第16話 幕間 少女、戦う

〈ノーラ視点〉

今日もファンタジアに魔法を教えてもらうために森の浅い場所にある薬草の生えているところまでやってきた。


「う~ん。どうしたらいいんだろうなあ〜。」


私は今、ファンタジアの出てきた「魔法を2つ同時に発動してみる」という訓練に苦戦していた。


魔法を1つ発動するだけならすぐにできるんだけど、2つになってくると急に難易度が段違いになっちゃう。


なんかこう頭の中がぐちゃぐちゃし出して、魔法の構築が難しくなっていって気づいたら魔法が消えちゃっている。


どうしたらファンタジアみたいに何個も魔法を出せるようになるんだろうなぁ……。


一応、村に帰った後も皆にバレないようにこっそりと練習しているんだけど…

後少しで何かが掴めそうなんだけどなぁ……


そんな風に悶々としながら私は辺りを見渡し、ファンタジアがやってきていないかを確認した。


「あれ?」


ファンタジアがいない?

いつもなら私がやってくる前には近くの大きな木の下で寝ていることが多いのに…


私は小さな違和感を持ちながら近くの木に向かって自分なりに魔法の練習をしてファンタジアのことを待っていた。


「ウォン!」


「うわ!び、びっくりした〜。」


しばらくするとどこからかファンタジアがやってきてボーっとしてした私に対して吠えて自分の存在をアピールしてきた。


「ファンタジア、今でどこに行っていたの?こんなに遅いなんて今までなかったじゃん!」


私は待たされていた分の文句をファンタジアに言った。


「クゥ〜ン……」


するとファンタジアは少し気まずかったのかいつもよりも弱弱しい声で謝ってきた。


「ご、ごめんね。責めるつもりはないんだよ?ただ、何をしてたのかな〜って気になっただけだから!いつもだったらあそこの木の下で寝ていたから……」


私も気まずくなって少し言い訳みたいな言葉をファンタジアに向かって喋った。

ファンタジアはホッとした様子で私が責めていないことか分かるといつもみたいに私の持ってきた木の板で私に言葉を伝えてきた。


『ありがとう。今日はちょっと探しものをしていて遅くなったんだ。』


「探しもの?」


私はファンタジアが探しているものと聞いて思い当たるものかなかった。

最近、ファンタジアが何かを探しているって何か言っていたかな?


「何を探していたの?薬草だったらここにあるし、森で採れる植物も特別なものは何も無いよ?」


私はファンタジアが探していたものが気になり、つい聞いてしまった…


『薬草とかじゃないよ。ある魔物なんだけど中々見つからなくて、時間がかかっちやったんだ。』


「魔物?何か珍しい魔物とかいたっけ?」


ここら辺にいる魔物で珍しいものなんていたかなぁ……


『別に珍しい魔物じゃないよ。『ブルーディアー』っていう魔物でノーラに戦闘訓練をするのにもってこいだから探してたんだ。』


「へぇ〜そうなんだ。私の戦闘訓練……うん?戦闘訓練!?」


わたしは一瞬流しそうになった言葉の中に聞き捨てならない言葉が出てきた。


戦闘?戦うってこと?なんで急に?ブルーディアーと?

私の中に様々な疑問が出てきた。が、根本にある疑問は一つだけだった。


「私、戦わなくちゃいけないの!?」


そう、私がブルーディアーと戦う?どうしてそんなことになってるの!?

これまでの特訓で生き物に魔法を当てる特訓とかもいくつかあった。だけど、それはうさぎだったり、普通のイノシシたっだりと魔物に魔法を当てることはなかった。


それが急に魔物?ブルーディアーって危険な魔物じゃなかったっけ……

私が驚きのあまり固まっているとファンタジアはその間も私に構わず言葉を伝えてきた。


『確かに急に魔物と戦うのは怖いと思うけど魔法を同時に発動するためには必要なことなんだ。』


「き、昨日まで戦ったりとかあまりしてなかったじゃん!」


『あ〜。そうなんだけど、ちょっと親父に相談してみたら戦わせたらいいじゃんみたいになってきて…』


なに!?ファンタジアのお父さんってそんな簡単に戦わせる発想になるの?困ったら戦わせようってなるの?


