第5話 オオカミ、進化について学ぶ
あのあと、ゴブリンの群れが襲ってきて母さんも手伝うと言ってくれたが親父が『強くなるのならこれぐらいできて当然。』と母さんを説得してまで全部俺にぶつけてきやがった。
確かに強くなるって言ったけど、一匹相手から急に群れ相手に戦えって言うか普通!?
スピードはこちらが勝っていたが、あっちの方が数が多いためかなりくらってしまい、危うく死にかけた。終わったあとステータスを見てみると、HPが残り1になっていた。
親父…俺を殺す気じゃないよな?死にそうだったらちゃんと助けてくれたんだよな?
しかし、一度にたくさんのゴブリンを相手にしたため、レベルが8まで上がった。他にも【爪撃】と【牙撃】が4、【爪術】と【牙術】が3まで上がり、新たに【危機感知】を獲得した。
途中で【危機感知】が獲得できてなかったら、絶対死んでたぞ…
母さんはどうやら回復魔法を持っていたらしく、戦闘が終わるやいなや一瞬で近寄り、明らかにかなり高位の回復魔法を使ってきて一瞬でHPが完全回復した。
その後も怪我は残ってないか確認してきたが、なんとか落ち着かせることができた。
この日は他の魔物に襲われることはなく、途中で猪を狩って食べていた。
その晩のことだった。
『ナディー、貴様のレベルは今いくつだ?』
寝ようとしたとき、親父が急にそんなことを聞いてきた。
『レベル?』
一応、俺は生まれたばかりなので知ってはいるがあえてとぼけた。だけど、何で聞いてきたんだろう?
『獲物をやった後などに頭の中に声が響くであろう。あのときに、レベルがいくつに上がったといっているのだが、お前の現在のレベルはどれくらいだ?』
『たしか、8って言ってた気がする。』
ステータスでも見れるのだが、恐らく、ステータスを知らないんだろう。
レベルを喋ると、親父がやけに真剣な表情をしてきやがった。
『そのレベルだと、お前はもうすぐ進化するであろう。』
おぉ!ついに進化できんのか!
俺がワクワクしていたが。親父の表情は真剣なままだった。
『進化とは、生物としてのクラスが上がることだ。それはもちろん強さに直結する。進化した。とうぜん、回数が多ければ多いほど、そいつは強くなる。お前は今日、ゴブリンどもを喰らった。しかし、まだ進化していない奴らだった。進化したゴブリンだったら同じレベルでも一対一でもお前は死んでいただろう。』
なんか進化について色々言ってきた。何で今言ってきたんだろう?考えてみたが分からなかった。
『…良さそうな場所を見つけたが、【あいつ】がいたか。そろそろ進化するのなら、ナディーにもちょうどよかろう。』
親父が何か呟いていたが、聞き取ることができなかった。
翌日、『いい場所があった。』と親父が言ったため、そこへ向かっていると、昨日獲得した【危機感知】が激しく鳴り響いた。
『ねぇ、これどこに向かってるの?』
嫌な予感がしてしまい、つい聞いてしまった。
そのとき、親父はとてもいい笑顔で…
『ここの近くにゴブリンの集落がある。そこの環境は我らが住むのにとても適している。だからそこを奪う。しかし、ゴブリンどもの中に一匹のみだったが進化した奴がいてな……
しかも都合がいいことにそいつは進化したてのようでな、死ぬ気で頑張ればお前でも勝てる。もう少しで進化しそうなのだから、進化による強さを体験してこい。』
はい来ました!親父のスパルタ特訓!昨日、進化したら同レベルの奴でも進化してない奴が負けるって言ってきただろ!
『ちょっと!流石に危険よ!ナー君は確かに進化しそうだけど、上位個体って進化してない奴からしたらレベルが上でも、強敵で、負ける場合だってあるのよ!』
母さんがすかさず止めに入った。え?進化したらそんなやばくなんの?親父?やっぱ俺のことヤる気なの?
俺が知らなかった事実に驚いていても、親父と母さんの言い合いは止まらず、
『なに、別に死んでこいというわけではない。クラスがひとつ違うと、どれだけ差があるのかを知ってこいと言っている。それに進化したてと言っただろう。その進化したゴブリンもせいぜいレベル2あたりだろう。そこまで強くなっていることはない。』
『知ってこいって、クラスがひとつ違うと、どれだけやばくなると思ってんの?昨日は危険になったら、助けに行くって言われたのと、強い奴じゃなかったから了承したげど、今回は流石に許可できないわ!』
『ナディーは強くなりたいと言っていた。それは力を得るだけではだめだ。その力の影響や大きさも知っていなければならない。そのためにも今回はとても都合がいい。あいつがそれを知るのにまたとない機会だ。そんなに心配なら、その進化個体に一撃だけ攻撃を入れればよい。ただし、死なない程度に、そして、動けなくなる攻撃はだめだ。それでは進化による影響は実感できん。』
『うぅ、一撃だけならいいのよね?』
『あぁ、死なずに動けなくならずになれば良い。』
『うぅ、ナー君。危ないと感じたらすぐに言うのよ。一瞬で来てヤってあげるからね。』
それでも、結局親父に言い負かされ、それでも微妙に納得しきれずに俺にこんなことを言ってきた。
なんか決着が着いたらしいけど、俺の意志は関係ないのね。
諦めて改めて進んで行く。進むたびに【危機感知】の警報が大きくなる。
マジで進化したら、どんだけ強くなるんだよ。もうすぐ進化できる喜び半分、これから戦わなくちゃいけない相手への恐怖半分の何とも言えない気持ちのまま進んでいくと、目的地が見えてきた。
その集落の近くには澄み切った川があり、周りの木々もよく茂っており、木の実なども豊富についていた。他にも日当たりが良く、周りの景色もはっきりと見え、確かに住みやすそうな場所だった。
周りを見渡していると昨日、戦ってきたゴブリンぐらいの強さの奴らしかいなかった。
……一匹を除けば。
そいつは周りのゴブリンよりも2回りほど大きく、周りのゴブリン達もそいつに従っているのが、目に見えて分かった。
進化した奴だろう。
親父達を除けば初めて会ったオーク並の威圧感を感じた。
あいつが進化したという奴だろう。おそらく、ホブゴブリンか?
