第43話 オオカミVS大蛇

『…さて、ここからどうするべきか』


 ぶっちゃけ、感情のままに飛び出したせいで作戦は何も考えていなかった。今現在は【隠密】を使いながら、一撃当てたら直ぐに離脱し、気配を消すヒットアンドアウェイを行っている。


 このままでも勝てそうな様子ではある。【纏技合マギアかげ】を使っている為、隠密性能はかなりのものになっている。


『でも、やっぱり時間制限と火力不足が否めないんだよなぁ』


 深層の魔物にステータスで勝負を挑むのかなり分が悪く、大体の奴らが格上、良くても同格(ただし、スキルは考えずにステータスもかなり尖がっている為、どれか一つの項目は見ないものとする)が蔓延っている様な世界だ。


 当然、そいつらに対抗する為には【纏技合マギアかげ】と、俺のユニークスキル【加速】の並列使用をしなくてはならず、【加速】には制限時間がある訳で、何とか同レベルに持ち込むことができても、切り札をすでに切ってしまっている時点で俺の負けである。


 その点、この大蛇君はまだ。この階層では下の上といったところだろう。余談だが、俺は下の中といったところである。最下層はゴブリンやここにいるスライムである。こいつ等、深層に適応したことで鬼みたいに強化されたのにどこに行ってもこんな扱いだから気の毒すぎる……


『おいおい!そんなに鈍くていいのかぁ!?攻撃が当たりまくってんぞ!?』


 俺は大蛇を煽りながら攻撃を行う。まず間違いなく俺自身がやられたら確実にブチ切れるであろう方法を嬉々として行っていく。それを喰らっている大蛇は血管がはち切れんばかりに浮き出ており、度々吐き出してくる毒や牙の攻撃にも並々ならぬ殺意が込められており、スライムに吐いていた毒よりも禍々しい色に変貌していた。


『【氷精霊の守りアイスフェアリアルシールド】』


 俺に迫ってくる毒を防ぐために氷の結晶でできた小盾を出現させ、毒が霧散し、霧になる前にその場を離脱する。


「シャァァァァァァッッッ!!!」


 ぶちぎれている大蛇は自身の毒が全く効かないようで、霧状になった毒をものともせず、こちらに突っ込んで来た。


『…【辻斬りの刃風リーパー・ストーム】』


 通常ならば実体と同期して動くことしかない大蛇の影。それが不自然に揺れていることにいかれた大蛇は気づかない。否、気づいても避ける事ができなかった。


 影は実体の足元から伸びている。足の下という意識でもしないと戦闘中は見落としがちな場所。そんな場所から奇襲を仕掛けることはできるのか?答えは目の前にあった。


「キシャーーッ!?」


 大蛇は突如自身の影から飛び出してきた闇を纏った刃の入り乱れた嵐を喰らい、大蛇はその身を硬直させた。…ちっ、傷が浅いな。これ、何発コイツに打ち込めばいいんだ?


『まぁ、死ぬまであて続ければいいだけの話なんだけどなぁっ!』


 近くにあった木を足場にし、一気に加速する。こんなに障害物木々が多いんだ。気配を薄くしている俺を果たして見つけることはできるかな?


『ほらほら!どうした!?動きが止まってんぞ!』


 足元からの不意をついた攻撃、姿を隠し、どこから奇襲を仕掛けてくるのか油断のできない環境下。いくら深層の魔物とはいえ、これほど気が抜けない戦闘はないだろう。それはこの大蛇——ポイズン・ブラッドも例外では無かった。


『【氷結の大槍アイスランス】』


 俺は大蛇に飛びかかりながら魔法を構築。巨大な氷の槍が目の前に現れ、肉迫した俺はその巨大な槍を至近距離で大蛇へと叩き込む。大槍には回転もついており、並大抵の奴らでは触れただけで大怪我を負いかねない威力を込めていた。


 大蛇は正面から迫ってくる槍が避けきれないと悟るや否や、馬鹿でかい尻尾を使い自身を貫かんとしている槍に巻き付け、その勢いを殺していった。


『な!?そんなのありかよ……』


 そのしなやかな尻尾を巻きつけることでその衝撃を緩和。大蛇は動きが完全に止まるまでその尻尾に生物に使えば締め殺さんとばかりの力を込め、その勢いを殺していく。やがて、槍は勢いを完全に殺され、ただの冷たいだけの柱とかしてしまった。


『マジかよ、結構なマナを消費したんだぞ?かすり傷くらいは与えられると思ってたのに、無傷はないだろ無傷は……』


 残り残量の2割は食ったんだぞあの槍。ダメージを喰らってくれても良かったんだぜ?


