第21話 オオカミVS木の化け物

『ナディー兄!僕も戦う!』


 俺が木の化け物と戦闘を始めようとするとシアは自分も戦いたいようで体にマナを巡らせ始めた。


『いや、ダメだ!』


『何で!?あんなヤバそうな奴、2人でやった方がいいよ!』


 シアは戦う気だったようだが、俺はそれを拒否した。俺の見立てでは俺とあいつの強さは何とか俺の方が上だろうが、シアも中々の強さだが俺よりも数段劣るため近距離での戦いでは分が悪いと考えたからだ。


『シアだとあいつとの近距離戦は分が悪い!魔法で援護してくれ!』


 近距離戦ではシアはかなわないかもしれないが、魔法は俺がノルとシアに教えているのだが、シアの方が種族的なのもあるのだが、魔法の扱いが上手く、ダメージを与えられずともサポートに徹すれば十分だろう。


『わ、分かった!』


 シアは俺の指示に従いサポートに徹し、2人で木の化け物と戦うことにした。


『さて、まずは小手調べと行くか。』


 俺はマナを巡らせず【加速】も使わないで攻撃を仕掛けてみることにした。動き回っていると化け物はじっとしたままで枝を伸ばしてこなかった。


『チッ!こっちが見えているな……』


 化け物は動いている俺を目で追いかけており、このぐらいのスピードだと追いつけないにしても不意打ちが効かない事が分かった。


『まずは一撃!』


 俺は化け物の後ろに回り込み【真爪撃】を発動させながら攻撃した。進化もしてステータスが前より上昇した今だとそこら辺の木では一撃で粉々になる威力にまで上がった。


 果たしてこの化け物にどれぐらい効くか……

 爪が化け物に接触し、俺が切り裂いたと確信した瞬間――――


 ガンッ!と爪が硬いものに阻まれ、弾かれてしまった。


『な!?』


 硬すぎだろ!?

 俺の爪は今では前に戦ったフォレストグリズリーの爪よりも硬く、むしろ向こうの爪がにヒビが入ってしまうぐらいに硬くなった。


 そのため、大体のものなら切り裂くことができるようになったのだが、この化け物はそれよりも硬いようだ。


 自分の爪が折れてないか心配になり慌てて確認したが爪は折れておらずホッとしていると化け物は好機と見て攻撃を仕掛けてきた。


『…遅い。』


 化け物の攻撃はマナを巡らせれば余裕を持って回避することができ、俺はマナを体に巡らせると襲ってくる枝をその場で避けた。


『ナディー兄に近寄るな!【氷結ひょうけつ】!!』


 シアは冷気を放つとそれを操作し、俺を避けるように冷気を動かしながらその冷気を枝にぶつけた。


 冷気がぶつかると枝の動きが段々と遅くなり、完全に動かなくなると枝の表面に氷が張った。


「――――!?」


 化け物は枝を動かそうとするが、シアの魔法は中々強力で動かそうとする度に氷が張ってしまった枝にヒビが入り、どんどん壊れていった。


 化け物は枝が動かないと分かるとそのまま枝を強く動かそうとし、即座に破壊した。


『え!?』


 シアは驚いたがここから更に俺達は驚くことになった。化け物は枝を壊したかと思うと俺達には理解出来ない言葉で何かを唱えると砕けて先が無くなっていた枝がなんとしてしまったのだ。


『げっ!マジか……』


 再生とか面倒すぎるだろ!でも、シアのおかげで氷魔法でダメージを与えられることが分かった。


『【氷付与アイスエンチャント】』


 俺は試しに爪へと氷魔法を纏わせ、化け物に攻撃してみるこにした。すると先程は弾かれたが抵抗を感じながらも爪を入れることができた。


『よし!これなら行ける!』


 魔法の付与をするぐらいのことは俺にとっては造作もない事だ。このまま仕掛けようとすると化け物は不味いと考えたのか今まで枝を2、3本だけでこちらを攻撃そていたのだが、枝を更に無数に増やしてこちらを威嚇してきた。


『うわっ!危な!?』


 おれは近くにいたため慌てて避けるために病むおえなく化け物から離れることにした。化け物は俺が離れるとまた凍った部分を破壊し、理解できない言葉で詠唱をし始めた。


『チッ!また再生される!』


 そのまま手をこまねいていると化け物は完全に再生を果たしてしまい復活した枝も攻撃に加えてきた。


『クソ!どうすればいいんだ!?』


 このままだと確実に俺達が先に力尽きてしまう。シアも魔法を使って枝の数を減らしてくれているが段々と疲れが見え始めている。


『せめて核の位置さえ分かればいいんだけど……』


 俺達魔物には魔核と呼ばれる物が体にあり、第2の心臓の役割がある。魔核にはマナを貯めておく役割もあり、魔物はマナが無いと死んでしまうため、面倒な魔物でも核さえ壊してしまえば1発で死んでしまう。


 この化け物にも魔核は存在するはずなので見つけ出すことが出来ればいいのだが……


 魔核を探そうにも攻撃が俺に集中しており、【マナ感知】を使う暇がないのだ。


『俺1人が避けるだけだったら【纏技合マギア】を使えばいいんだけどなぁ。』


 纏技合マギアを使えば身体能力が上がるし、俺の気配も薄くなるため、魔核を探すだけなら問題ない。が、その場合は俺を探すことが出来なくなった化け物がシアに攻撃を仕掛ける可能性があり、迂闊にすることが出来ない。


