第44話 オオカミ、スライムと仲良くなる
『ハハ、ハハハ、アハハハハハハハハッ!』
勝った。深層の魔物に勝つことができた。相性が良かったのはあるがそれでも勝つことができた嬉しさが段々と込み上げつい高笑いをしてしまった。
俺の今までの努力はここでも通用する。それが分かっただけでもこの戦いには意味があった。つい感情を抑えられなくなり、笑ってしまったがここは深層。いつどこで狙われることになるのかは分からない。だから用心しておくに越したことはだろう。
『さて、ここに止まる理由もない。さっさとこの大蛇の死体を片付けてこの場を離れよう』
俺は【
そう思い、大蛇を収納し終え、ここから離れようとした時だった。
「ピィ!ピピィ!」
スライムが興奮した様子でこちらにやってきた。一体なんなんだ?
流石にあの大蛇相手で今は疲れた。あのスライムだったら攻撃は効きそうもないが、こちらも有効だがないだろう。逆に向こうは搦手を使えばこちらに勝てるかもしれない。
「ピイ!ピイ!ピイ!ピイ!」
『ん?』
喜こ、んでいるのか?これは?
俺の周囲を飛び跳ねながらぐるりと回っている。その度に鳴き声を上げる姿はどこか可愛らしく、見ているこちらもほっこりしてくる。
『コイツをみんなに見せることができたら良かったんだけど……』
不意にその事を思うと心が痛んだ。もうあの日常に戻ることはできない。それでもノルとシアが俺には残っている。それならばあの頃に戻れずとも、俺はあいつらを取り戻す事ができるのなら、もう二度と負けない力を手に入れるために俺は悪魔にでも魂を売り渡す。
「ピイ?」
おっとつい、思考がそれちゃったな。最近、アヴィディーのことを考えるとどうしても暗い思考になっちまう。この思考になるとなぜか魔物も寄ってこなくなるんだよな。なんなら魔物が近くにいた時に思いっきり引かれたことがる。
……あれはとてもショックだった。なんなら俺よりも格上だったと思うんだが、そんなにやばい顔をしてたのか?それならそれで見てみたいが。
『じゃあな、スライム。最後はサンキュウ。助けてくれなくちゃ、死んでたわ』
さて、今夜の寝床を早く探さないと。どっかの洞窟空いてないかな?いつも外の茂みとかで寝ているからろくに寝付けなくて【睡眠耐性】がレベルがどんどん上がっているからな……また、シアに怒られるかもな。
さて、今夜はどこで寝ることになるかねぇ
———————————
〈スライム視点〉
「ピピイ……」
今日、初めて、起きた。助ける、奴、いた。ご飯、探す。怖いの、来た。仲間、いない。
いつも、1人、ぼっち。『僕』、出来てから、誰も、いない。いつも、1人、痛いの、怖い。
また、怖いの、我慢、しなくちゃ。でも、今日は、我慢、少なかった。助けてくれる、奴来た。
白くも、黒くもない、狼、来た。
ソイツ、速い。怖いの、フラフラ。でも、最後、危ない。アイツ、死んだら、ダメ。手、伸ばして、助けた。
ソイツ、怖いの、やった。僕、嬉しい。僕、跳ねた。…でも、ソイツ、バイバイした。
僕、また1人、ぼっち。悲しい……
また、1人は、嫌、だ。だから、僕、アイツ、追いかける。アイツも、怖い。だけど、アイツに、守って、もらう。僕、助けて、くれたの、アイツ、だけ。
「ピイ!」
僕、跳んで、アイツ、追いかける。きっと、アイツ、助けて、くれる。
────────────
〈ナディー視点〉
『これ、つけられてるな』
違和感があったのは1週間くらい前だが、今日確信を持つことができた。
『あのスライム、何してんだよ……』
俺は視界の端から慌てて逃げ出したピンク色のスライムを見ながら考えた。あいつ、ずっとあの感じで隠れてるけど、【マナ感知】でバレバレなんだよ。
『まず、なんで俺、あのスライムにつけられてんの?』
あのスライムと出会ったのは間違いなく1週間前のあの大蛇のときだと断言できる。ピンク色のスライムなんて珍しいから見つけたら記憶に残るからな。それならばあの時の大蛇と戦った時に俺、あいつに何かしたっけ?……うーん、助けたこと以外は何も心当たりがない。
『あ。もしかしてあのスライム、獲物を弱らせてから捕食するタイプだったのか?』
それなら納得がいく。
あの大蛇に追い詰められているような動きも、相手の体力を消耗させるためなら説明がつく。あのスライムの再生能力は異常だ。見てた感じだと、周囲のマナを使って再生してたからここだと再生できなくなる心配はないし。
それならあのスライム、もしかして俺に獲物を取られたから怒っているのか?それで次の獲物に俺を選んだと……
『ふっ、なるほど……我慢くらべってわけか。』
それなら話は早い。俺とあのスライム。どちらが先に根を上げて諦めるかってことか。面白いじゃねえか。
『それじゃあ、我慢くらべと「ピイ!ピイピイ〜!?」……』
ふと声がしたため、スライムの方に視線を向けてみると、アイツ、ゴブリンに襲われていた。エリートゴブリン。ホブゴブリンの上位種であり、一見小さくなったため弱体化したのか?と聞かれればそうではない。
単純に知能が上がったのだ。あのゴブリンたち、普通のゴブリンたちと肌の色が違い、通常の奴らが緑色の肌をしているのに対し、アイツら、青色の肌をしているのだが、葉っぱなどを使って肌の色を隠そうとする。
それで油断した相手を刺したりと、意外とえげつない方法をとってくる。しかもアイツら集団で行動するため、一体を倒そうとしても連携をとり、トドメをさせず、忘れた頃に復讐しにくるような奴らだ。
あのスライムは明らかにこちらに縋るような目をしており、その視線でこちらの事がゴブリン達にバレた。
「「ギャギャ!」」
すると2匹のゴブリンが獲物を取られまいとしたためか、こちらに向かってきた。
『はぁ……おい、スライム。後で責任はとってもらうからな』
俺は襲いかかってきたゴブリンを爪で切り裂く。ゴブリン程度なら俺でもやれる。はぁ、さっさと終わらせよう。
俺は襲いかかってきたゴブリンの息の根が止まったのを確認すると、スライムの方へと向かって行く。
こうして、俺とスライムの奇妙な邂逅を果たしたのだった。
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