第24話 オオカミ、術式魔法を知る

『な!?』


いきなり何だ!?

俺はトレントが解放したマナの圧力に何とか耐えながらトレントのことを見た。


 どうやらトレントは魔法を発動しようとしているようでマナを使い何かを形作っていた。今のところ俺の知っている魔法と同じだったため、ただマナの量に呆気をとられていたが直ぐに違和感に気づいた。


 俺の知っている魔法だとまずはマナを各魔法の色に染めてから形作る。今、トレントがはなとうとしている魔法もマナを染める作業までは一緒だったのだが、それから違った。


 がトレントの前に浮かび上がり、魔法陣のようなものが現れた。魔法陣は回転を始めると段々と大きくなり、やがて俺達の頭上を覆うほどの大きさとなった。


 攻撃魔法ではないことは【マナ感知】によって理解できている。しかし、あんなに巨大な魔法陣を見てしまっては何が来るのか身構えてしまう。


「【眷属誕生バース・オブ・サーヴァント】」


 トレントが厳かにその魔法の名前を唱えると魔法陣は震え始め、やがて一筋の雫が垂れた。


 雫には膨大なマナが込められており、あのマナだけで俺の持っているマナをゆうに超えているだろう。


 そんな膨大なマナに震えていると雫は1本の大木に垂れ落ちた。すると大木は震え始め、やがて震えが収まると大木に目玉と口が現れ、なんと魔物になってしまったのだ。


『な!?』


 魔物を作る魔法!?そんな魔法、母さんから聞いたことがなかった。俺が呆気にとられていると問題はここからだった。


 さっき込めたマナだと一体を作るので限界だろう。そうおもっていたのだが……


「フォッフォッフォ。ナディー君、この魔法はこれで終わりじゃないぞ?」


『え?』


 これで終わりじゃない?

 だって魔法陣には驚いたけどマナはもう残っていないじゃん。そう思って俺は魔法陣の方を見た。すると魔法陣は役目を終えたはずなのにまだ残っていた。


 少し時間が経つと魔法陣はまた震え始め、また魔法を発動した。


『『『え!?』』』


 俺も驚いていたが、複数の声が重なって聞こえたので振り返ってみるとノルとシアも驚いた。どうやら遊ぶのに疲れてこっちを見ていたようだ。


「フォッフォッフォ。やっぱりこの魔法は初めて見てくれるといい反応をしてくれるのう。で、どうじゃった?術式魔法は。」


 どうもこうも凄すぎる。魔法に込めた以上のマナを使うなんて聞いたことがない。これが出来るようになれば俺の切り札である【纏技合マギア】に消費するマナも減って戦闘が格段に楽になるだろう。


 この世界での戦いにおいて最も重要なのはマナをどれだけ上手く使えるかになる。マナを使えば強力な魔法を使えるし、魔法系のスキルを持っていなくても身体強化に回せば超人的な力を使うことができる。


 そのため、マナの総量が多ければ多いほど戦闘を有利に進められる。勿論マナが全てという訳ではない。


 スキルや技、相性、戦い方など、様々な要素も含めての戦闘だ。しかし、マナを相手より沢山使うことが出来ればとてつもないアドバンテージになる。


 術式魔法。

 これを覚えることが出来ればもしかしたら躊躇っていた深層にも行くことが出来るようになるかもしれない。


「ナディー君。どうする?これを習得することが出来れば君はまた1段と強くなることが出来る。ワシのお手伝いをしてくれるかの?」


『はい!勿論やらせてください!』


 断るはずがなかった。これをトレントの手伝いをするだけで教えて貰えるのだ。


 あの強力な魔法を教えてもらうためならとても安いものだ。あれ?親父がそういえば何か言っていた気がするがまあいいだろう。


 俺は新しい魔法を教えて貰えることに舞い上がっているとトレントは嬉しそうに笑っており、俺の家族は親父とシアが呆れた目で見ており母さんとノルは微笑ましそうに俺のことを見ていたのだが、俺が気づくことはなかった。


『本当にアイツは大丈夫なのか?我は注意したぞ。』


『う〜ん。僕も心配になってきた。ナディー兄は魔法のことになると周りが見えなくなる時があるからね……。』


『うふふふ。ナー君ったらあんなに嬉しそうに尻尾を振りながら答えちゃって。それだけあの魔法を知りたいのね。』


『おにーちゃん嬉しそう!おにーちゃんが嬉しそうだと私も嬉しい!』


『ええ、そうねノル。私もナー君が嬉しそうだと一緒に嬉しくなってくるわ。』


『ねーおかーさん。シアはどう!?』


『わ!?ノル姉急にくっついてこないで!』


『え〜〜。ぶーぶー。いいじゃん。減るものじゃないし、おにーちゃんがあんなに嬉しそうなんだから私達も楽しもうよ!』


『わ、分かった!分かったから一旦離れて!僕もノル姉と一緒に遊ぶから!』


『わーい!やった〜!じゃあ鬼ごっこしよう!シアが鬼ね!』


『あ!ノル姉ずるい!待てー!』


『2人とも〜遠くまで行き過ぎないのよ〜。』


『アイツらもかなり自由だな……。』


『ええ、そうね。あなたに似たんじゃないのベイン?』


『いや、我よりもユキ、お前に似たのではないのか?特にノルの好きな相手には抱きつく癖などお前とそっくりだぞ。』


 うん?俺がトレントとの会話に夢中になっていると何やら後ろが騒がしくなっていた。振り返って見るとノルとシアが鬼ごっこをしており、親父と母さんが何やら話をしていた。


 え?何があったの?全く話を聞いていなかったから分かんないんだけど。俺が状況に戸惑っているとそれを見たトレントが可笑しそうに笑い、俺も何だか可笑しくなってきて気づいた時には笑っていた。


