第39話 オオカミ、守られる
〈ベイン視点〉
戦いは最早均衡が崩れ、アヴィディーが一方的なものへとなっていた。
「ハハハッ!どうしたベイン!?お前はこんなものじゃないだろう?」
先程までの展開のとは異なり、我はアヴィディーが振り下ろしてくる大剣を避けるので精一杯であった。
あの大剣の鋭さもさる事ながら、瘴気を撒き散らしているのも面倒な要因だ。アヴィディーには瘴気が効かないのか?だが、1番厄介なのはあの謎の能力だ。
「ハハッ!お前が構ってくれないのならこっちから甘えに行くしかないな!」
アヴィディーがまた、何も無い所で一閃。それが来ると我は警戒度を引き上げる。
『ガフッ!』
しかし、それでも避けることが出来ない。そもそも何をされたのかが分からない。先程からそうだ。このままでは殺され、時間がたち切っていないこの状況では皆が無事ではすまん。
絶体絶命の危機。ここで一撃でも喰らえばお終いの危機的状況。普通の魔物であろうと知恵のある魔物であろうと、とっくの昔に逃げ出しているであろう状況。
あぁ、それなのにどうしてであろうな?先程から───
「あ?どうした?さっきまであんなに鬼気迫る顔をしていたのに。そんなに笑って」
『ん?顔に出ていたか?』
しまった。つい顔に出ていたようだ。なんせここまで追い込まれたことはもう40年はなかったからな。久しぶりのため、心を抑えきれなくなってしまったようだ。心が躍る。血が沸る。この躍動は誰であろうと止めることはできん!
このままではジリ貧?死んでしまう?知ったことではない!この逆境を打ち滅ぼすことができるのなら——家族が生き残れるのなら、我の身一つで解決するのなら、例えこの身が呪われ、世界を滅ぼすことになっても喜んでやってやろう!
『ここまで追い込まれたのは久しぶりだ!例え死のうとも、最早我が止まることは絶対に有り得ん!』
我は小細工をやめ、今まで転移や魔物を生み出していた分のマナを全て【身体強化】に回し始めた。このレベルになれば我の小手先の技術などもはや邪魔になるだけだ。
『ここまで来たのなら、もう気にならん!漆黒の闇を秘めたる影よ!その全てを解放し、眼前の敵を滅ぼし尽くせ【
アヴィディーを殺すためだけに今生み出したこの魔法。その効果は自壊する程のマナを使った身体強化。それ程のマナを使用する為、魔法を一切使うことは出来ないくなってしまう。しかしその効果は絶大であった。
『ふんっ!』
我は迫り来るアヴィディーへと飛びかかり、横に薙ぎ払われた大剣に爪をぶつけた。
「な!?」
我の爪は大剣が放つ瘴気に当然触れてしまうが、出鱈目に溢れ出すマナが瘴気を拒み、無力化している。
『ちっ!これでようやく同等なのか…』
どうやらアヴィディーはあの大剣により、先程よりもステータスが上昇しているようだな。我の爪と拮抗した。すると周囲のマナは暴走し、荒れ狂う暴風やプラズマとなり、辺りを構わずに破壊していく。
『クハハハハッ!面白い。まだまだこんなものではなかろう?』
「あぁ!こんなものなわけが無いだろう!まだまだ俺と│殺し合おう《踊ろう》じゃないか!ベイン!」
そこからの戦いは、最早誰も参戦することの出来ないものであった。高速で繰り出される攻撃。それは例え中位の魔物であろうと破壊できてしまう程の威力であり、上位の魔物であっても無視できるものではなかった。
そんな攻撃を喰らっても獰猛な笑みを浮かべている我とアヴィディーは相手を食い尽くさんと相手の急所を狙い、苛烈さを増していった。
我が爪を振るえばアヴィディーの肩を切り裂き、牙を突きたてれば肉が千切れる。アヴィディーもそれに負けんと、拳をぶつける。それを喰らった我の肉は抉れ、激痛が走る。大剣を振るい、避けきれずに僅かにでも切られれば傷口から瘴気が流れ込み、様々な呪いが我を襲う。
通常であれば激痛あまり声を上げてしまうような攻撃を喰らっても、我とアヴィディーは止まらない。
否、止まることが出来ない。先に止まった方が死ぬ。その事を本能で理解ている我も、戦いを楽しんでいるアヴィディーもその事は理解していた。
一瞬たりとも気を抜けばその隙を縫い、決定打を与えられる。そんな極限の戦闘をしている今、この思考すらも無駄となる。それに、我にはもう時間が残っていいない。
【
無理なマナの取り込み、そして完全な制御下に置かれていないマナの使用。こんな事をすれば体が悲鳴を上げ、簡単に失神する。当たり前だ。だが、それで良かった。
最後にこんな強敵と出会う事ができて、もう二度と成長することがないと思っていた我の限界を超えることができて、そして我が子であるナディ―に父親としての最後を見せることができて──
──我が子を、守ることができて。
まぁ、ノルとシアを守ることはできていない。子供一人しか守れぬとは、最後に不甲斐ない姿を晒すことになってしまったな……
それだけが、心残りになってしまいそうだな。はて、ナディ―に何と文句が言われることやら。ユキにも怒られてしまうな。アイツを怒らせたら少なくとも一週間は口を聞いてくれないのだがなぁ。
…しょうがない、ナディ―達に頭を下げるしかないか…さて、何を要求される事になるのであろうな。ナディ―なら肉か?ダートボアの肉をせがまれるぐらいのならいいのだがな。流石に我でもワイバーンを狩ってくるのはちと骨が折れるから、手加減をしてもらいたいものだ。
ノルは、何であろうな?この前遊んでやった時は途中で飽きてナディ―の元へと行ってしまったからな。…あの時のアイツのドヤ顔を思い出したら無性に腹が立ってきたな。今度、修行を積むときは深層手前の魔物の所へと連れて行くとするか。
シアは遊んでやったら喜んでおったからな。一日中遊んでやるとしよう。む、しかし、そうするとナディ―とノルも一緒に遊び始めるか。そして仲間外れになったユキが拗ねてやってきてしまうな。
なんだ、いつもの日常になってしまったな。それならば皆で──
──ザシュ
『ガフッ』
気がつくと我の魔石がある部分にアヴィディーの大剣があった。いつの間に?いや、それよりも我はさっき何を考えて……
「じゃあな、ベイン。楽しかったぜ」
アヴィディーはそう言うと大剣を我から抜いた。
途端、傷口からこれまでとは比較にならない程の血が溢れ、我はその場に倒れ伏した。
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