第二章 決意

第14話 オオカミ、これから…

オークとの戦いから2年が経った。

俺は相変わらず親父にしごかれながらアルケー大森林で暮らしていた。


だけど、この2年で3つのことが大きく変わった。

1つ目はノーラとの交流ができたことだ。進化が終わった翌日、俺はオークとノーラと出会った薬草が群生していた下層へ向かった。


そこにはノーラがおり、俺のことを探していた。俺はそこへ遠吠えをして、自分が来たことを知らせた。


「あ〜!昨日のオオカミだ!ちゃんと来てくれたんだね。良かったー。」


そう、実はあの日、俺は帰ろうとした時、ノーラに止められて


『待って!明日もここに来てくれる?あなたとお話したいのよ。いい?』


俺は特にだめな理由がなかったので頷き、今日、ここに来た。


「オオカミさん、まず、お名前はあるの?」


「ウォン!」


「お名前教えて!」


その勢いのまま答えようとしたが、すぐに気づいて固まった。

あれ?俺、ひとの言葉話せないから無理じゃん。頷いたり首を振ったりする質問なら答えることができるが、言葉を出さないといけない質問は答えることができなかった。


「あれ?どうしたの、オオカミさん。」


俺がそのまま固まっているとノーラが俺にキョトンとした顔で近寄ってきた。

俺は必死にジェスチャーで言葉が話せないことを教えようとした。が……


「フッ…フフッ、オ、オオカミさん、や、止めて、変な動きしないで、笑い過ぎて、お、お腹が、痛いよ〜。」


『ウォン!ウォウォン!(おい!こっちは真剣にやってんだぞ!)』


どうにか伝えようとしても、ノーラには俺が変な動きをしているようにしか見えず、終始ずっと笑われ続けた。


「ワフー…」


「あ!笑っちゃってごめん。つい、面白くて……そうだよね、人間の言葉が話せないもんね。」


俺が落ち込み、項垂れているとノーラは慌てて謝ってフォローしてきた。


「うーん、お名前が喋られないなら……私の時だけは別のお名前で呼んでもいい?」


別の名前?ナディー以外の名前をつけるってことか?俺が疑問を持っているまま、ノーラはどんどんと進めて言った。


「何がいいかなぁー。オオカミだからオー君?それとも、ガルちゃん?何がいいかなぁ〜。」


ノーラは名前を思いついては口に出したが、いいものが思いつかないようでウンウンとうなりながら考えに没頭していた。


俺はここを少し離れようかと考えたが、ノーラが俺のためにやってくれているのだから一緒に付き合おうと思い、ノーラの側でずっと待っていた。


「うーん、なかなかいいお名前がでてこないなぁ。……オオカミさん、何か好きなものとかある?」


数十分後、名前が思いつかなかったらしく俺の好きなものから名前を考えようとしているらしい。


うーん、好きなものか……

何があるかなぁ。俺はぼんやりと考えた。好きなものと聞いて最初に思いついたのは親父や母さん達だった。転生して来た俺に対して俺が変なことをしても怪しんだりせず、笑ってくれた。


俺はそれで良いのか?と思った時もあったが、変わらず親父と母さんが俺に接してきてくれたのがとても嬉しかった。だから俺も2人が大好きだった。


他の好きなものも考えてみたが、肉だったり、寝ることだったりとなんかパッとしなかったので影魔法と氷魔法を使うことで好きなものを伝えることにした。


俺は【シャドーボール】と【アイスボール】を発動した。


「どうしたのオオカミさん?……それって魔法!?すごいね!!」


ノーラは俺が魔法を使ったのを理解したようだが、何故魔法を発動したのかに気づいていないらしく、単純に魔法を見たことに興奮していた。


「ウォン!(興奮してないで早く名前を決めてくれ!)」


ノーラが興奮し過ぎて進まないのを察した俺は少し【威圧】を発動させながらノーラに吠えた。


「ひっ!あっ…ごめん。そうだったね、オオカミさんのお名前考えている最中だったね。私、初めて魔法を見たからつい……。」


するとノーラも正気に戻ったようで名前を考えるのを再開してくれた。


「さっきの魔法って氷魔法と……何属性なんだろう。闇?闇と氷……うーん。あ!そうだ!」


どうやら何か思いついたらしい。ノーラは顔を輝かせながら俺に近寄ってきた。


「ねぇ!ファンタジアってどう!?」


「ウォン?」


ファンタジア?どういう意味で?

