第13話
「毎度。また来いよ」
「……おう」
一週間後に取りに行くことを約束したフィスは、そう短く返事をした後先に店を出たキアラを追うようにして店を出た。
(まさか、生きていたとはなぁ……狼剣組を除名されてたからてっきり殺されてたと思ってたぜ)
バルカスは久々に会った旧友の無事な姿を見て少しだけ涙腺が緩んでいたが、彼の前で泣くのは恥ずかしかったので彼が店から消えるまで頑張って耐えていた。
彼はずっとフィスはもう死んでしまっていたと思っていた。それは狼剣組の除名のシステムを知っていたからで、まだフィスは知らないのだが、既に彼は狼剣組を除名されている。
かの組の除名はそれは重く、どれほど軽くても四肢切断と言う、除名されるという事はつまり死ぬことと変わりないのだ。これは狼剣組の中でも秘匿されているものなのだが、どういった偶然か、バルカスはそれについて知っていた。
そんな彼とフィスの出会いはそれこそフィスが狼剣組に入った当初にまで遡る。当時、自分に何ができるのかまだ理解しきれていなかった彼に剣を与えたのがこのバルカスだったのだ。
故にバルカスにとってフィスは年の離れた甥のような存在になっていた。しかし、親に捨てられ傷つきながらも必死に狼剣組で頑張っているその姿は、いつ死んでもおかしくないと思ってしまうほどの危ういものを感じていた。
『─────利子付きで90万ファニア。ちゃんと返せよ』
『─────高くない?だったらいらない』
『─────本当に?魔術が使えるらしいが、安定して使えるのか?だったら武器の一つくらい持っとけ。今ここで金を寄こせと言ってないだけ優しいだろ』
『─────……分かった』
1ファニアは100円くらいなので90万ファニアは結構な大金と言えるだろう。
そんな大金を生きて返すことができるまで生き抜いてほしい、そしてその間に自分の意思で“生きていたい”と思えるようにとの願いを込めて彼はあえてその金額設定を高くして彼に剣を渡したのだ。
結果彼は今日までしっかりと生き抜いてしっかりと90万ファニアを返してくれた。捕まって処刑されるとか、戻ってきたけど狼剣組を除名されたとか聞かされて結構心配だったけれど、まさかこうして元気な姿を見れるとは……、と彼は素直にそう思った。
(しっかし、まさか貴族様に拾われるとはなぁ……それに彼女は確か)
彼はあの気が強そうな彼女を見てから昔聞いた噂を思い出し、少しだけフィスのことが心配になったのだった。
「それじゃあ次はこれを着て?」
「……何着目ですか、それ」
遠い目をするフィスを見て、付いて来たカンバが憐れんだ目で彼を見た。それが無性にフィスの腹を立たせていたのだが、カンバはまだ気づいていない。そうしてる間にもキアラが更に洋服を持ってきては彼に渡しており、今渡された服で12着目である。キアラはそれでもまだ彼に着せようと店内を歩き回っては似合いそうな服を手に取っていた。それは何着も。
(疲れてきた……)
当事者だからと言うのもあるのだろうが、なにより何度も来ては脱いでを繰り返すのが初めてなため、少しでも服に傷がついたらと考えるためかなり慎重にそれをしている。その為結構神経質になり、精神的に疲れていた。
それに、彼が今まで着ていた服はどれも同じようなものだったため、着方がわからないものがほとんどだった。それが余計に彼の神経を摩耗させていた。
「お、お嬢様……そろそろ」
そして遂にカンバがいよいよ表情が無になっていくフィスに見かねて助け舟をだすも、
「え?まだ時間あるでしょ?」
と、一瞬で切り捨ててその手に持っていたシャツとズボンのセット三つをフィスに渡した。カンバはそんな彼女に愕然とし、フィスに謝罪の目線を送るも彼は遂に目に何も移すことなくそれらを受け取って、哀愁漂う背中を見せながら試着室に入ったのだった。
「ふぅ……これくらいかしら」
「お嬢様、ようやくですか?」
「えぇ。後は今まで来たやつで吟味して、4~5着買うわよ」
「……お嬢様が金を出すのですか?」
「えぇ。私の剣術指南兼護衛役になってくれたお礼として、ね?」
「……なるほど」
そう言われてしまうと護衛の立場であるカンバは彼女に何も言えなくなった。
(まぁ、これも経験と思え。少年)
(カンバの野郎……後で〆る)
彼はこれも定めだと思い、色々諦めた。そして絶対にカンバを〆ると決意した。
それから数十分後。
「終わった……」
数着の服が入った紙袋を持ちながらフィスが誰も聞こえないような声でそう呟いた。
(戦闘だったらこんなに疲れないのに……。初めてだな。充実感を伴わない疲労と言うのは……)
いつも疲れる時はある程度の充実感を得ていた。一応女性の買い物には何度か付き合ったりしておりその度に疲れたりしていたが、それでも自分にはほとんど関係ない買い物だった為然程疲れはしなかった。
だが、今回のは違かった。今回のは自分に関わることだった為、動くことが多かった。だがその割に充実感を得ることが無かった。
だから辛かった。
「今日はどうだった?」
「……え?あ、はい。まぁ、よかったです」
すると突然前を歩いていたキアラが後ろを向きながら彼にそう聞いてきた。しかし疲れていたからか、彼の返事はかなり雑になってしまった。
「もう……まぁいいわ。取り敢えず、明日からもよろしくね?」
「……はい」
そう言った彼女の表情はどこか満足げで嬉しそうで、そんなのを見てしまったからフィスは文句を言おうとしていた口を思わず塞いだのだった。
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