第45話 オオカミ、仲間を得る

『あー、とりあえず何だ。無事でよかったな?』


「ピイ?…ピ、ピイ!?」


 俺はスライムへと声を掛けたが、スライムは俺にまた助けられた事に気がつくと急に慌て茂みに逃げ出した。


『何がしたいんだ?』


 思わずそう呟いてしますほどにあのスライムの目的が分からん。

俺を襲うつもりなのかと思えば、アイツ自身がゴブリンに襲われて助けを求めてきたし、油断させるつもりなのかとも思ったが、完全にボコされていた。


「ピピ……」


 あのスライムが何をしたいのかを考えていると、茂みに隠れていたスライムが戻ってきた。


『どうしたんだ?』


「ピ!」


 あっ、また逃げた。

俺が近づくとスライムはまた茂みに隠れ、しばらくすると茂みから顔を出しこちらを見つめてきた。何してんのほんとに。


こちらもジッと見つめ返すと面白いぐらいに慌て出した。面白いなこいつ。


「ピュ〜〜〜……ピ!」


 俺に見つめられてモジモジとしていたスライムだったが、考える様な仕草をしていたが、何やら決意を固めたようで俺に近づいてきた。


「ピピ!ピピピピピ!(ボク、お願い、ある!)」


何か話しかけてきた。



「ピイ、ピピピ!ピピピピュイ!(ボク、弱い。だから、助けて、欲しい!)」


 そして必死の様子で語っている。時には触手を伸ばして身振り手振りを付け、愛らしい瞳もウルウルさせている。その様子は何処か鬼気迫る気配があり、こちらも気圧されながらスライムの話を聞いていた。


『なるほど』






全っ然、分からん。





 いや、このスライムが味方なのは流石にスライムの言葉が分からなくても伝えようとしてくれているのは理解できている。だが、肝心の内容が理解できないのだ。それでは俺もコイツの言葉に簡単に頷くことができない。


 もし、助けて欲しいとかだったとしてもどう助けて欲しいのかが分からないと俺も助けることはできない。あまりにも期間が長い間必要になってしまう様な内容だった場合、コイツの願いには応えられないからな。


 大蛇と戦った最後の時に助けてくれた恩はあるが、あくまで俺の最優先事項は魔人になる方法を見つけて力を手に入れることなのだから。


うーん、どうにか分かる方法があればいいんだが、そんな方法俺は知らないしなぁ……


 そう思い、じいちゃんから何かいい方法を聞いた覚えはあったかどうかを一生懸命思い出してみたが、そんな会話をした覚えはなく、そんな都合のいい魔法もスキルもあいにく持っていなかった。


「ピュピューイ」


 そんな俺を見ていたスライムは、俺に言葉が通じていないことを理解するとマナを糸の様に伸ばした。その事に驚いた俺は咄嗟の出来事に対応することができなかった。


『何をした!?』


 やっぱり、俺を油断させるための方法だったか!?クソっ、油断した!さっき話しかけていたのはブラフか!?マナを送られている!?不味い、何かのスキルの発動条件か?それなら急いでココから離れないと—【種族名:アーミースライムから眷属申請が届いています】……は?




眷…属……申…請?



 眷属?影人形達と同じ?申請って何?そもそも眷属って自分で作らなくちゃいけないんじゃ何のか?何かスキルが必要なのか?取得方法は?そもそも何で今?


 様々な疑問が脳裏を横切っっていき、その疑問が俺の頭の中を埋め尽くす。俺の目の前に眷属申請を許可する画面が表示されるが、まともに判断することができない。突然の事に混乱してしまい、ついうっかり深層の魔物に見つからない様に普段から発動していた【隠密】を切ってしまった。


「ゴギャッ!」


「ギャギャッ!」


「ゴギ?」


『あ』


「ピピ!?」


 やば、あれさっき倒したゴブリンの仲間だ。俺が倒して残したままにしちゃった死体を見てめっちゃ驚いているし。あ、泣いてんのかな?ゴブリン達は死体の前で項垂れており、言葉は分からなくても悲しんでいることは分かる。


 ゴブリン達がふと視界を彷徨わせると俺たちと目が合った。

 仲間の死体。そして、その死体の目の前にいる魔物。この深層にいる魔物達は頭がいい。よっぽどのバカでもない限り誰がやったかなんて一目瞭然だろう。


「ギャギャ!」


「ゴギャー!」


「ギャギー!」


『やっぱそうなるよなぁ!?』


「ピピ〜!?」


 ゴブリン達は仲間の仇が誰なのかを理解すると俺達に襲いかかってきた。ちくしょう!これがドラゴンとかキンググリズリーとかなら力の差を理解して復讐とかしてこないのに!俺のステータス、ぶっちゃけるとゴブリン達と互角だから普通に挑んできやがる!


