第17話  幕間 少女、実行する

「まずはブルーディアーの動きを止めないとね……」


 私はブルーディアーを倒すためにまず、向こうの動きを封じることから始めた。


「【マッド拘束バインド】!」


 そのためにまず、私はまた【マッド拘束バインド】を使ってブルーディアーの動きを遅くすることにした。


 さっきのことから完全に動きを止めることは出来ないけど、でもかなり動きにくそうにしていたからやって無駄じゃない!


 ブルーディアーは【マッド拘束バインド】が迫ってくるとまたさっきの状態になるのが嫌みたいで、魔法から逃げていた。


 その間に私は別の魔法を構築し始めた。この魔法は苦手だから構築するのに時間を稼げている今の内に!




 ……私が魔法を構築し終えようとした時、ブルーディアーもこっちに気づいたけど……もう遅い!


「【ロック人形パペット】!」


 私が魔法をとなえると、魔法陣が出てきてその中から岩でできた能面の人形が一体出てきた。


 この魔法は命令したことを実行してくれて、しかも魔法に使ったマナが無くならない限り再生し続けるというかなり便利な魔法だ。


 今、込めたマナだとE級の魔物ぐらいの強さしかないけど、硬さはブルーディアーの突進に耐えられるぐらいに硬いの。


「お願い、あいつの動きを止めて!」


 私は【ロック人形パペット】にブルーディアーの動きを止めるように命令を発した。


「この2つの魔法で動きを止めればさすがにブルーディアーも止まるはず!」


ロック人形パペット】は私の命令通りにブルーディアーに向かって行き、【マッド拘束バインド】から逃げていたブルーディアーにしがみついて動きを止めるのことに成功した。


 そのまま、【マッド拘束バインド】も絡みつき、ブルーディアーはまた魔法を使って逃げようとしているけど、その度に【ロック人形パペット】がブルーディアーに殴り掛かり、魔法の構築に集中出来ないでいた。


「よし、これでやっと集中できる……」


 私が【ロック人形パペット】を使わなかった理由……

 それは別の魔法が使えなくなるからだ。


ロック人形パペット】は発動したら終わりではなく、発動している間もマナを送ることができるように発動者と繋がりが出来ている。


 この繋がりがある限り、私は魔法を構築している状態と同じになってしまうため、魔法の同時発動が出来ない私では他の魔法が使えなくなっちゃうのだ。



 なら、【ロック人形パペット】との繋がりを切っちゃえばいいんじゃないの?


 私は最初にそう考えて繋がりを切ってみると【ロック人形パペット】は私もの繋がりが切れたことで制御することが出来なくなり、その後、動かなくなっちゃった。


 私はその時はなんで動かなくなっちゃっのかが分からなくて慌てて近寄って触ってみたり、また命令を出してみたりしたけど結局、動くことがなくて泣きそうになっていたら ファンタジアに笑われてしまった。


 あの時のファンタジアはまだ私が魔法に慣れていないからって私の反応を見てよく笑っていて1番意地悪な時期だった……


 とにかく、【ロック人形パペット】を使ったまま、魔法を発動させるとなると魔法を同時に発動できない限り、攻撃魔法を使えないため、余り使うことがなかったけど……


「今成功させないと、私が負けちゃうから……やるしかない!」


 私は今まで成功させたことがない魔法の同時発動に挑戦することにした。



「くっ!や、やっぱり頭の中がぐちゃぐちゃになってくる……」


 魔法の構築中、最初は行けるかも?って思ってきたときにいつものぐちゃぐちゃがやってきた。


「で、でも、こんなところで止めちゃったらいつまで経ってもできるはずなんて無い!」


 私はいつもなら頭が痛くなってきてやめるような痛みが襲って来たがそれでも構わずに魔法の構築を続けた。


 ——————


「……っハァ、ハァッ、ハァ。や、やっとできた……」


 しばらくして、ようやく私は別の魔法を構築することができた。まだ、魔法の同時に発動するのに慣れてないからかなり雑な魔法になっちゃったけど、これなら行ける!


「【アースランス】!」


 私はブルーディアーに深手を与えることができた【アースランス】をまた、発動した。


 出てきた魔法は最初に当てた槍よりも形が歪だったり、飛んでいくスピードが遅かったりと、いつもよりも酷かった。


 いつもの私なら絶対に出さないような魔法だった。

 でも、確かに魔法を同時に発動させることができた!私は初めて魔法の同時発動をさせることができた!



