第27話 オオカミVS人間

『……あれか。』


 俺はじいちゃんから聞いた場所へと急いで行ってみるとちゃんと人間達がおり、聞いていた通り、何かを探しているようだった。


「おい、まだ見つからねえのか?」


「あぁ、今の所はこの近くに生息していると痕跡しか見つかってねえ。」


「早く【影の支配者シャドールーラー】を見つけろよな〜。」


「ギャハハハハッ!マジメにやってんのか〜?」


「あーん?おい、殺んのか!?」


「あ?やってやろうじゃねえか!」


「お!いいぞ〜。もっと殺れー!」


「そこだ!いけ!」


 聞き耳をたてていると、何やら荒れているようだが、今の俺には関係なかった。【影の支配者シャドールーラー】?誰のことだ?と、一瞬考えたがじいちゃんの話から直ぐに親父の事だと気づいた。


 何かカッコイイ2つ名を持ってていいなぁ……今度、ノルとシアと一緒に自分達の2つ名を考えてみるか。


 俺は今度みんなでやることを決め、やる気を上げていると、どうやら騒ぎが終わったようで騒ぎあっていたうちの1人が血を大量に流しながら倒れていた。


『さて、そろそろ襲撃するか。』


 俺は近くで見つけたスモールボアを急いで食べ終わると一体の影に最初の命令を発した。


 影は命令を受け取るとそのまま地面に沈んでいき、完全に沈んだかと思うと人間達の方から悲鳴が上がった。


 ──────────


「な、なんだこの魔物!ウルフ系か?」


「でもよ、こいつどこから出てきたんだ?」


「そんなのは関係ねぇ!さっさと殺るぞ!」


 ちょうと近くにいた男が手に持っていた剣を振りかぶり、影を攻撃しようとしていたが、それが影に当たることは無かった。


 影は剣に当たる瞬間に溶けだし、標的を見失った剣は宙を斬った。


「あ?やったのか?」


 剣を振り下ろした男は影が消えたことにより、倒したのかと思ったようだが、それでは甘い。


「おい!後ろだ!」


 近くにいた仲間が叫んでいたがもう遅かった。影は後ろが無防備となっている男の足に思い切り噛み付いた。


「グァッ!い、痛ェ!」


 男は振り払おうと影を掴むが、影は男の足に深々と噛み付いているためか離れることは無かった。


「おい!そのままじっとしてろよ。」


 すると見かねた仲間が男の近くへと寄り、すぐさま剣を取り出すと素早い一閃を繰り出した。


 影は切り裂かれるとすぐに露散した。


「な、なんだったんださっきの魔物は。」


「おい、そんなことよりも動けるか?」


 影を切り裂いた男は近くに魔物がいないことを確認すると噛み付かれた男に怪我の具合を聞いた。


「いや、思ったよりも深くてポーションを使わないと無理そうだ。」


「チッ、それなら誰か早くポーションを取ってこい!」


 男の大声に反応するように1番気が弱そうな奴が急いで取りに行った。その際にコケそうになり、俺はついクスッと笑ってしまった。


 まず最初の目的『影が人間に対してどれだけ使えるのか確認する』が達成できた。

 最初に数で仕掛けない理由としてはまず、の人間が俺の相手ではないと確信したからだ。


【マナ感知】により、人間達のおおよそのマナを感じ取ってみると全員が俺よりも少なく、5人分を合わせてようやく俺と同じぐらいのマナ量になった。


 中には1人だけ俺以上のマナを持っており、【危機感知】の警報が深層級で恐らく勝てないだろうと確信できる奴もいた。


 恐らく死ぬ気で戦えば勝てるかもしれないがそこまでする気が無かった。ノルとシアを置いて死ぬ気なんて無いし、の相手、本当は親父の客なのだが、それを俺が横取りしているだけなのだ。


