をやっていたのだろう。


 驚きはしたが、俺が出すスピードよりも遅いし、老人はしっかりと俺の傷口目掛けて魔法を放っているので素直に当たったら、俺が死んでしまうので当然避けるのだが。


「な!?詠唱をしても当たらないだと?貴様、どんな速さをしているのだ!」


 俺が憐れみの視線を向けているとは知らず、さっきの変な言葉を使っても当たらないことに喚いているのを見て、ますます相手を憐れむ気持ちが強くなってしまった。


 ……しかし、このままだと勝ち目がないな。


氷結の霧フリーズミスト】のお陰で相手の素早さを奪い、こっちが有利になっているが未だにこっちはまともに攻撃を入れることができていないのだ。


 さっき噛み付いたじゃないかって?

 ハッハッハッハッ!

 とっくに回復されているに決まっているじゃないか!


 畜生!なに戦いながら隙を見て【回復魔法】使いやがって!こつちは平気なフリしてるが避けるので精一杯なんだぞ!


 さっきから影達を時々送り付けてもギリギリそうな雰囲気を出していたが、しっかりと避けていたし、何なら俺が影達との戦闘に慣れていないのを一瞬で見抜き、俺に対する壁として時々使ってきた程だ。


 もちろん、集団戦闘に慣れていない俺は影達に攻撃を当ててしまい、しかも【真爪撃】も発動してしまっているので一撃で消し飛ばしてしまっている。


 回避能力は俺の方が若干上なのだが、偶に攻撃を老人に当てても回復してくるので膠着状態が続いていた。


『危なっ!』


 今も高速で迫ってくる剣を何とか避けながらも俺は、【氷結の槍アイスランス】を老人に向けて放ち、老人はそれを決して慌てることなく、落ち着いて切り伏せた。


『これもダメなの!?』


 至近距離で放ったので大ダメージを与えることが出来るだろうと思っていたのだが、この老人は当たり前のように切り刻んできやがった。


 一応魔法文字で【硬化】とか刻んですぐには壊れないようにしたんだよ?それなのにそんな簡単に壊しちゃう?


 すぐに刻んだやつだから効果はそこまで大きくなかったんだろうけど結構自信があったんだよ?


 それを一撃で壊すなんて人としての心はないのか!鬼!悪魔!獣!

 あ、獣は俺だったな。


 はぁ、こいつのことは親父に素直に渡した方が良かったかもしれん………。







〈アーク視点〉

 初めて見た感想は不気味の一言に尽きた。


 部下を襲った黒いオオカミの魔物。一目見て魔法の1種なのだろうと推測した。普通に普通の魔物は煙を出さないし、体がボヤけて見えないからだ。


 この時点で幽霊ゴースト系の魔物か、魔法生物なのだろうと検討をつけた。【影の支配者シャドールーラー】について調べている際、森の管理者についても知ることが出来たからだ。


 森の管理者─別名トレント。Aランクオーバーの実力を持ち、人間が知らない魔法を使い、森の平穏を脅かす者を許さない魔物。


 1部の人間からは精霊の1種であると叫ばれているが、そんなことをほざいているのは精霊を過激に崇拝している異常者バカ共だけであり、一般的には魔物に分類されている。


 その森の管理者の得意魔法の1つとして【眷属誕生バースオブサーヴァント】という魔法がある。


 近くにある物を媒体とし、魔法生物で眷属を創り出すという魔法だ。物と発動者の相性により魔法生物の強さが変わり、トレントの眷属はCランク程度になる。


 その程度なら4体までなら私1人で相手が出来るし、部下達も3~4人程で陣形を組めば討伐が可能な為、行けると判断をしていざ森に来てみた結果がこのザマだった。


 部下の経験になるだろうと少し任せてみた結果、部下の数は半分まで減り、これ以上減ってしまっては【影の支配者シャドールーラー】の捕獲が不可能になってしまう。


「くっ!それにしてもさっきから倒しても倒しても数が減っている気がしないのだが……。」


 部下達だけでは力不足と感じた私は黒い狼達を次々と屠っているのだが、数が減っているようには感じなかった。


 むしろどんどんと増えていっているように感じる。狼共はすばしっこいだけであり、体力が低いようで一撃当てただけで消え去ってしまい、跡が残らない様は実体のない幻影や幽霊ゴースト系の魔物を相手にしているようであるが、怪我をしている部下を見ればこれが現実に起こっていることであるということが分かる。