「や、やったぁ!ついに出来た!」


 私はこの時、戦っていることを忘れて魔法で新しいことが出来たことにただただはしゃいでいた。今までどんなに頑張っても出来なかったけど、ついにやっとできた!


 ブルーディアーは【アースランス】でダメージを負っていたのを理解しており、避けようとしたが【 マッド拘束バインド】と【ロック人形パペット】に捕まっているため、避けることができず直撃し、余りの痛さにブルーディアーは悲鳴の様なものを上げていた。



「……痛そうだけど、ごめんね。私も頑張っているの。」


 これは戦いだからどっちかが倒れるまでやらなくちゃいけない。ここでブルーディアーを逃がしちゃったら私のせいで村を襲ってくるかもしれない。


 私は少し、逃がしてもいいのでは?と考えたが、すぐにその事に気づいてトドメを刺そうとした時……



「ぇ?」



 私の身体が急に動かなくなっちゃった。


「ど、どうして?」


 ブルーディアーが何か魔法を使った?でも、そんな魔法を使うなんて聞いたこともない。なら、どうして?


 そう考えていたが、私はすぐにどうして自分の身体が動かなくなっちゃたのかに気づいた。



 マナ不足



 いつもの特訓なら、戦わないからマナの残量管理もしっかりやってたけど、今回は初めて戦ったりしたからそんなことを考えないで魔法にマナを込めたせいでいつもより早くマナ切れを起こしちゃった!


 私は慌てるがいくら慌てたところでマナが戻って来る訳もなく、マナの供給が無くなったことで【ロック人形パペット】の動きが止まり、ブルーディアーは魔法の邪魔をされることが無くなったことで思いっきり魔法を発動し、そのままの勢いで【マッド拘束バインド】まで吹き飛ばしてしまった。


「あっ……ど、どど、どうしよう、早く逃げないと行けないけど、マナが無いせいで動けないし……」


 ブルーディアーはさっきの私の攻撃で足に致命傷を負っちゃったせいでまともに歩けないようでゆっくりだけど、確実に私の方に向かってきていた。


「早く逃げないと、で、でも、どうしよう。マナが足りないから動けないよぉ。」


 どうしようどうしようどうしよう。

 ブルーディアーも多分マナが少ないから魔法を撃ってこないんだと思う。じゃないとわざわざ近づかないで魔法で私を倒しちゃえばいいもん。


 だけど、近づいてくるってことは向こうもマナが無くてあと1回でも魔法を使ったら動けなくなるんだ。


 あと少しなのに、どうしたらいいの?


 そう考えている間にもブルーディアーは近づいて来ている。どうしよう、どうすればここから勝てるの?


 マナがないと私の身体が動くかすことができないし、でも、すぐにマナを回復するなんて……



 私は考えている間にも周りを見渡して何か使えるものがないのか探した。

 そうしていると、ふと動きを止めたままの 【ロック人形パペット】に目が止まった。


「そ、そうだ!」


ロック人形パペット】は私のマナを使って動いている。今は私からのマナが送られていないから動いていないけど形を保つ分のマナは残っているから人形の姿のままなんだ。


 それにまだ、私と【ロック人形パペット】で、繋がりが残っているから、もしかしたらマナをこっちに送ることができるかも!