 なのでいざとなったら親父にぶつけて事情を説明すればきっと許してくれるだろう。


『さて、影達の性能も完全に確認出来たし、そろそろ本格的に襲うとするか。』


 やることもやった為、今は完全に周りを警戒している人間達をこの森から追い出すために総攻撃を仕掛けることにした。


『影達よ!あの人間共を全員で襲撃するのだ!この森の平穏を脅かす者共を滅ぼせ!』


 大群を率いることに何だか急にワクワクしてきたので調子に乗って大声で影達に命令を発した。


 因みに命令は声に出さずとも、マナを使って思念を送ればいいので声に出す意味はない。

 ただ、カッコイイので雰囲気に任せにやっただけだ。


 影達は俺の命令を受諾すると先程のように不意打ちではなく、人間達に雪崩込むように突撃して行った。


「うわぁ!また来やがったぞ!」


「なんなんだよこの数は!」


「誰かこっちを手伝ってくれ!」


「バカ野郎!こんなに魔物共がやって来てんのにてめえの所だけ手伝えるわけねえだろ!」


「チッ!隊列を組め!数は多いが、強さはそこまで高くない!連携して討伐するのだ!」


 影達の襲撃により、人間達は大混戦を繰り広げていた。向こうの数がおよそ40人程に対して、影の数は100を超える。


 たった一体で少しでも手こずっていた魔物が自分達の倍以上襲ってくるのだ。次々と人間達に犠牲者が出始め、人間達は劣勢になっていった。


「クソ!ケビンの奴も殺られやがった!」


「おい!慌てるな!まだ巻き返せる!」


「畜生!こんなことになるんなら今回の任務に来なけりゃ良かったぜ!」


「そんなこと言ってる暇があるんならさっさと手伝いやがれ!」


「グァッ!痛ぇ、噛まれちまった。誰かポーションを持ってきてくれ!」


 人間達はそろそろ限界のようで残っているのは半分もいなかった。


『さて、俺が出なくても意外と行けたな。これなら【影人形ドッペルゲンガー】にそこまでマナを回しさなくても良いかもな。』


 もう人間達も全滅するだろうと思い、【影人形ドッペルゲンガー】を使用してみて今後の注意点などを考えていると影が一体消滅したのが分かった。


『ん?』


 一体消えたかと思うとまた一体、また一体と急速に影の数が減っていくのが分かった。


『どうして急に倒されるようになったんだ!?』


 慌てて【マナ感知】を発動させるとどうやら人間達がひとまとまりになっており、俺が気をつけなければならないと思っている奴が奮闘しているようだ。


「お前達、気を引き締めろ!人数は半分を下回ったが、貴様らが残ったということはそれだけ優秀だということだ!」


 見た目はどう見たって老人なのだが、1番早く、周りを激励しながらも次々と影を蹴散らしていった。


 周りの人間達は自分達を追い詰めた魔物を蹴散らして行く姿に下がっていた士気が上がりだし、他の人間達も影を段々と倒し始めたのだ。


 人間達からすれば頼もしい仲間との協力により、次々と魔物を打ち倒していく姿は心踊るような気持ちだろうが、俺としては嬉しくなかった。


『むぅ、このままだと突破されちゃうな。……仕方ない、俺もそろそろ出るか。』


 もしかしたら影だけで行けるのでは?と考えていたがそんな甘い事にはならないようだ。変に意地を張る必要もないので俺自身も参加することにした。


『まずは、動きを止めるか。……【氷結の霧フリーズミスト】。』


 俺の目の前に魔法陣が現れるとその魔法陣から白い霧が発生した。俺は人間達よりも高い崖にいる為、霧は魔法陣から溢れ出るかのようにゆっくりと人間達の元へと向かっていった。


「む?霧なんてあったか?」


 影を蹴散らしたのことで余裕が出てきたようだ。自分達の周りに霧が立ち込めているのに気づいた。


「な、なぁ。何か寒くなってきてねえか?」


 前線で戦っていた男の1人が気づいた様だったが、今更気づいたところで遅い。


 男が霧に触れた途端、男の手がみるみる凍り出した。男は霧から逃げようとしたが、足も霧に触れていたようで動きが遅くなってしまい、逃げることが出来ずに氷像に変わってしまった。


「な!?」


「凍ったぞ!」


「ヤバい!この霧に触れるんじゃない!触れたら死ぬぞ!」


「不味い!霧に囲まれてる!」


 他の人間達も気づいて霧に触れない様に避け始めた。あの老人はどうするのかとチラッと見てみたが、霧を恐れていないようで剣にマナを纏わせたかと思うと、霧を切り裂くような動作をした。