「た、隊長。もうこれ以上はむ、む、無理です!こんな化け物が住んでいる森に居る【影の支配者シャドールーラー】だってきっとこれ以上の化け物です!そんな化け物を捕獲することなんて出来るはずかありません!」


 副隊長を任せている部下から撤退を促す発言がきた。


「頼む、もう少しだけ待ってくれないか?」


「で、ですが、これ以上の戦闘行為は士気も下げることになります!1度撤退して建て直しましょう!」


 副隊長が言っていることは当たり前のことであり、如何に無能な指揮官でも脱出を試みるであろう状況でこのまま残ると言っているのだ。


 しかし、このまま逃げ帰ってしまっては、アヴィディー様にどんな処罰を受けるのか分かったものではない。


 ハッキリ言って自己保身の為になるが、この狼達はどう見ても魔法生物だ。これを生み出している魔物を見つけることが出来ればアヴィディー様も【影の支配者シャドールーラー】以外にもこんなに強い魔物がいるのだ。きっと喜んでくださるに違いない。


 アヴィディー様に喜んでいただくためにも少しでも情報が多い方がいい。「こんな魔物がいるかもしれない」だけでは確定していないので実行に移すことが出来ないし、そもそも自分の主をこんな危険な場所に可能性があるだけで連れてくるなど従者として論外だ。


 黒い狼達を黙々と倒し続けていること1時間程、ようやく変化が訪れた。黒い狼達の数がようやく減ってきた為、急な襲撃で疲労困憊になった部下達はここから撤退するにせよ、続けて探索をするにせよ体力がもうないので回復に勤めていた。


「くそ!どうなってやがんだよこの森は!」


「あぁ、あんな化け物がうじゃうじゃいるなんて聞いてねえぞ!」


「隊長!もう逃げましょうよ!」


「ああ、そうだ!こんな場所、さっさとおさらばしちまおうぜ!」


 部下達はさっきの魔物との戦いでさっきまであんなに好戦的だったのが今では嘘のように怯えている。


 成果はほぼ無しと言っていいぐらいにボロボロであった。そろそろ撤退するべきか……そう思った矢先にそいつは現れた。


 他の狼達よりも形がハッキリとしており、何よりも色が異なった。


 灰色


 属性持ちの魔物だとその属性により体の色が進化の際に変わる。火属性なら赤色に、水属性なら青色にといった具合で、灰色の属性は存在しない。


 ──未確認。


 新たな属性を持つ魔物の場合、きっとアヴィディー様がお喜びになる。餌としてこれ以上ないぐらいに良い物だと言える。


 しかし、このタイミングで出てきたということは確実にこの部隊を壊滅させた張本人だ。他の魔物ならそんな化け物の獲物を横取りしようとしてもこんなに堂々と来るわけが無いだろう。


「これ以上は流石に無理か……。」


 部下もほぼ壊滅、アヴィディー様からいただいたがあるので私だけなら逃げることができるが、まだ体力はある。


 少しでも情報を集めてアヴィディー様の役に立たねば。


 ──────────


「な!?詠唱をしても当たらないだと?貴様、どんな速さをしているのだ!」


 無詠唱の利点は相手に魔法の発動を悟らせずに魔法を撃てることだ。【マナ感知】のレベルが高い相手ならばマナの動きにより簡単にバレてしまうが、魔物相手なら基本的にはバレずに素早く撃てるのだが、この魔物は【マナ感知】のレベルが高いようでこちらの魔法を簡単に消してきた。


 それならばと詠唱をして魔法の威力を底上げしてから放ったのだが、それすらも避けられてしまった。


 この魔物と戦って分かったのはこの魔物の強さは魔法の技術力の高さとその身の素早さだ。


 時々あの黒い狼を創り出すのはしっかりと見ており、今回の襲撃の犯人はこの魔物で間違いなかった。


 時々放ってくる魔法にはこれまで見たことがないような文字のようなものが刻まれていた。よく見ようとしたが、何故かボヤけて見えてしまい、この不思議な魔法を解明することが出来なかった。


