第6話
その日の夜。
「……ふぅ。ここまでくれば問題ないか」
一息ついたフィスはそばにあった木に寄り掛かった。彼は土煙を起こした直後、即座に魔力を無色にして体を強化し、闘技場の外に出てそのまま街の外の深い森の中まで逃げてきたのだ。
「にしても、ロウェンのやついつの間にか消えてたし……どうしたもんか」
今彼は街のそばにある森の中で……道が分からなくなっていった。迷子である。
「どっち行けばいいんだ……?ま、適当に歩いてれば着くだろどうせ」
そして彼は極度の方向音痴だった。彼が進んでいる先は街とは正反対の向きだった。
そのまま歩き続ける事1時間ほど。
「……まじでどこなんだ?ここは」
彼はようやく自分が迷子になっていることに気が付いた。そしてこのまま右往左往していてもただ体力を削るだけだと判断した彼は、どこかで野営することにした。
(でも、このまま地べたで寝ても体痛めるだけだし……でもなぁ……。取り敢えず寝れそうな場所探そう)
そうして彼が寝床を探して歩いていた、その時だった。
「────陣営を立て直せ!野盗如きに後れを取るな!」
「アアアアアアア!?」
森の奥から悲鳴に似た叫び声が聞こえ、それと同時に誰かの断末魔が森中に響いた。そして金属同士がぶつかり合う音がフィスの耳に入ってきた。
(誰かが争っている……?片方は野盗だって分かるけど……)
フィスはまだ体が十分に動けることを確認してその場所へと赴き、身を潜めてその現場を確認する。
そこにはどこかの貴族の家紋が入った鎧を着た数人の騎士と、明らかに野盗とは言えないほどの人数の集団とが殺し合いを繰り広げていた。
地面を見れば両陣営の死体がいくつも転がっている。しかし実力の差がやはりあったのか、野盗の死体のほうが多かった。
「殺せ!この人数なら殺せるはずだ!」
「隊長!このままだと……」
「人数差など気にするな!こいつらは必ず殲滅させるんだ!」
「「「はっ!」」」
隊長と呼ばれた女性のその叫び声に騎士らが気合を入れなおすためか喉奥から大声を出した。
「うわぁ……」
死で満ち溢れた空間。
フィスはついさっき自分でしたことを棚に上げながら、目の前で繰り広げられているこの殺し合いを引いた目で見ていた。
そうしている間にもまた一人の騎士の片腕が野盗の一人に斬り飛ばされた。
「ああああ!?」
「おのれ貴様ぁぁあああ!!!」
すぐに別の騎士がその野盗の首を刎ねる。しかしまた別の野盗が片腕になった騎士を殺さんと数人を携えて殺そうとした。
「お前は下がれ!」
「ですが!?」
「足を引っ張るな!お前はすぐにこの場を離れて当主様に連絡を入れろっ!」
「っ……!す、すみません……っ」
これ以上戦えないことに対する申し訳なさを感じながら、手負いの騎士はこの場を急いで離れた。背を向けた騎士を追撃しようと近くの野盗が駆け出すが、それを見た別の騎士が即座にその野盗らを斬り殺した。
「貴様らはここから一歩も通すわけにはいかない……!」
「どけよ騎士様ぁ!」
「おらよぉ!」
「っ!?ぁぁぁぁあああああ!」
囲まれた騎士は頭から血を流しても、それでも剣を振る腕を止めることは無かった。
一人でも多くの野盗を殺す。そんな意思をまざまざと嫌でも感じさせられたフィスはこのまま見過ごすことはできないと考え始め、
(取り敢えず野盗殺しとこ)
彼はこの殺し合いに横入りすることを決めた。そうと決めた彼は無色の魔力で自分の体を強化し、次に自分の魔力を染め始める。
「
そしてその掛け声と共に勢いよく殺し合いをしている彼らの前に姿を現したフィスはそのまま近くで殺されそうになっていた騎士を助けるべく、魔術を唱えた。
「────
「「「「「がああああ!?」」」」」
「「「っ!?」」」
一度に五人の野盗の首が刎ねられ、近くにいた騎士とそして周囲にいた野盗らは唖然として一瞬動きが止まった。
「このまま死ね」
「がっ!?」
「あっ!?」
「っ!?」
右足で着地すると同時につま先で地面を蹴り、即座に動きが止まったままの野盗を纏めてその手に持っていた剣で殺した。
そして近くにいた騎士がフィスの顔を見て、驚愕した。
「お、お前は……!」
「話は後だ。とにかく、この人数を殺さないといけないんだろう?手助けしてやる」
「犯罪者が……貴様の手助けなどいら────」
「助かる!」
「た、隊長!?」
と、その時奥で戦っていた隊長がそのフィスの提案を素直に受け入れたことで騎士の間で衝撃が走った。しかしそんなことなど気にすることなく隊長は言葉を続ける。
「貴様の実力はあの時しかと見ている!とにかく人数を減らしてくれ!」
「おう────任せろ」
元々裏社会で生きていたとはいえ、彼も人情を捨てたわけじゃあない。困っている人がいたら多少の手を差し伸べるだけの優しさがまだ彼の中に残っていた。
しかし今の彼は先のミーアとの戦闘によって多少疲弊している。
(だが問題ない……この程度、あの時と比べれば)
彼の意識は既に前にいる敵へと向いていた。すぐに狙いを定めると、もう一度魔術を唱える。それがスタートダッシュの合図となった。
「
「「「があ!?」」」
前を塞いでいた三人を殺したフィスはその屍を踏み越えながら敵の本陣へと駆け出していった。
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