 さっきよりも数が多すぎる。10体って何の罰ゲームだ?集団行動徹底しすぎだろ。恐らく、さっきやったのはゴブリンの軍隊の偵察部隊か何かだったんだろう。親父が集団に突っ込ませるにしても3体とかだったんだぞ!


 そう、この深層に住んでいるゴブリン達、なんと国を創っているのだ。

 …いやぁ、あの時はマジで驚いた。見つかった後におよそ500体のエリートゴブリンに追われるのって控えめに言っても恐怖だったよ。


 それだけならもちろん経験値の為に撹乱しながらゴブリン達の群れに突っ込んでいったのだが、あの集団の中にはエリートゴブリン達よりも上位の種族、ジェネラルゴブリンとかも普通にいたのだ。


 あれは無理よ。あいつら自分達の繁殖速度を理解しており、フレンドリーファイアとかも当たり前にやってくる。多分あのまま突っ込んでいたら、エリートゴブリン達に組みつかれてそいつらごと切り伏せられて死んでいただろう。


 ただゴブリン達、上位存在によって殺されたらビビって逃げ惑うくせに同列の存在によって仲間が殺された場合、しつこいまでに襲ってくるのだ。悔しいが、俺はステータス的にはコイツらと同列の存在、それが仲間を殺したとなればもうお察しの通り、今の状況になるというわけだ。


『おい、スライム!眷属になりたいんなら今後、俺と一緒に戦ってもらう!例え、オーガの群れだろうと、ゴブリンの国だろうと、竜だろうと、魔人だろうと!それが条件だ!』


 もうこうなったら自棄だ!

あのスライムが仲間になったところで状況がどう転ぶ事になるのかは俺には分からない。しかし、今の俺には仲間が必要だ。前回の大蛇の戦い、あれに勝てたのは偶々だった。獲物を追い詰める愉悦、トドメを刺す際に生まれる油断、そして最後の時、スライムが助けてくれなかったら……俺はあの時丸呑みにされ、死んでいただろう。


この深層では俺は弱い。あの時は生き延びることができたが、次は?その次は?


 今後がどうなるのかなんて俺には分からない。それならば生き残る為にありとあらゆるものを使ってやろう。物でも、デメリットが大きいスキルでも、魔物だろうと……


それならば俺がここでコイツを仲間とすることに戸惑いを覚える必要はない。


「ピュイッ!!」


スライムから力強く、そして明るい声が聞こえてきた。


『スライムの眷属申請を承認する!』


【種族名:アーミースライムの眷属申請が承認されました】

【ナディーとアーミースライムとの間に主従回路を構築…成功しました】

【ナディーとアーミースライムはスキル〈念話〉を獲得しました】

【ナディーは称号〈魔物の主人〉と〈突然変異個体の主人〉を、アーミースライムは〈ナディーの眷属〉と〈突然変異個体の眷属〉を獲得しました】

【種族名:アーミースライムに個体名がありません。主人となったナディーは種族名:アーミースライムに個体名を付けてください】


『はぁ!?』


こんな状況で急に名前を名前を付けろだぁ!?時と場所を考えてものを言え!


 俺は急なメッセージに文句をつけたが、それも虚しく終わり、代わりに返ってきたのはゴブリンたちの怒りを叫び声だ。


『あっぶな!?』


 棍棒を振り下ろしてきたゴブリンの攻撃を避けながら俺は通りすぎにゴブリンを切り裂く。【真爪撃】により攻撃力が上がった俺の斬撃はゴブリンの腕に傷痕をつける。しかし、腕を振れない程には至っておらず、一瞬うめき声を上げたゴブリンだったが直ぐに立ち直り、俺に反撃をしてきた。


【種族名:アーミースライムに個体名がありません。主人となったナディーは種族名:アーミースライムに個体名を付けてください】


『ああもう!うるせえ!!催促されなくても分かってるよ!』


 あのスライムの名前?さっきからアーミースライムって言われてるけどアーミーってことは軍隊?どこにいるんだよ。あいつ一人しか見つけてないんだが?


…そのままアーミーってのは安直すぎるよなぁ。それなら体の特徴からいってみるか。


俺はゴブリン達の攻撃を避けながらも何とかあのスライムの名前を考えてみる。

まず、目が入ったのはあのピンク色だ。ピンク……桜…春……


『よし、ハル!半分…いや、2、3体でいい!アイツらを引きつけろ!』


『ッ!?……了、解!』


【アーミースライムの個体名を確認…承認されました。種族名:アーミースライム改め、個体名:ハルはセラドンウルフ:ナディーの眷属となりました】

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