 それだけなら普通はなんの意味もない。しかし、霧は斬られたことに気づいたかのように急速に消えていった。


『えぇ……あいつだけ、強さが段違いじゃない?どうやったの?』


【マナ感知】でよく見てみるとスキルか何かの様で切り裂く瞬間に纏っていたマナが飛んでいき、霧に含まれているマナを消し飛ばしていた。


『あのマナの消費量だとあいつには霧が効かないな。』


 さっきのマナの斬撃を飛ばす攻撃でマナがどれぐらい減っているのかを確認してみるとほとんど減っていないようなのであの老人には霧は効かないようだ。


 でも、他の人間達には効くので止めないが。


「気をつけろ!この黒い魔物以外にも魔法を使ってくる魔物がいるかもしれん!各自警戒態勢!」


 老人は気づいたようだが、周りは影と霧によって気づいていないようだ。それなら好都合だ。


「え?灰色のオオカミ?」


 俺は1人の男の前に立った。影達と色が違う為、俺が異質に見えるだろう。もちろん、目の前の男が戸惑っている状態から立ち直るまで待つつもりは無い。


「グァッ!」


 男の胸を爪で切り裂くと俺は経験値獲得の通知を聴きながらすぐに次の標的の所へと移動した。


「どうした!?」


「グハッ!」


「グェッ!」


 次々と倒れていく仲間に気づいてよってくる人間を1人、また1人と倒していると老人が俺の存在に気づき、こちらの方が危険だと判断したのか俺の方に寄ってきた。


「灰色のオオカミだと?他の魔物よりも強さが段違い……さては貴様がこの魔物達のボスだな。」


 そう言うと老人は確認を取らずに斬りかかり、俺はそれを事前に予測していたので余裕を持って避けた。


 避けた後、俺はそのままの勢いで反撃しようと爪にマナを纏わせながら振り下ろした。


 老人はそれを剣で受け止め、俺のことを押し返すと、左手にマナを溜めているのがすぐに分かった。


 風魔法の【風刃 ウィンドカッター】を【魔法消去マジックキャンセル】で打ち消し、魔法が打てないことに驚いている隙に1度地面に着地し、胴体に噛み付こうと足と牙にマナを巡らせ、【身体強化】を発動しながら飛びかかった。


 老人は避けきれないと悟るや、距離をとるのではなく、魔法を放ったことで掲げたままにしていた左腕を盾にすることで俺の攻撃を防いできた。


「くっ!」


 だが、腕に付けていた篭手を俺の牙が食い破り、深々と腕に噛み付いたことで老人は堪らず、呻き声を上げたが、何とか踏みとどまり、左腕ごと斬ろうとしてきた。


 俺は牙を老人の左腕から離し、避けようとしたが、思っていたよりも深く噛み付いたようで少し逃げるのが遅れ、斬られてしまった。


『キャン!(痛った!)』


 幸いにも傷は浅く、動けなくなってやられるなんてことにはならなかった。


「チッ!この霧のせいか?さっきから動きが鈍い。そのせいで仕留め損なってしまった。」


 お!これはいいことを聞いた。この老人はいつもより動きが鈍いようだ。【氷結の霧フリーズミスト】は魔法抵抗が弱い相手を氷像に変える雑魚狩り専用の魔法だと思っていたが、凍らない相手のスピードも下げることができるようだ。


 老人をよく観察していると手足が僅かに震えており、肌も赤らんで息も白くなっているので寒がっているようだった。


 ふむ、案外使える魔法なのかもしれないな。これならまだ使える魔法が手持ちにあるかもしれないな。


 俺はこの後の楽しみができ、相手にバレない程度に喜んでいると急に老人のプレッシャーが増した。


 怯みそうになるが何とか堪え、老人を睨みつけるとこちらも負けじと【威圧】を発動し、対抗することにした。


『アォーン!(この程度で俺に勝てると思うなよ?人間風情が!)』


 俺は相手に聞こえないと分かっていながらも魔物として、迎え撃とうと吠え、再び老人に襲いかかった。

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