第12話 オオカミ、切り札を切る

『マナを纏う?』


ある日、俺は母さんに切り札を考えているときに聞いてみたものだった。


『それ、かなり難しいわよ。』


『え?マナを纏うだけなら簡単じゃないの?』


そう俺が疑問を持つと母さんがしっかりと説明してくれた。


『まず、マナを纏う言っても体に纏わりついているから常にマナを操作していなくちゃいけないの。』


マナで魔法を発動させるとき、自分から切り離して発動させるため、最初に形を決めておけば、そのまま固定される。

しかし、体に纏わせるときは形が定まっていないため、自分で操作し、形を保ち続けなくてはならないそうだ。


『他にもね、魔法が途中で撃たなくなったり、マナを操作し続けているから、まともに動けなかったりとメリットに釣り合わないのよねぇ。』


と、言われたためその時は諦めていた。

が、ここ最近は俺は常にマナを操作しながら生活をしているため、マナを操作しながらの動きには問題ない。


他の魔法が使えないことは痛いが、俺はこの魔法にはそれをくらっても余りあるメリットが存在していると思っている。


……問題点としては【加速】を使いながらでないと俺もマナ操作が追いつかないため、【加速】の使える時でないと発動できないことだ。


【加速】は残り30秒。ここで決めないと俺の負けだ。

今のところ成功したことはないがここで成功させてやる!


俺はオークから少し距離をとり、切り札を発動した。


『【かげ】』


俺の体は影に包まれた。

影はボロボロのマントの様な姿にに変わり、顔も影が変化したフードのようなもので隠れ口元も覆われており、俺の今の姿は暗殺者のような姿に様変わりしていた。


俺は初めて切り札である、【】が発動したのを確信した。

……しかし、マナの減る量がやばいな。


成功したまでは良かったが、完成とは言い難く、マナがダダ漏れであり、【加速】の時間もあいまって使用時間があと、10秒程であった。


俺はオークに向かって突進し、そのまま爪を振り下ろした。今度はオークも俺の攻撃に対応できなかった。


……すげぇ。

俺は興奮していた。正直、ここまで強くなれると思っていなかった。


俺がこの魔法に付与した効果は【身体強化・気配隠蔽】だ。

身体強化は特に素早さが上がるようにしており、オークは俺の動きに完全についていけなくなった。しかし、それでもギリギリ見えているようでなんとか回避しようとしていた。

そこで俺は付与していたもう一つの能力を使った。


その瞬間、オークの視界から俺の姿が消えた。【気配隠蔽】は俺の存在を薄くする能力だ。今はまだ不完全のため、まだ相手からしてみたら半透明にしか見えないだろうがオークは俺についていけてないため、これで十分だった。


オークが俺を捉えられていないのを確認すると、俺は残り時間も少ないためさっき以上のスピードで攻撃を始めた。













〈オーク視点〉

忌々しい!なんなのだコイツは……

さっきまでとは何かが変わった。あいつはあの時の弱い奴のはずだ。現にあいつは俺よりも弱く、急所に攻撃が入れば少し不味いが、すばしっこいだけで大したことはなかった。


しかし、マナを体に纏った途端に変化した。急に奴が見えなくなった。しかも、気づいた頃には急所にも攻撃が入っていた。


奴を捉えることが出来なくなっていた。素早さが上がっただけではない。それだけなら、俺の嗅覚で奴の動きが少しでも分かっているはずだ!


それなのに感じることができん。嗅覚がやられているわけではない。周りの植物の匂いは感じる。……まるで、奴の存在だけがこの世から消え去っているようだ。……


俺が戸惑っている間に奴はどんどん俺の急所をめがけて攻撃をし続けている。

嗚呼、忌々しい!腹立たしい!何故、俺が弱者に翻弄されなければならぬ!

いたぶっていいのは俺様だけなのだ!


そう思っても、奴は攻撃を休めることをしない。止まることがない。高速で駆け回り、俺の感知を潜り抜け、的確に急所にばかり入れてくる。


このままではまずい!早くどうにかしなければ!オークは焦るが、この現状を打破する手立ては思いつかなかった。そうこうしているうちに、オークのHPは残り3割を切った。


そうしてオークが死を直感したとき、恐ろしいことを思いついた。


このまま朽ち果てるのであればあいつもろともくたばってやろう!

オークは自爆を思いついてしまった。


オークはナディーの攻撃を防ごうとするのをやめると、体の中心にマナを凝縮し始めた。


ふはははは!死ねぇ!


〈ナディー視点〉

俺がオークを追い詰めているとあいつのマナの反応が急激に変化した。

うん?この反応、もしかして……


俺はオークがしようとしていることに気づいてしまった。まさかこいつ、自爆する気なのか!?


母さんに魔法を教わっているとき、俺は注意点として言われていたことを思い出した。


『ナー君、いい?マナを感知したとき、自爆魔法にだけは注意して。』


『自爆魔法?』


『そう。マナを操作するだけで、普通の魔法のように術式の構築がいらず、ユニーク魔法のように、イメージも必要としない魔法よ。』


なにそれ、便利じゃん。と、俺は思ったが魔法の名前を思い出し、それだけではないと思い、母さんの言葉の続きを待った。


『確かに発動方法だけを聞けば便利に聞こえるでしょう。だけどこれ、魔法って言ってるけど、意図的にマナ暴走を引き起こしているだけなのよ。』




マナ暴走。不穏な言葉を聞き、俺は少し身構えてしまった。


『マナ暴走は魔法を発動する際に、魔法が暴走し、発動者を起点として起こるマナの一斉解放よ。解放されるマナが多いほど当然、爆発の威力も高まるから、もし使ってくる奴にであったら手段としては爆発する前に倒すか、爆発の範囲から逃げるか、爆発自体をとめるか。この3択しかないわね。』


——このままだとオークは自爆してくる。どうする?この勢いで削って行っても間に合わない。なら、一撃で消し飛ばすしかない!


俺は一旦オークから離れて、足に力を込めながら残りのマナを全て右腕にかき集め、持てる最強の一撃を繰り出した。


『…【暗殺者アサシンショ】』


溜め込んだ力を爆発させ、音すら置き去りにする一撃を当てると、オークは一瞬耐えたかのように見えたが……


【経験値を1786獲得しました。】

【経験値が貯まりました。ナディーがレベル17→40まで上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈爪擊〉とスキル〈牙撃〉のレベルが9→10に上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈疾走〉のレベルが5→8に上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈危機感知〉のレベルが2→4に上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈超嗅覚〉が2→4に上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈爪術〉とスキル〈牙術〉のレベルが4→6に上がりました。】

【レベルが上限に達しました。進化が可能です。】


俺は転生初日のトラウマであったオークを見事に倒し、恐怖を克服することができた。

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