格好はゴブリン達とは変わらず、腰に布を巻いている格好だが、周りのゴブリン全員があいつに挑んでも勝てないだろう。そんなイメージが湧いた。
進化するとあんなに変わるのかよ!?
出会って早々戦いたくなくなってきた。だけど、あいつとこれから戦わなくちゃ行けないんだよな…‥
『安心しろ。周りのゴブリンどもは我がヤっておいてやる。だから心配せずに死ぬ気で挑んでこい。』
俺が気落ちしていると何を勘違いしたのかそんなことを言ってきた。
そんなことを気にしてねーよ。あのホブゴブリンと戦うのが嫌なんだよ。
しかし、そんな俺の思いは届かず、ゴブリン達との戦いが始まった。
—ゴブリン達はいつものように暮らしていた。集団で行動し、獲物を狩り、たまに人間を襲う日々。その中で最近進化したホブゴブリンはこの集落の王として君臨していた。
けれど、今日はいつもと違う点があった。
3匹のオオカミが集落を襲撃してきた。
しかし、迎え討とうとした瞬間—
ゴブリン達がいっせいに氷像に変わった。
ホブゴブリンはどうにか変わり切らなかったが、それでもかなりのダメージが溜まった。
何が?起きた?それが分からず混乱していると、小さいオオカミが自分に向かってきた。そいつは進化している気配がなく、格下だと理解した。この状態なら勝てると思ったのだろうか?腹立たしい。
それならあいつは確実に潰してやる。
—親父も強いけど、やっぱ母さんもそれと同じぐらい強いな。
俺は内心ビビりながらホブゴブリンへと向かって走った。
何だよ。一瞬でゴブリン全滅したぞ!?昨日、あんなに苦労して倒した奴らの倍以上の数がいたのに……
気持ちを切り替えながら、改めてホブゴブリンを見た。
母さんの攻撃を食らい、かなり弱っているようだが、俺の【危機感知】がまだ警戒音を鳴らしていた。
俺は開始早々【爪撃】のスキルを発動させながら、爪で斬撃をお見舞いした。
いつもならゴブリン達はこれで重症を負い、戦闘が難しくなっていたが……
しかし、俺の予想は見事に裏切られた。
な!?
ホブゴブリンは確かに俺の攻撃を受けた。けれど、ダメージは負ったが、ほんのかすり傷程度だった。
嘘だろ!?
俺の【爪撃】はレベル1の頃からゴブリン達にダメージを与えた。それが今は4だ。かなりダメージが上昇しているはずだった。
それが進化した相手にはダメージを与えるどころかかすり傷しか与えられなかった、
進化するとこんなに違うのか!?
俺が驚いていると、ホブゴブリンはすでに拳を振りかぶっており、慌てて防御するがかなりの衝撃が俺を襲った。
『ガハッ!』
痛すぎだろ!ステータスを見てみるとHPが10も削れていた。一発で10も減るのか!?
俺もレベルが上がり、今では50くらいある。
なのにこんなにも減っていて驚いた。
これが進化…
次元が変わりすぎていないか?
恐怖が一周回って呆れてきた。しかもこれでまだレベルが低いんだからほんとおかしいよ。
…だけど勝てないわけじゃない。
今のところスピードは俺のほうが上だ。かすり傷しか与えられなかったけど、ダメージは確かに入る。ならできないわけはない。
俺は【加速】を発動させた。
その瞬間、ホブゴブリンは俺をとらえられなくなっていた。俺はホブゴブリンの周りを駆け回りながら、【爪撃】や【牙撃】を発動させながら様々な攻撃を浴びせた。
だんだんと傷が増えてきたため、動きが鈍り、一時間後、ホブゴブリンは動きを止めた。
【ナディーが150の経験値を獲得しました。】
【経験値が一定まで貯まりました。ナディーのレベルが10になりました。】
【レベル上限に達しました。ナディーの進化が可能です。】
【熟練度が一定に達しました。ユニークスキル〈加速〉のレベルが1→2に上がりました。】
【熟練度が一定に達しました。スキル〈爪撃〉とスキル〈牙撃〉のレベルが4→5に上がりました。】
【スキルを獲得しました。スキル〈威圧〉を獲得しました。】
格上を倒した。その事実に気持ちが高ぶり、気づいたら俺は遠吠えを上げていた。
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