 心の中で嘆いたが、結果は変わらない。大蛇の背後へと移動する最中、そんな些細ばかなことを考えていた。


 背後にまわった俺は爪にマナを込める事でスキルを発動する。


『【螺旋爪撃らせんそうげき】』


 爪に宿したマナが渦巻き、螺旋を作り出す。マナが螺旋を生み出したことで周囲の空気が揺れてしまいその揺らぎを感知した大蛇が背後を振り向いたがそれでは遅い。


『【暗殺者の一撃アサシン・ショット】』


 一閃。

 大蛇の振り向く瞬間、すれ違いざまに俺が放った螺旋を作り出すその一撃は大蛇の皮を破り、その肉を切り裂いた。


「キシャーーッ!!」


 今回の戦闘で初めて与える事ができたダメージに堪らずに大蛇は呻き声をあげ、周辺木々を薙ぎ倒すほどに暴れ、俺は大蛇の尻尾が当たりそうになった瞬間、あらかじめスライムの近くに待機させておいた【影人形ドッペルゲンガー】の元に転移をし、無事にやり過ごすことにした。


『【影人形ドッペルゲンガー】が一撃かよ。あれに当たったらと思うと、ゾッとするな……』


 流石に一撃はないだろ一撃は。【纏技合マギア】の発動中なんだぞ。素の状態で発動したのならまだしも、流石に深層ともなると火力が違いすぎて泣けてくる。


『だが、この程度で負けてられるかぁッ!!』


 親父の全力はこの程度じゃ無かった。親父の本気はもっと速かったし、力強かった。今の俺じゃあ、手も足も出ないくらいに。


 それをあのアヴィディーは打ち倒した。あいつはノルとシアも俺から奪っていった。俺が弱いから奪われた。それを理解しているからこそ、ここに来たんだ。あいつを殺せるような力を手に入れるまで……オレハココデニゲルワケニハイカナイ。ココデシヌワケニハイカナイ。


『ガァァァァァッ!!』


 俺は叫び声を上げながら大蛇に突っ込む。チクチクやってるだけじゃあ、ジリ貧だからなぁ。


『後、10分。それまでにお前との決着をつけてやるよ。大蛇』


 俺は身体強化に回しているマナの量を増やす。残り、半分か。まぁ、足りなくなったらマナをなしで殴ればいいか。


『【死を呼ぶ黒狼デス・ウルフ】』


 あらゆる物を飲み込まんとする漆黒の影が爪に流れ込む。ゾッとするほどのマナが込められた俺の爪を見た大蛇は警戒心を上げ、攻撃を避けるように立ち回るが……遅い。


『コイツは死神の眷属の刃だ。その分、いかんせん燃費は悪いけどよぉ……切れ味は保証するぜ?』


 防御しようとした尻尾を切り裂く。なんの抵抗もなく切り裂かれた尻尾は根本から綺麗にちぎれており、防ぎ切ったと確信していた大蛇は大きく目を見開いていた。


『ほらほら!ぼさっとしていると微塵切れになっちまうぜぇ!?』


 木々を足場にし、切り裂く、離脱する、背後に回る、切り裂く、また離脱する……この繰り返し。


 俺が攻撃をする度に大蛇の皮膚は切り裂かれ、傷を増やし、そしてその命を零していく。


『ハハハハ……アハハハハハハッ!』


 ああ、楽しいなぁおい。こんなに戦いって楽しかったけ?……まぁ、いいや。今は楽しけりゃ、それで良い。この戦いを終えれば、俺は強くなれる。それが嬉しくてたまらない。


『おい、おいおい大蛇ァ。楽しいなぁ。最っ高だなぁ!?』


 大蛇は突如声を上げて笑い出した俺を恐怖した目で見てくる。ああ?狂ってる?なんの事だよ。大蛇の目は狂った奴を見ているような目をしていた。なんだよ、つれないなぁ……


『もっと、もっと一緒に楽しもうぜぇッ!!』


 俺はさらに加速した。もっと戦いを楽しみたい。もっと激しく……親父みたいな戦いをしたい。親父のようになりたい。もう、親父に会うことはできない。それなら、俺が覚えている限りの親父に顔向できないような無様なまねをせず……再会したときに、笑えるような生き方をしたい。


『【暗殺者の蹂躙アサシンズ・ファランドン】』


 漆黒の流星が戦場を駆け巡る。その流星は大蛇の周辺を廻り、切り裂き、噛みちぎり……大蛇を傷つけていく。


「キ、シャァ……」


 大蛇は俺の猛攻に耐えきれず、崩れ落ちていく。


『ちっ、マナが切れ始めた』


【|死を呼ぶ黒狼デス・ウルフ】はその効果がきれ、漆黒の光が消えた。【纏技合マギア】も後1分が限界だな。


『だが、この後一発で決めりゃあおしまいだぁ!!』


 残りのマナを全てこの一撃に込める。これで終いにしようか、大蛇!


『ラストォォッ!』


 俺は【暗殺者の一撃アサシン・ショット】を発動させながら大蛇に突っ込む。決まった!






