第31話 オオカミVS人造聖獣

 何か嫌な気配がする。親父が見つけたマナに近づいていくとその感覚が段々と強くなってきた。俺で近づいてやっとなのにあの距離からこの気配を感じ取った親父の【マナ感知】のスキルレベルはいくらなのだろう?そんなアホな事を考えて現実逃避をしたくなるぐらい嫌なマナだった。


 俺は今、森の入り口に向かっている。この森には入り口となる道が2つあり、今回はノーラがいつも通っている道とは別の道からマナの反応があった。ノーラのいるであろう村からは離れているのでノーラが巻き込まれることはないだろうからほっとしていると、森の入り口に近ずいてきたからか、木々が少なくなり、一気にスピードを上げて目的地に近づいた。


 —————————————


 目的のそいつを見た時、「歪だ」と感じた。


 熊の様な形をしており、そんな魔物ならこの森にもいくらでも出て来るし、俺も何度か戦った。


 だが、この魔物は見たことがなかった。


 熊の様な魔物と言ったが、腕は一見すると普通の熊の腕のように見えるが、よく見ると光を反射しており、金属の様なもので出来ているのが分かる。


 もう一方の腕も熊にしては明らかに不釣り合いな程に大きく、オーガの腕と言われた方がまだ納得ができるぐらいだった。


 いつもじいちゃんの頼みで森を回っているが、自然溢れるこの、緑豊かで、水資源も豊富、動物たちも様々な種類が住んでいるこの森でもあんな魔物は見たことがなかった。まるで、前世で見たゲームとかに出てくる「キメラ」の様な魔物だった。


 このキメラは先程から動きがなく、【マナ感知】で俺が感知してから1歩たりとも動いていない。ただ、この場に突っ立っているだけだった。


 しかし、歪んだマナを絶え間なく垂れ流しており、近くにいるはずの魔物や動物の気配が1つも無かった。


『こいつはいったい何なんだ?』


 俺は今まで見たことの無い魔物の登場に困惑していた。親父が危険だと言っていた様な片鱗を出していないからだ。


「おや?おや?おやおやおやぁ?」


 困惑している中、俺が魔物を観察しているとどこからともなく白い法衣を着た男が木々をかき分けてやってきた。


「ふーむ、灰色の狼の魔物。あぁ、アーク様が仰っていた新種の魔物でしたか。この聖獣試作機【エクスシア】の威圧に怯えていない?……近くにいた魔物共などは、一目散に逃げ出したのですがねぇ……」


 法衣の男は俺を見つけるなり、急にジロジロと観察し出し、何やらブツブツと独り言まで話し出した。何なんだ?こんな怪しい奴、ノーラの住んでいる村にいるのか?それにコイツ、あの魔物のことを知っているのか?魔物もあの男のことを認識してるのか一瞬、視線を向けた後にまた宙をぼんやりと眺めていた。


「Dランク程度なら【エクスシア】の威圧に耐えることができないでしょうからCランク以上?それらなこんな浅い場所に出てくるのはなぜ?Cランク以上なら中層、下層にしかいないはずですが……」


 男は独り言を言い終えたかと思うと、さっきまで真顔だったが、急に笑顔を浮かべて恭しくこちらにお辞儀をしてきた。


「どうも初めまして、新種の魔物。私はウェスタンと申します。」


 今まで俺に挨拶をしてきた人間はノーラとこの目の前の男だけで、奇妙な気持ちになったが、それ以上に怪しさ満載だった。


「出会ってすぐに攻撃しないことを見るに高い知能を有しているのでしょう。…魔物にしては、ですがね。」


 ウェスタン、と名乗った男は俺に向けて一方的に話しかけてくるが、そこには興味や侮蔑の感情しか感じ取れなかった。ウェスタンは俺が言葉を認識しているのを理解しているようで、浮かべていた笑顔をより一層歪ませながら話しつずけた。


「ふむふむ、こちらの言葉を理解しているのはとても興味深い。ぜひともその体を解剖して調べてみたいところですが、その前に一旦、私の研究に付き合ってもらいましょうか。」


 ウェスタンの歪んだ笑みや解剖というワードに怯えていると、ウェスタンはキメラの方を向き、こちらが思わず引いてしまう程の興奮ぶりをみせた。


「こちらは【エクスシア】!わ・た・く・し・が、創り出した人造聖獣です!今回は、このエクスシアの性能実験に協力してもらいます。」


 ウェスタンは要件を一方的に告げると浮かべていた笑みを能面のような真顔に戻し、「キメラ」——エクスシアに命令を下した。


「エクスシア、あの魔物を殺しなさい。」


「グォォォォォォォォォォォォォ!」


 エクスシアは雄叫びを上げ、その巨体からは考えられないようなスピードで突進をしてきた。


「ウォン!?」


 俺はエクスシアの繰り出す突進に驚きながらも【身体強化】を発動させ、エクスシアを飛び越えて避けることにした。


「ほう、ステータスは中々高いようですねぇ。」


 ウェスタンが何やらつぶやいているがそんなものは無視だ無視!


