第23話 オオカミ、大樹と話す
『トレント?森の管理者?』
俺は何がなんだか理解が出来ていなかった。『なんかゲームみたいな設定だな……』と現実逃避していると親父が呆れたような顔をしており、トレントは苦笑していた。
ちなみにノルとシアは俺と同じく分かっていない様でノルが理解するのを諦め、シアと一緒に遊び始め、それを微笑ましそうに母さんが見ていた。
「ナディー君。トレントという種族は知っておるかね?」
『は、はい。何となくは。』
俺の知っているトレントは木の精霊というイメージが強く、目の前のトレントと同じく、大樹のイラストが多かった。絶対的に強いわけでは無いが、かなり強い魔物だ。
親父からも道中でトレントという種族のことについて少し聞いているおり、俺が先日倒した魔物もどうやらトレントらしい。
ゲームでもトレントなんて時々出てくるからな。ソシャゲの鬼と呼ばれた俺のことを舐めないでもらいたい。トレントなんて有名な魔物知っていて当然だろう。
「ならワシの種族については説明は不要じゃな。」
そう言ってトレントは微笑んできた。何かこの笑顔を見ていると妙に安心してくるな……
『おい、ナディー。このジジイを信用しない方が身のためだぞ。』
俺がトレントに気を許しそうになると親父が俺に注意をしてきた。身のため?うっかりすると何かヤバいことをされるのか?
俺は気を許しそうになっていたため、また警戒し治した。俺がまた警戒するとトレントはその反応がおろしろかったようで顔を浮かばせていた笑みを更に深めた。
「フォッフォッフォ。ナディー君はおろしろいのう。それはそれとしてベインよ、ワシのことをそんなに信頼していないのかのう?」
『ふん。貴様を信じていて苦い思いをしたことなんて数え切れんほどあるからな。ある程度は信頼しているが完全には信頼しない。』
「まあなんとも手厳しいものじゃのう。」
親父は苦々しそうに言い捨てるとトレントから顔を背けた。俺は親父のそんな様子に驚いていた。親父が面倒くさそうにしている姿なら何度でも見たことがあったが、ここまて苦手そうにしているのを俺は今まで見たことがなかったからだ。
「フォッフォッフォ。やはり誰かと話すのは楽しいものじゃのう。この森の管理も楽しいのじゃが、誰かとの会話の方が何倍も楽しいものじゃ。」
『あの、トレントさん。森の管理ってどういうことですか?』
俺はトレントにさっきから気になっている【森の管理】について聞くことにした。森の管理者と言っていたが、どういう意味なのかイマイチ理解できていなかったからだ。
「おぉ。そうじゃたの。それについて説明していなかったのう。」
トレントは親父との会話に夢中になっており、自分の自己紹介がまだ終わっていなかったことに気づくと枝を伸ばして頬に当たるであろう部分を器用にかいた。
…何か人間みたいな魔物だな。
前世が人間の俺は少し親近感のようなものが湧き、森の管理について詳しく聞くことにした。
「ではまずナディー君に質問じゃ。先程ワシがナディー君にあいさつをした時になぜ、初めて会ったはずのナディー君の名前が分かったと思うかのう?」
『え?』
確かにそうだ。その時は疑問を持たなかったが、聞かれると確かに不思議だった。何でトレントは俺の名前を知っていたんだ?
親父か母さんに聞いたのか?いや、それならここに来るまでかなりの距離があった。親父か母さんなら半日で帰って来られるだろうが、それでもかなりの時間がかかる。
俺は今までで親父か母さんがそんな長時間帰って来なかった時を見たことが無いためそれは否定することができる。
何でだ?何で俺の名前を知っている?俺はその時、1つの可能性を思いついた。
まさか……
「どうやら気がついたようじゃのう。その考えはあっておるぞ。ワシのスキル【生命管理】によるものじゃ。」
俺がその考えを答える前にトレントが答えてくれた。この世界にはスキルが存在する。俺だってスキルのおかげで超スピードで動き回ることができるし、魔法を使うことが出来る。
それなら相手の考えていることが分かるスキルや遠くのことが分かるスキルがあっても不思議ではない。
「ワシの【生命管理】は自分が指定した範囲の生命がどこにいるのか何をしているのかが分かるスキルでのう。近くにいると何を考えているのかも分かるのじゃよ。」
トレントは俺に【生命管理】がどんなスキルなのかを説明してくれた。聞いてみると無敵のようにしか聞こえなかった。
「ワシはこのスキルを使いこのアルケー大森林の管理を任されておる。じゃからナディー君の名前をすでに知っておるのじゃよ。」
そう言ってトレントは管理者についての説明をしてくれた。管理者とは具体的にはこの森の安全やバランスを保つのが仕事のようで危険過ぎる魔物がいたらその魔物の排除、または追放をしているそうだ。
しかし、トレントはこの場から動くことが出来ない。そのため、自分の眷属を作り出すことで危険な魔物を排除しているそうだ。
『あれ?もしかしてその眷属って……。』
「ナディー君、君が倒した木の魔物じゃのう。」
俺はこの話題が出た瞬間に何故かいやな予感がした。森を守る魔物を俺達倒しちゃったって事?眷属が簡単に増やすことができるのならそこまで気にすることではないだろう。
しかし、そう簡単に危険な魔物を排除するが簡単だろうか?
答えは否である。そんなに簡単なら今頃この森の至る所にトレントか蔓延っているだろう。しかし、そうでは無いということは……
『あ!お、俺、用事を思い出したからトレントさん、そろそろ帰りますね。さあ、みんなも早く帰ろうよ!』
俺は急いでこの場から離れようとした。このままここにいたらまずいことになる。不思議とそんな予感がしており、【危機感知】も何故か鳴っていた。
「フォッフォッフォ。ナディー君よ、ワシの前では考えていることが分かると言ったじゃろう?逃げようと思っても無駄じゃよ。」
そう言うとトレントは木々を操作して、俺が逃げようとしていた方向を塞いできた。魔法を使えば逃げることは出来るだろうが、近くに眷属がいた場合、すぐさまに捕まってしまうだろう。
「のうナディー君?君は強くなりたいのじゃろう?実は森を守るのにちと眷属が足りなくてのう……。──時々でいいんじゃが手伝ってくれんかのう?」
トレントは俺を逃がさないようにしてからそんなことを言ってきた。頷かなければ俺はここから出ることが出来なくなるだろう。しかし、このおじいちゃんの言っていることを間に受けたらどうなるってしまうのかは分かったものではない。そこで俺が出した答えは─
『はい……。』
断れるはずがなかった。まず、俺が原因だというのが分かっているため、罪悪感があり、少しでも罪滅ぼしをしたいと思ったからだ。次にトレントがとてもいい笑顔をしており、断ったら何をされるのかが分かったものではないからだ。
「なに、ナディー君よ、怖がるでない。確かに眷属をやられたから手伝って欲しいといのもあるのじゃが手伝ってくれたらお礼に【術式魔法】を教えてあげよう。」
『じゅ、術式魔法?』
この2年間、俺は母さんから魔法を教わっているが、そんな魔法は聞いたことがなかった。そもそも魔法は1部を除いてスキルがないと使うことが出来ない。
では術式魔法とはいったい……
「術式魔法とは魔法をより深く理解しなければ使うことの出来ないいわゆる上級魔法というものじゃ。これを使えるかどうかで強さがこれまでとは天と地程の差が生まれるぐらいにはのう。」
そう言ってトレントは溢れるほどのマナを解放したきた。
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