 ────────────


「キシャ……」


 大蛇はここで死ぬのを悟った。あの急に狂った狼には勝てない。あのスライムを追い、今日の餌にしようとしただけなのだが、ついていなかった。あの狼とは相性が悪すぎた。


 いつもは毒を吐き出し、弱っていく獲物を捕食するのがこの大蛇が十八番だったのだが、この狼は速すぎる。毒を喰らわないんだったら、弱らせることができない。


 最早、ここまで。傷もあちらこちらにあり、内臓もボロボロ。毒もあと一回作ることしかできない。


 だが、このまま諦めるのはプライドが許さない。


 大蛇は最後の悪あがきとして一発の毒を吐き出した。それは即効性があり、ほんの僅かの間のみ相手の動きを止める麻痺毒。先程までだったら当たらなかっただろう。しかし、いつも勝利の確信を得た瞬間こそ、最も警戒するべき時なのだ。





 ───────────


 不味い不味い不味い!

 体が動かない。クッソ!毒を食らった!


 何やらハイテンションになっていたが、大蛇が最後の悪あがきとして吐いてきた毒を喰らってしまった。


 あの大蛇は強力な毒を吐き出すときにはいつも溜めがある。テンションが上がっていても警戒はしていたし、なんだったらいつもよりも集中できたからそんな隙があればさっさと攻撃を叩き込んでいた。


 勝ちを確信して油断したとはいえ、あの一瞬で吐いてきたのなら恐らく効果は短いはず。だが、この場の一瞬は致命傷だった。


「キシャーーー!!」


 これを好機と見た大蛇が突っ込んでくる。動くことができない俺はその突進をモロにくらってしまった。


『かはっ!』


 俺はそのまま上に打ち上げられる。くそっ、体が痺れてやがる。あの野郎、さてはスキルにも触ると毒を付与してくるやつとかあったな?


「シャーーーッ!」


 大蛇が大きく口を開ける。あいつ!俺をこのまま丸呑みするきか!?


 俺は必死に体を動かそうとするが毒のせいでうまく動かせない。このままじゃ……そう思ったときだった。


「ピィィィィッ!」


 あのスライムが現れた。どうして?そう思ったが、スライムは体から触手を伸ばし、俺を掴み大蛇の口に直行するはずだったルートから逸らしてくれた。


『サンキュウ、スライムゥッ!!』


 スライムは軌道から逸れた俺を触手から離す。俺は丁度毒の効果が切れたのを確認するとスライムの触手を足場とし、力強く踏み締め、大蛇へと飛びかかる。


『残念だったなぁ、大蛇!!これで終いだ!』


 漆黒に染まった爪。それはまるで死神の鎌のように振るわれたものの命を刈り取る。


『【暗殺者の一撃アサシン・ショット】!』


 死神の鎌は大蛇の命を刈り取り、その直後に消滅した。……危な、あとちょっとだったのかよ。


【ナディーが経験値を4708獲得しました】

【経験値が貯まりました。ナディーのレベルが31→36まで上がりました】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈真爪撃〉とスキル〈真牙撃〉のレベルが2→3まで上がりました】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈超嗅覚〉がレベル7→9まで上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈危機感知〉がレベル7→8まで上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈剛力〉がレベル5→8まで上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈堅牢〉がレベル5→6まで上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈爪術〉とスキル〈牙術〉がレベル8→10まで上がりました。】

【スキルが進化しました。スキル〈爪術〉とスキル〈牙術〉がスキル〈真爪術〉とスキル〈真牙術〉に進化しました】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈影魔法〉がレベル6→8まで上がりました。】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈氷魔法〉がレベル6→7まで上がりました】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈回避〉が1→4まで上がりました】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈暗殺〉が1→3まで上がりました】

【熟練度が一定に達しました。スキル〈マナ感知〉とスキル〈マナ操作〉のレベルが7→8まで上がりました】


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 名前 ナディー

 種族 セラドンウルフ

 Lv.36


 HP47/360

 MP12/270

 攻撃力.236

 防御力.186

 魔撃力.144

 魔法抵抗.163

 素早さ.535


 ユニークスキル

〈加速Lv.5〉


 スキル

〈真爪撃Lv.3〉 〈真牙撃Lv.3〉 〈夜目Lv.6〉

〈逃走Lv.5〉 〈疾走Lv.10〉〈剛力Lv.8〉〈堅牢Lv.6〉〈超嗅覚Lv.9〉

〈真爪術Lv.1〉 〈真牙術Lv.1〉 〈身体強化Lv.7〉〈マナ感知Lv.8〉〈マナ操作Lv.8〉

〈危機感知Lv.8〉〈威圧Lv.6〉 〈氷魔法Lv.7〉 〈影魔法Lv.8〉

〈睡眠耐性Lv.6〉〈回避Lv.4〉〈隠密Lv.3〉〈暗殺Lv.3〉


 称号

〈転生者〉 〈逃走者〉 〈進化個体〉

〈ユニーク個体〉 〈突然変異〉

〈トレントの教え子〉〈暗殺者〉

〈影を渡り歩く者〉〈復讐者〉

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