俺が戸惑っているとノーラは興奮気味に答えてくれた。


「闇と氷って幻想的で綺麗でしょ?ファンタジーって幻想っていう意味があるんだけど、それを少し言葉をアレンジしてみたの。どう?」


ノーラは俺に説明を終えると期待したような瞳で俺のことを見てきた。

……ファンタジア。ナディーの名前に負けず劣らずいい名前だと思った。


「ウォン!」


俺は満面の笑みでノーラに頷いた。


「いい?じゃあ、これからもよろしくねファンタジア!」


それから2年間、毎日ノーラは薬草を取りに来ては俺のことを探して雑談をしていた。

そして今日もノーラはやって来て俺と話をしていた。


「ファンタジア!聞いて聞いて、今日ねシェータが酷いことしてきたんだよ!」


今日はどうやら愚痴を喋りたいらしく俺は大人しくノーラの近くに近寄り、ノーラの話しを聞き始めた。


「あのね、シェータは私の幼馴染で村の中で子供達のリーダーをやってるの。やんちゃだけどみんなに優しくて大人達にも人気なんだよ。でも、なんか私にだけはね意地悪してくるの。

今日だってね、私がシェータに『おはよう』って言ったんだけどシェータは私の顔を見ると顔を赤くして急に後ろを向いてから私にね『バーカ!』って叫んで逃げていったんだよ?信じらんない!ほんと嫌になっちゃう!」


幼馴染の愚痴らしいが俺は聞いてみるとそのシェータがノーラのことを好きだけど素直になれずにいるようにしか見えない。


そしてそれを怒りながらも、少し嬉しそうに話しているノーラも惚気ているようにしか見えなかった。


それからもノーラの惚気話は続いていき、俺は途中で飽きたため少し眠りながら聞いていた。


「あー!ファンタジア!寝ちゃだめだよ!まだお話の途中だから!」


ノーラは俺が寝ていることに気づくと怒りながら揺さぶってきた。

俺は諦めて起きるとノーラの話を最後まで聞き終えた。


ノーラは話を終えるとスッキリとしたようで、立ちっぱなしで話していたがようやく座ってゆっくりとした。


「よし、お話しを止めてそろそろ特訓を始めよう!」


ノーラはしばらく休むとそう言って立ち上がり、俺の方を向いてきた。


そう、実は俺はノーラに魔法を教えていた。ある日、ノーラが『ファンタジアみたいに魔法を使いたい!』と叫んだときがあり、俺も人に教えたことがなかったが、ノーラはどうしても教えて欲しいと頼み込んできたためそれに根負けして教えることになった。


そうなるとまた、言葉が通じない問題が出てくるが、ノーラがあることをひらめき、解決することができた。


ノーラは魔法の特訓を始めるにあたり持ってきた木の板を地面に置いた。


「ファンタジア、今日は何をするの?」


『今日は、魔法を同時に二つ出すのをやってみよう。』


「え〜、難し過ぎない?やってみようって言ってるけど普通できないでしょ。ファンタジアはなんでできるのさ?」


俺はノーラが地面に置いた木の板に書かれている文字に手を置き、ノーラに言葉を伝えた。


そう、文字を書いてある板に手をおいていくことで文字を伝えることだった。この世界は村などでも文字が普及しているようでノーラは木の板を持ってくると文字を掘り出し俺に教えてくれたのだ。


その甲斐あって俺はジェスチャーで伝えられない時はこの板を使いノーラに魔法を教えていた。


『マナ操作をずっとやってればできるようになるって。』


「いやいや、マナ操作をずっとだなんてどうなったらそんな発想になるのよ。」


そんな会話をしながら俺はノーラに魔法を教えていき一日を過ごして行った。

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