第39話

「やあ」


「ネオ先輩」


 風紀委員会にフィス達が入った次の日。今日はネオがフィス達と学園を見回ることになり、放課後こうして集まっていた。


 まだ風紀委員会に入ってから日が浅い為、彼らは言葉で何をするかはある程度説明はされているが詳しいことはまだ分かっていない。


 一言学園の風紀を取り締まると言っても実際どのように取り締まるのか分からない以上誰かが教える必要がある。その矛先が向いたのがネオだった。


「それじゃあ行こっか」


「「はい」」


 ネオを先頭にして学園内を歩き始める。授業を終えた生徒たちがそれぞれの目的地へと廊下を移動している中、三人は周囲に目を向けつつとある場所へと向かっていた。


「僕たちの仕事は基本的に風紀の乱れを正すこと。まぁ一概に正すだけじゃ駄目だけどね。その時その時の状況に応じて臨機応変に対応しなければならない」


「そうなんですね」


「まぁキアラさんなら問題なさそうだけど。フィスもキアラさんと行動するから問題なさそうだ。んで、その臨機応変にだけど─────」


 どうやら目的地にたどり着いたらしく、とある場所の前に立ち止まる。彼らの目の前にはとある建物が。


「例えば、この建物なんだけど、一見すると何もないように見える」


「そうですね」


「でもね、ここは昔反政府軍の根城だったんだよ」


「え!?」


 キアラが驚いて彼の顔を見る。その彼女の表情が面白かったのか、ネオはカラカラと笑った。


「こういったことがあるから風紀委員会の、特に実行部隊は実力が全てなんだよ。後は隠れて平民をいじめてる貴族とかを見つけるための観察眼とかね。まぁこれは魔術で何とかなるからあんまり問題視してないんだけどね。さっきの話に戻るけど、風紀委員会に所属している以上一定の実力が必要だから、月に一度訓練を行うことがあるからそれには絶対に参加してね。僕からは以上かな。何か質問は?」


「特にないです。あ、でもその訓練に諸事情で参加できない場合はどうすれば?」


「その時は事前に言ってもらえればいいよ。それも厳しかったら、まぁ、その時は僕たちを実力で黙らせてね?」


「……分かりました」


 キアラが獰猛に笑う。まるで受けて立つと挑発しているかのように。その笑みにネオも同じように笑いながらここから離れていったのだった。


「……お嬢様」


「楽しみね」


「……はぁ」


 いつからこんなにも好戦的になってしまったんだろうとフィスは少しだけ悩みを増やしながら溜息を吐く。しかし彼女が戦うと言っている以上戦わないと言う理由がない。


 その時は全力を持って彼女を支える覚悟がある。


「ん?」


「どうしました?」


 と、学園に戻ろうとしたその時。キアラが何かに気づいたようで、ある一点を見つめていた。

フィスも彼女が見つめる先を見てみると、


「……彼らは、レインハルト派の生徒ですね」


「あいつら、フィスに難癖付けてた奴らね」


「……そうでしたっけ」


「なんで当事者のあなたが覚えてないのよ」


「興味無かったので。申し訳ございません」


「まぁいいわよ。考えてみればあんな奴ら、いちいち覚えてる必要なんてないわ。どうせ私も明日には忘れてるから」


「行きますか?」


「ええ」


 フィスとキアラがその生徒らが見えたところへとなるべく気づかれないように近づいていく。するとそこには、


「……これがあれば、あんな奴に勝てるんだな」


「あ、あぁ……間違いない……はずだ」


「お前、今更ビビってんのか?」


「う、うるせぇ!」


 小さな玉を持った生徒五人がいた。確かに顔ぶれはフィスに難癖をつけて最終的に負けた彼らだった。しかしどこか様子がおかしかった。


「……あの玉、まさか」


 そして彼らが手にしている玉にフィスは見覚えがあった。


(やはりとは思っていたが、まさかここであれを見るなんてな)


 反政府軍のアジトを潰している中で、彼は何度かあの玉を見かけている。それはあの時カンバが使ったものと同じもので、


「んぐっ!?」


「がっ!?」


 それを口にして呑み込めばどうなるか、結果を既に知っていた。およそ学生である彼らが出せる訳の無い量の魔力が彼らの体から漏れ始める。それはあの時のカンバや反政府軍にいた他の奴らに起こったことと同じものだった。


「……キアラ様」


「……しょうがないわね」


 キアラは一度目を瞑ると、目つきを鋭いものに変える。それは普段のキアラを見ていたら想像できないものだった。この目はキアラが荒んでいた時の目。

 ベリルの敵を絶対に打ち取らんとする、一種の狂気が含んでいる目だった。


「フィス」


「はっ」


 そしてフィスも同じように今までの柔和な雰囲気が一気に霧散し、その目を覚悟が入ったものに変え、無言で強化術を使いいつでも飛び出す準備を終える。

 それを確認したキアラはあの彼らと同じように抑えていた魔力を解放し、命令を下す。




「─────奴らを殲滅せよ」


「─────御意」




 フィスは静かに剣を鞘から抜くとゆっくりと歩き始め、彼らの前に姿を現す。


「っ!お前はあの時の!」


「まさかここに来るとはなァ!今の俺らはあの時とは違うぞ!」


「ぶっ殺してやる!」


「……酔ってるか。ならば、殺すのに躊躇はいらないな。─────魔を断つ魔力サーバーマジック


「─────は?」


 そして即座に近くにいた生徒の一人の首を剣で断つと、準備した魔術を放つ。


断魔だんま


「っ!?」


 指定された座標にあった生徒の首が、その術式によって即座に断たれた。いきなり二人殺されたことで動揺が三人の間に走り始め動きが一瞬鈍る。


(一人だけ残せばいいか)


 フィスは動揺から回復し、魔術の準備を始めた生徒の胴を斜め下から切り上げる。それを避けようと後ろに飛んで下がろうとするも間に合わずに深い傷がその生徒の体に刻まれた。


「いっ!?」


「ガヴァ!」


「五月蠅い」


「っ!?」


「レベラ!?」


 斬られた生徒の名を叫んだ生徒の首がフィスの一言と共に魔術で刎ねられた。それに自身にあった痛みを無視し思わずと言った感じで叫ぶ生徒。


 そして最後の生徒が動揺から復活した時点で、その生徒と胴を深く斬られた生徒以外の三人が既に死んでいた。


「ひっ……!?」


「っ……」


 既に戦意は無かった。いや、戦意を湧きあがらせる前に仲間が死んでいくその光景に湧きあがるわけもなく。あるのは喪失感と恐怖だけだった。


 そんな彼らをフィスは冷めた目で見ていた。

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