 それなら広範囲の魔法で吹き飛ばしたいのだが、ノルに当たってしまうのでそれもできない。


【加速】だけでもいいのだが、実は既に何回か使用しており、使用時間がかなり短いのだ。


『ナディー兄!!僕が魔法であいつを吹き飛ばすからノル姉をあいつから引き剥がすために【加速】を使って!』


 シアもどうやら同じ結論に至ったらしく魔法を使ってあいつを吹き飛ばす為にノルの回収を俺に頼んできた。


『おい!それだとお前に枝の攻撃が集中するだろ!それに【加速】を使いたくても隙が出来るから今は使えないんだよ!』


『なら僕がその隙を作るから待ってて!』


 シアはそう言うと魔法の発動を一旦止め、少しの間マナを溜めて今まで以上の【氷結】で全ての枝を止めた。


『流石だシア!』


 俺は【加速】を発動させ、止まっている枝を足場にして化け物の上に登り、ノルを回収することに成功した。


『シア!いいぞ!!』


『流石ナディー兄!だけど速すぎ!!』


 俺はノルを助けてシアに合図を出すとシアは速すぎると苦笑しているが、しっかりと魔法の準備が間に合っているようだった。


『【氷海雲ひょうかいうん】!』


 シアの放った魔法はシアを中心として広がっていき触れるもの全てを凍らせていった。迫っていた枝も例外ではなく、吹き抜けていく冷気はやがて化け物までも凍らせた。


 化け物はそんな状態になっても意識はあるようで氷を砕こうと懸命に体を動かしてしまった。


 化け物が体を動かすことによって奴の表面が崩れていき、やがて紫色に染まった結晶を見せた。


『見つけた!再生できないように一瞬で粉々に砕いてやる!……【纏技合マギアかげ】』


 俺は即座に纏技合を発動させ、動き出そうとしている化け物が見えない速度で襲いかかった。


『……【暗殺者アサシン爪撃ブレイク】』


 俺が攻撃を終えると俺が動いたことに気づいた空間は遅れて風を吹き荒らし、音を置き去りにした一撃に魔核は粉々に砕け散った。


【経験値を578獲得しました。】

【経験値が貯まりました。ナディーがレベル15→16まで上がりました。】


『お!久しぶりにレベルが上がったぞ!』


 まだレベルが1しか上がらなかったが、久しぶりにレベルが上がったのでだいぶ嬉しくなった。


『う〜〜ん。……あれ?ここどこ?』


 俺が喜んでいると途中で草むらに置いてきたノルも目を覚ましたようだ。さっきまでの戦闘中も起きていなかったし、以外とノルは神経が図太いのかもしれないな……


『おはようノル。どこか痛い所とかはあるか?』


『あ!おにーちゃん!おはよう?…それにここら辺寒いんだけど、どうしたの?』


 ノルは俺に気がつくと飛びつこうとしてきたが未だに現状が理解出来ていないため立ち止まり確認を優先してきた。


『ノル、お前あの後シアから逃げた後に木の上で寝てただろ。実はその木が魔物だったんだ。それでお前を取り返す為に俺とシアで協力してその魔物を倒したんだ。』


『そうだったの!?あの木って魔物だったの!?』


 ノルは俺の説明に驚きながらもよく分かっていないようだった。


『とにかく、おにーちゃんとシアが助けてくれたんだね!ありがとう!』


『グハッ!』


 ノルがお礼を俺に言ってくる時、特大の笑顔を見せてくれたことで戦闘であまり減っていなかった俺の体力が大幅に削られた。


『おにーちゃん!?どうしたの?大丈夫?』


『あ、あぁ。大丈夫だノル。お前の可愛さにやられただけだ!』


『……いつものやり取りだね。ナディー兄、ノル姉。』


 俺達がじゃれついているとシアもやってきて少し羨ましそうな目をしながら呆れた声で俺達を見てきた。


『あ!シア!私を助けてくれてありがとう!』


『うん。僕もノル姉を助けるとができて良かったよ。』


 シアに気がつくとノルはシアにもお礼を言ってそれを受けたシアも少し嬉しそうにしながらノルに言葉を返した。


『それはそうとノル姉。』


『んー?どうしたのシア?』


『ナディー兄のことでお話があるんだけどちょっと良い?』


『え!?』


 シアの言葉にノルは固まってしまったが、シアは笑顔のまま強引に話を続けた。


『ありがとう!じゃああっちの方でお話しようか!』


『ね、ねぇシア?私まだいいって言っな─あ!待って引きずらないで!分かった!行くから!自分で行くから!だから引きずらないで〜〜!!』


 ノルはシアに引きずられ俺の見えない場所に行ってしまった。俺はノルの冥福を祈りながらもこんな楽しい毎日がいつまでも続けばいいと思い、気づけば笑っていた。


 ───あとがき─────────────

 いつも読んで頂きありがとうございます!!

 皆さんが読んでくださるおかげで毎日楽しく物語を書かせていただいています。


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 それではまた次回も会いましょう!

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