 これだけで人間が一般的に使える魔法を優に超えている。魔術師タイプの魔物なだけであったのならどれ程良かったのだろう。


 魔術師タイプの魔物は基本的には身体能力が低いことが多い。仮説としては体を強化する為に使用するはずだっだマナを体に溜め込んでいるらしい。


 私は学者ではないので詳しいことは知らないが、魔法の扱いが優れた魔物はその分身体能力が低いため、集団で行動していることが多い。


 しかし、この狼の魔物はとてつもない速度で動き回り、動きだけでなく、凄まじい力を持っていた。


 無詠唱の魔法を防がれた際に一瞬体を硬直させてしまい、腕に噛みつかれてしまった。普通の魔物ならば防ぐことがげきる鋼鉄製の篭手なのだが、この狼は意図も簡単に貫いてきた。


 この魔物は危険だ。向こうもこちらに決定打を与えることができないようで簡単な魔法しか使ってこないが、それでも一つ一つが下手な場所に受けたら致命傷となりかねない威力を持っていた。


 幸いだったのはあの魔物の戦闘技術が私よりも低いこと、そして明らかに集団戦闘に慣れていないことだった。


 この狼の動きには無駄が多い。きっと死闘というものをあまり行っていなかったのだろう。


 それに集団で襲いかかってくるのに時間がかかっており、隙が大きかった。そのおかげでこちらも果敢に攻めているが、お互いに相手を攻撃するタイミングが中々無いためただただ時間が過ぎていった。


 ここで全力を出せばこの魔物を倒すことはできるだろう。ステータスはアイツの方が高いかもしれないが、攻撃を当てた時の感触はそれまで硬くなかった。


 それに傷を治していないことからも自己回復のスキルが無いのだろう。ここで推し切れれば確実に勝てる。


 しかし、それでは今回来た目的を果たせなくなってしまう。今回はこの魔物を倒しに来たのではない。


影の支配者シャドールーラー】を倒しに来たのだ。ここで全力を出して力尽きるのは違うだろう。


「もう潮時だな……。」


 私は剣で1度斬りさこうとし、それを狼の魔物が避けたのを確認するとこちらも大きく距離をとり、約50メートル以上離れた所に着地した。


 あの狼は身構えてきているが、今回はこれでおしまいだ。私は持ってきたものを袋から2つ取り出した。


 まず、1つ目の物は近くのマナ反応を記録する【記録水晶】。これにマナを込めることで水晶が光だし、やがて光が収まるとあの狼のマナ反応が水晶から感じられた。


 狼は水晶に吸い込まれたわけではない。空気中に漂っているあの狼が魔法を放った後に僅かに残ったマナを水晶が吸い込んだだけだ。


「さらばだ、狼。」


 そう呟くとあの狼は察したようで急いでこちらに駆け出していたが、俺の元にたどり着く頃には【転位結晶】でこの場所にはもう居なくなっていた。


 ────────


〈ナディー視点〉

『あの老人、何がしたかったの?』


 いや、なんで逃げたのかとかは分かるよ?それに【影の支配者シャドールーラー】とか親父っぽいのを探してるのも分かるよ?


 でもさぁ、それなのに親父が何処にいるのかとか探さなくてもいいの?


 そんな疑問を持ったが、当然答えてくれる老人はもういないし、そもそも人間の言葉を俺が話せないので結局、何が何なのか分からないまま今回の戦闘は終了した。


『……とりあえず、じいちゃんに報告しに行くか。その後にノルとシアと一緒にお互いの2つ名でも考え合うとするか!』


 結局何であの老人がこの森に親父を探しに来たのか。その疑問はこの後のノルとシアとの楽しみで俺は忘れてしまった。


 これがこの後、一生後悔するあの事件を引き起こす引き金になるなんてこの時はまだ……




 ────あとがき────────────

 どうも、夜叉丸です。いつも【獣転生】を見ていただき、ありがとうございます!

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