 私はそれに気づくと、さっそく試してみることにした。いつものでマナを送る感覚は分かるから、その逆をやっていると少しづつだが、マナが流れてくるのが分かった。


「これなら!」


ロック人形パペット】を見てみると、だんだんと形が崩れ始めており、マナが無くなっているのが見て分かった。


「もっと早くしないと!間に合わなくなる前に早く動かないと!」


 今もマナを回復することができているが、本当に少しづつであり、このままではブルーディアーがこっちにやって来る方が早いかもしれない。


 私は集中してマナを戻しているとだんだんと戻ってくるマナの量が増えてくるのが分かった。


 ————————


 なんとか【ロック人形パペット】に残っていたマナを回収し終わると急いでブルーディアーの方を向いた。


 ブルーディアーはもう、私の目の前に来ており、私のことを踏み潰そうとしていた。


「ひゃあ!」


 私は慌て【身体強化】を使い逃げることにどうにか成功した。


「はぁ、はぁ、はぁ、危なかった。でも、マナが残りもう少ない……」


 マナが戻ったことでどうにか逃げることができたがそれでも戻ってきたマナだとあと、魔法を1、2回発動したらもう動けなくなっちゃいそう。


 でも、ブルーディアーもかなりフラフラだ。私が動けるようになったことで向こうも不利と悟ったらしく、魔法を発動させようとしているのが【マナ感知】で分かった。


 ……私も魔法を使わないと倒せないから、どっちが先に使えるのかが鍵になる。


 勝負は一瞬だ。

 私は魔法を構築し始め、すぐに魔法を撃てるように準備した。


 お互いが魔法を準備し始めてすぐに決着は着いた。

 ブルーディアーが先に魔法を準備し終えて【水球ウォーターボール】を撃ってきた。


 私も少し遅れて【ストーンバレット】を撃った。

 本来なら遅れて魔法を撃った私の方が負けるだろうけど、ここで魔法の属性が有利に働いた。


 私の使っている【土魔法】は、他の魔法と比べて耐久力が高く、【風魔法】よりは遅いが、魔法の飛んでいくスピードが速いのが特徴。


 ブルーディアーの使っている【水魔法】は補助が得意で、本来、攻撃などはどちらかというと苦手な方。


 だから魔法が飛んでいくスピードは他の魔法と比べると遅くなっちゃうの。

 つまり、かなり魔法を撃つのに差がなければ少しぐらいなら遅く撃っても私の方が速い。


 私の【ストーンバレット】は【水球ウォーターボール】を撃ち抜いてそのまま、ブルーディアーの額を撃ち抜いた。


【経験値を158獲得しました。】

【経験値が貯まりました。ノーラのレベルが10→12に上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈土魔法〉のレベルが3→4に上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈マナ操作〉とスキル〈マナ感知〉のレベルが4→5に上がりました。】


「か、勝てたの?」


 私はブルーディアーが倒れた後、本当に倒したことが信じられなくて倒れたブルーディアーの元に寄り、つついたりしてみたが、ブルーディアーは反応することなく倒れていて、ようやく倒すことが出来たのが分かった。


「や、やった!私、ブルーディアーを倒せたんだ!あんなに強い魔物に勝っちゃったんだ!」


 私は嬉しくてしばらくその場で飛び跳ねて舞い上がっちゃった。

 気がつくとファンタジアが近くまで寄っていた。


「ねえねえファンタジア!私、やったんだよ!ブルーディアーに勝っちゃった!」


 私は興奮を抑えきれず、ファンタジアの元に駆け出して勢いのまま抱きついた。


「ウォン!ウォ、ウォーン……」


 しばらく抱きついているとファンタジアから苦しそうな声が聞こえてきて、気がつくと少しぐったりとしていた。


「あ!ごめんね。つい嬉しくて……」


 私はファンタジアから離れると、急いで謝った。ファンタジアは解放されて息苦しさから抜け出したことでホッとしたようで、謝ってきた私にもう大丈夫と言うように笑顔を見せてきた。


『やっと魔法の同時に発動することが出来たね。かなり苦しい場面もあったけど、勝ててよかったよ。』


「うん!……まぁ、なんで戦わなくちゃいけないのかが分からなかったけど、なんとか魔法の同時に発動することができて良かったよ。」


 そう、私はファンタジアに向けて喋ったが、それが良くなかった。


『良かったか。なら、これから特訓に入れていくか!』


「え?」


 これから特訓に入れる?それって……


「こ、これからってまさか時々戦うことになるの?」


『そういう事だよ?どうしたの?』


「私、死にかけたんだけど……」


『うん、だから俺が近くで見ているから。危なくなったらそこで俺が助けるから。』


「た、戦うのはこれで終わりにしない?」


『う〜ん。でもなぁ、今回はしっかり成果がでてきたから、多分大丈夫だよ。』


 その後、なんとか説得しようとしてみたが、抵抗虚しく、結局ファンタジアは実戦訓練というとことで時々、私はファンタジアに連れていかれ、私よりも少し強い魔物か同じくらいの魔物と戦うことになった……


——あとがき——————————————

 ……私は少し主人公の本当の名前がファンタジアではなく、ナディーということを忘れそうになるのですが、読書者の皆様は覚えていますよね?

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