「フォッフォッフォッフォ。まさかベインのところがこんなに愉快になるとはのう。……ナディー君。今日はもう遅いから帰った方がいいじゃろう。また今度1人でもベインかユキちゃんに連れてきてもらってもいいから遊びに来てくれたときに術式魔法を教えてあげようかのう。」


『分かった。じゃあまた今度遊びに来るよ。』


 かなり話し込んでしまったがもう日も暮れかけており、今から急いで帰らないと暗くなる前に寝床にたどりつけないだろう。


 トレントの言っていることが正しいと思い、俺は今日は帰ることにした。


『おーい。みんなそろそろ帰ろう。じゃないと途中でどっかで寝ることになる。』


 用事が済んだと判断した俺はもう帰ろうとみんなに声をかけた。


『ん?ナディーよ。トレントから術式魔法を教わらなくてもいいのか?』


『今日はもう遅いからまた今度教えてくれるって。』


『そうか。……おい、ユキ。そろそろ寝床に帰るぞ。ノルとシアも遊ぶのをやめろ。』


 親父にトレントと話したことを伝えると帰った方が良いと判断したらしく、他のみんなにも声をかけ、急いで寝床に帰った。


 ────────────


 翌日、俺は術式魔法を教わるために急いでトレントのところへと向かった。道中で前回と同じく魔物が出てきたので少し時間がかかってしまった。


「フォッフォッフォッフォッフォ。ナディー君、もう来たのか。それだけ楽しみにさていたのかのう。」


『トレントさんなら心が読めるんでしょ?ならその質問の答えもとっくに知っていると思うんだけど。』


「フォッフォッフォ。確かにその通りじゃのう。それでは術式魔法についてまずは簡単な説明からしていくとするかのう。」


 それからトレントは術式魔法がどんな魔法なのかを教えてくれた。


「まず、ナディー君。前回見せた魔法で何か違和感を感じたかのう?」


『あ〜〜。前に見せてもらった魔法、あれって何で魔法に込められたマナよりも多いマナが使えるの?それに魔法の発動中に出てきたあの文字って?』


「流石はユキちゃんの子供じゃ。しっかりと【マナ感知】を伸ばして魔法への理解も高いようじゃのう。」


 俺が疑問に思っていたことをトレントに聞いてみるとどっちも正解らしく、俺のことを褒めてくれた。


「その通り。術式魔法は普通の魔法に加えてあの文字、魔法文字が重要となってくるのじゃよ。」


『魔法文字?』


「そうじゃ。魔法文字とは魔法に意味を持たせることが出来る古代の文字じゃ。これを使うことで魔法の制御が格段にしやすくなり、また、上達すれば使うマナの量も減らすことが出来るようになるのう。」


『使うマナの量を減らす!?』


 そんなことができるようになれば魔法での戦闘で圧倒的なアドバンテージがとれるようになる。


 例えばマナの量が同じ魔法使いどうしで戦う時、術式魔法を知っていれば相手よりも多く魔法を撃てるし、威力も上がるため負けることがなくなる。


「この前ワシが刻み込んだ魔法文字は【自動化】と【誘導】じゃ。この文字を使うことで大気中のマナを使うことができるし、指定した相手に向かって魔法が勝手に向かっていってくれるからワシがだいぶ気に入っている魔法文字じゃのう。」


 これだけ聞いているとやっぱり無敵の魔法にしか聞こえなくなってくる。外の世界だと術式魔法を知っている人はどれぐらいいるのだろうか?


「勿論こんなに便利なだけでは人間達も強くなり、森の奥まで入ってくるじゃろう。しかし、この魔法には弱点があるため外の世界にも使い手が少ないのじゃよ」


 ょうやら俺の心を読んだようで言葉に出していなかった疑問にも答えてくれた。


「術式魔法は文字を描く分他の魔法よりも発動が遅くなってしまうのじゃよ。他にも1度発動した後も魔法を維持しなければならなくなるのじゃ。なので一定の魔法技術が必要なのじゃがこの壁がかなり高いため使い手が少ないのじゃよ。」


『それじゃあ俺はまずは魔法技術を上げることから始めなきゃ行けないのか?』


 早く術式魔法を使ってみたかったので使うことが出来るようになるまでかなりの時間がかかる……そう落ち込んでいるとトレントは驚いていた。


「いやいやいや、ナディー君の魔法技術は十分に術式魔法を使えるぐらいの技術を持っておる。じゃからまずナディー君が始めるのは魔法文字を覚えることじゃ。」


『そうなのか!それじゃあ早く教えてくれ!』


「フォッフォッフォ。そう焦らすでない。ゆっくりと教えるからしっかりと覚えるのじゃぞ。」


『おう!』


 こうして俺の楽しい魔法の修行が始まった。ちなみに修行を初めてから俺の意識が何故かよく途切れるようになった。


 理由については一切語らないことにする。

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