結局、色々と抵抗してみたけど最終的にファンタジアに引きずられて私はブルーディアーが住んでいる泉まで連れていかれちゃた……


────────────


泉に連れてこられた私はブルーディアーの様子をうかがっていた。ファンタジアは危なくなったら助けるとか言って離れてしまった。


その後、少し離れた場所からゴゴコゴ…

と、何かが上がって来る音がしたので多分、魔法で壁を作ってブルーディアーの逃げ道を塞いだんだろうな。それと一緒に私も逃げないように……


私は諦めて改めてブルーディアーの様子をうかがった。

ブルーディアーはDランクの魔物でいつもなら普通の鹿と何も変わらない。


しかし、戦闘になると魔法を使い始めてくるため、初心者が多くやれていってしまう魔物だ。


私はブルーディアーに気づかれないよいに魔法の構築を始めた。


「よし!ここら辺ならまだ気づいていないよね?……【ストーンバレット】!」


私は使える魔法の中で1番スピードがでる【ストーンバレット】を初めにブルーディアーに向けて放った。


ストーンバレット】は見事にブルーディアーに命中し、傷を負ったブルーディアーは警戒態勢をし始めた。


私は警戒されたのを確認すると次の魔法の構築の準備に取り掛かった。

しかし、ブルーディアーは何かのスキルを使ったのか私のことを見つけて突進をしてきた。


「は、早く逃げないと!」


私は慌ててブルーディアーの突進を避けたから、構築していた魔法が露散してしまった。

そのまま、ブルーディアーは近くの木にぶつかり、木をへし折ってしまった。


「あ、あんな攻撃、もし、当たっちゃたら……」


私は恐怖を覚えてよりいっそうと距離をとるようにした。ブルーディアーから距離をとったのを私は確認すると、また魔法の構築を始めた。


「【マッド束縛バインド】!」


マッド束縛バインド】は相手の足元が泥となり、その泥が相手の身体にまとわりついていき、相手を動けなくする魔法だ。


「これならブルーディアーも動けなくなるはず!」

私はそう確信したが、ブルーディアーは私が考えていたよりも力があったようでスピードが遅くなったぐらいで動く分には問題がないかのように泥が付いているのを構わずにまた、私に突進を繰り出してきた。


「うそ!動けるの!?」


まさか魔法を使って動きを完全に止めることが出来ないなんて……

でも、動きが遅くなっているし、隙だらけだから魔法を当てることができる!


「【アースランス】!」


私が使える魔法の中でもかなり威力の高い魔法だ。これならかなりダメージを与えられるはず!


アースランス】はブルーディアーに見事に命中し、ブルーディアーに深い傷を与えることができた。


「これで怯んだらもた魔法を入れれば……」


私はそう考えたが、魔物のことを甘く見ていた。


「え?」


ブルーディアーは深い傷を食らったのにも関わらず、私に突進攻撃をそのまま続けてきた。


「カハッ!」


私は突進を食らってしまうとその勢いのまま吹っ飛ばされて近くの木に叩きつけられた。

痛い!そのまま攻撃を続けるの?私だったら痛くてそれどころじゃないのに…

痛みで動けずにいるとブルーディアーが追い討ちをかけようとしているのが見えた。


私は急いで避けると私がぶつかった木に角が刺さって抜くのに手間取っているようだった。


「い、今のうちに離れないと!」


ブルーディアーが角を抜こうと手間取っている間に私は距離をとった。

私が距離をとったのを確認すると同時に角も木からとれたみたいで私のことを見つけるとこっちを睨んでくるような視線を送ってきた。


だけど今、私とブルーディアーの距離はかなり離れているため、また突進攻撃をしてきてもまた魔法をぶつければ勝てるはず!


そう思って私は身構えていたが、目の前に水の玉が迫ってきた。


「水魔法!?」


ブルーディアーはまた、私に突進をして隙を晒すのが危険だと考えたらしく魔法で私のことを攻撃してきた。


「し、【身体強化】!」


私はマナを体に巡らせて身体能力を上げ、迫ってきた魔法を回避した。魔法は私を追ってきて曲がってきた。


私は曲がった魔法をまた避けると魔法はそのままブルーディアーにぶつかった。


「じ、自爆した?」


自分の魔法に当たるなんてあるの?魔法を自分に当てるなんて初心者でも中々やらないことなのに……


魔物でも自分に魔法を当てちゃうなんて聞いたことがないからかなり驚いた。もしかしてこれでやられてくれたかな?

そんな淡い期待を抱いたが、そんな幻想はすぐに打ち砕かれた。


「え!?ダメージがないの!?」


そう、ブルーディアーは自分の魔法でダメージを負うことはなく、変わらない姿で立っていた。しかもそれだけじゃなかった。


「あ……泥が……」


水がブルーディアーにぶつかったことで今までまとわりついていた泥が流れ落ちてしまった。


「そ、そんな。これじゃあスピードが元に戻っちゃって魔法を打ち込む隙が……」


これってどうすればいいの?そんな風に思った時、私はファンタジアの言葉を思い出した。


『確かに急に魔物と戦うのは怖いと思うけど魔法を同時に発動するためには必要なことなんだ。』


魔法の同時に発動。今まで成功させたことがないから選択肢のひとつに入れていなかった。


どの魔法を使えば生き残れる?どうすれば勝てる?考えて考えて!


「……よし!これなら行けるはず!」


私は作戦を思いつくと今まで成功したことのない魔法の同時発動に挑戦することにした。


絶対に勝ってやる!私は怯えていた心を押し込んで熱く決意した。

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