第42話 オオカミ、魔物を助ける

「ピ、ピピィ!?」


「シャーーーーーァァッッ!!」


 スライムが襲われている。この森にはスライム自体が殆どいないので珍しいかったからつい見てしまったのもあるが、問題はそれではなかった。あのスライム……


「ピ、ピピピュ…」


 スライムのステータスは基本的に低い。どうやらこのスライムも例外ではないようだ。森の上層に住んでいる魔物になら勝てるだろうし、中層でも勝てはしなくても生き残る事ができるだろう。しかし、この世界は理不尽だ。この階層ではいくら上層や中層で生き残れるとしても、その程度では無力だ。


 しかし、このスライムは伊達にこの階層で生存してはいなかった。


「ピ、ピピピ」


 踏み潰され、抉れてしまったスライムだったが、モゾモゾとした動きをすると体が欠けた部分から新たな細胞が出現し、あっという間に再生を果たしてしまった。


「キシャーーーッッ!!」


 大蛇はそれを見ると驚いたが、直ぐに気を取り直したがスライムに手間を取らされている事が気に食わないようで、一気に激昂するとスライムに襲いかかった。


『あのスライムも再生能力持ちか。恐らく、あの大蛇は毒も持っていると思うんだが、あのようすだと効いてないな』


 あのスライムは再生能力が高い様で、大蛇に噛みつかれようとも、尻尾で薙ぎ払われようとも、高速のタックルを喰らい千切られようとも、スライムは瞬く間に再生し、逃げ回っていた。


『あのスライム、ずっと逃げ回っているが、もしかして攻撃手段がないのか?』


 あの再生能力があれば、自爆覚悟の攻撃が幾らでも放てるだろう。それなのに攻撃をしないっていうことは、攻撃力が低いのか、攻撃系のスキルがないのだろう。


「ピ、ピィッッ!!」


 スライムは何やら悲痛そうな鳴き声を上げていたが、見つかった自分が悪い。ここでは弱者は見つかったら一巻の終わりだ。


『まぁ、どうでもいいか。このままあの蛇のスタミナを削ってくれたらそれでいい』


 折角のチャンスなのだ。現にあの大蛇も攻撃をする度にほんの僅かにだが、疲れ始めており、徐々に攻撃をする間隔も伸びているし、速度も遅くなっている。


 あのスライムが何処まで再生出来るのかは分からないが、これを逃す手はない。悪いが、あの大蛇と一緒に俺の糧になってくれ。


 そう思い、俺はこのままこの戦闘を観察しようとしたのだが、不意にあの言葉が頭の中を反芻した。





──お前、弱いな。





 あの時、親父を助けようとして動く事が出来なかった俺に向けて放たれたあのクソ野郎が言ってきた言葉。


 俺が弱いから親父と母さんを助けることが出来なかった。俺に力が無いからノルとシアを連れていかれた。


 じいちゃんにも助けられ、俺の力はちっぽけなものだという事を徹底的に突きつけられた。


 俺が弱い?そんなの100も承知だ。ここで生き残り、魔人になるには汚い手だろうがどんどんやっていくしかない。


 だから、ここは見過ごすのが正しい。そう、正しいのだ。だからあのスライムを見捨てる。それが……






『気に食わねぇ』


 気づけば俺はそうポツリと呟き、隠れていた茂みから飛び出していった。


「キシャーーーー!?」


「ピ、ピピィ!?」


 スライムと大蛇は急に現れた乱入者に驚いたようだが、そんなに隙を晒していいのか?


『【纏技合マギア】』


 漆黒のマナが俺を包み、やがてローブの様な形になったのを確認した俺は勢いのまま大蛇へと突っ込み、その体に噛み付いた。


『俺はもう、あの時みたいな思いをしたくない。ここで引いたら……ノルとシアを助ける事なんて絶対に出来なくなる』


今回は必要だから見捨てた。


 そんな言い訳を始めれば、ノルとシアがピンチの時、【俺が危なかったから兄妹を見捨てた】という最低な言い訳をするかもしれない。


 そんなのは絶対に嫌だ。


 俺がこの階層にいるのは、ノルとシアを助けるためだ。その為になら、俺が死のうともどうなろうとも関係ない。


 この気持ちが嘘でないことを証明し続ける為にも、ここでこのスライムを見捨てる訳にはいかない。


「キシャーーーーッ!!」


『おっと』


 大蛇は噛み付いている俺を振りほどこうと暴れ回り、尻尾が当たりそうになった所でその場から離脱。


 そのままスライムの元へと着地すると俺はスライムに──自分に言い聞かせるようにこう言った。


『いいか、そこのスライム。俺がお前を助けるのは、何も善意からじゃない。俺の目的を果たすためにここで逃げる訳には行かないからだ。だからそこで大人しく俺のことを見てろ』


 スライムは俺よ言葉を聞いて、よく分からなかった様で首を傾げるような動作をしたが、まぁ、そうだろうなと俺は思わず苦笑してしまった。


 そう誰に向けたのか、自分でもよく分かっていない言葉を言うと、俺は忌々しそうにこちらのことを見ている大蛇の方に振り返り、宣戦布告をした。


『よぉ、大蛇。お前の対戦者は調子が悪いみたいだからよぉ……』


 俺は喋りながらも大蛇の元へと一直線で走り、【隠密】で気配を消し、大蛇の背後へと移動すると叫んだ。


『俺がお前の相手をしてやるよ、クソ蛇!』


 大蛇の背中からおびただしい量の血が溢れ出し、俺は爪に付着していた大蛇の血を振り払った。


 今夜は月が雲で隠れている。この漆黒の世界は俺の絶好の狩場だ。俺は大蛇が後ろを振り向く前に【隠密】で再び気配を消しながらこう告げる。


『さぁ、狩り合おうじゃないか。深層の大蛇』


 今宵、1匹の狼と1匹の大蛇が激突する……





───あとがき────────────


どうも、夜叉丸です。


いつも、この作品を見て下さり、ありがとうございます!


今週は更新がか遅れてしまいましたね……

本っ当に、すみませんでしたーーー!!!


今後とも毎週更新を心がけていきますので、どうか、長い目で見守っていただけたら幸いです。


この作品が面白い、もっと続きを読みたいと思っていただけたら作者としてもこれ以上の喜びはありません。


その際は、フォローや、応援、☆での評価をよろしくお願いします。


それではまた、来週お会いしましよう。

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