『〈爪爪撃クロースラッシュ〉!』


 俺の爪が青白く光りだすと、俺はエクスシアの無防備になっている背中に〈爪爪撃クロースラッシュ〉を発動させ、威力を底上げした自慢の爪を炸裂させた。


「ほほう!?何ですかあのスキルは!」


 ウェスタンがまたもや何か騒いでいるが、今は戦闘に集中しているのと目の前で驚きの光景が起こったこともあり、全く気にならなかった。


 俺が地面に着地したのと同時にエクスシアに追撃を仕掛けようと【加速】を発動させ、もうスピードで再び背中に回り込むと、〈爪爪撃クロースラッシュ〉を叩き込んだはずの傷口が僅かにだが再生を始めていた。


『コイツ、【自己再生】持ちなのか!?』


 じいちゃんに教えてもらい、【自己再生】のスキルが存在していたのは知っていたが、実際に持っている魔物を見るのは初めてだった。


 俺が驚いていると、その隙にエクスシアは振り返り、俺のことを認識すると、オーガのような右腕を振り上げ、一気に叩きつけてきた。


『【氷精霊の守りアイスフェアリアルシールド】!』


 俺は咄嗟に放つことができる中級魔法の盾を発動し、何とか攻撃を防ぐことに成功した。エクスシアの攻撃を防いだ盾を足場にしてエクスシアから距離を取ったその時、足場にした【氷精霊の守りアイスフェアリアルシールド】が木端微塵になり、砕けた氷がマナに戻っていく最中、エクスシアは変わらぬ姿で佇んでおり、先ほど俺が与えたダメージは完全に癒えているようだった。


「ガァァァァァァァァァァァァァァ!」


 エクスシアは右腕を振り上げ、その腕を地面に叩きつけると、地面に亀裂が入った。


 亀裂は俺に迫ってきており、【暗影の捕縛鎖ダークチェーン】を発動させることで、亀裂の断面の影から漆黒の鎖を出現させ、断面と断面をつなぎ合わせ、無理やり亀裂の進行を食い止めた。


 エクスシアは亀裂攻撃が不発に終わると、今度は左の金属のような光を放っている腕を叩きつけた。


 また亀裂攻撃かと思うと、今度は【岩石の弾丸アースバレット】を放ってきた。しかし今度は数が多く、数十の弾丸が現れ、俺のことを襲ってきた。


岩石の弾丸アースバレット】は風を切る音を出しながら向かっており、流石に素のステータスでは避けるのが不可能だった。


 俺はまた【加速】を発動させることで風をも優に上回る速さで【岩石の弾丸アースバレット】を避けまくった。


 俺に空しくも当たらなかった弾丸は木々の幹を簡単に吹き飛ばし、大穴を開けながら森の奥へと飛んで行った。


 エクスシアとウェスタンには俺の回避が余裕があるように見えたようで、エクスシアは先ほどまで無表情だったはずが今ではハッキリと怒りの感情が浮かび上がっており、ウェスタンは俺にさらに興味が沸いたようで、「欲しい!」と叫んでいたが、俺に解剖されるような趣味はないのでお引き取り願いたい。


 しかし、実際には余裕は一切なく、【加速】を今回の戦闘では使うつもりはなかったのでそんな状況に陥っている今に冷や汗がだらだらであった。


『……親父、こんなにヤバいのらな教えてくれたら良かったじゃん。』


 そんな愚痴を呟いたが、散々親父に止められたのにここにやってきたのは俺なので自業自得であった。





 今回は何かヤバい気配がする。


 エクスシアがやってきたことだけでは何か説明がつかない予感が戦闘を開始してからずっと止まらなかった。


 頼むからみんな無事でいてくれ。


 そんな願望を抱きながら俺はエクスシアを倒すべく、エクスシアに向かって躍りかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る