第15話
「王族主催のパーティ、ねぇ……」
キアラ様に招待状を渡したメイドはそそくさと部屋を出ていった。それを見送ったフィス達もこのまま部屋を出ようとするが、
「あ、あなた達にも関係あるからここに残って。ケイン、一旦中断するわよ」
「分かりました。それでお嬢様、何が書いてあったのですか?」
「一週間後に王都で今年学園に通い始める令息令嬢を対象にした、ちょっとしたお祝いをするんだって。私たちの代には第二王子もいるしね。きっと顔を広めるって狙いもあるんでしょう」
そう言ってキアラはめんどくさそうに吐き捨てた。
彼女も貴族であるが故に、何度か他の貴族や王族が主催するパーティに参加したことはある。あるのだが、
(全く楽しくないのよね、あれ。だったら魔術の勉強をしたいわ)
パーティに全くの魅力を感じていない以上、その時間はただただ退屈でしかなかった。この時点で彼女の目はどこか死にかけていた。
そんなキアラを見ながらケインは彼女からその手紙を見せてもらい、自らもそれを読んだ。そして書かれている内容が彼女の言ったこととほとんど間違いないことを確認する。
「成程……それは参加しないと色々不味そうですね」
「えぇ……本当にめんどくさいわ。お父様もこれについては読んでるだろうし、だからあのメイドが持ってきたんでしょうね。今日の夜に話がありそう」
改めて心底めんどくさそうにそう言ったキアラにケインは笑みを少しだけ深くする。
「それではお嬢様」
「……何────嫌よ」
「私はまだ何も言っていませんが」
「嫌ったら嫌っ!どうせあれなんでしょ!?私はこのまま魔術の勉強をしたいの!」
「駄目です。お嬢様自身の魔力はまだ少ないですが、魔術の腕は既に一端の術師と呼んでも差し支えないものになっています。しかし魔術以外はほとんど駄目ではないですか」
「ダンスとかしても意味ないでしょ!それに適当に合わせておけば何も問題なかったし!」
(うっわ、天然の天才かよ。狡すぎだろ)
フィスはそのキアラの発言に心の中で素直に感嘆すると共に、今までのケインとの指導での苦労を重ねて素直に悪態をついた。
戦闘でならほとんど教えてもらわなくてもなんとかなるフィスと、それ以外のあらゆる分野を何でもこなせるキアラ。
二人は色んな意味で尖っていた。
「しかし先日のダンスレッスンで5つほどミスをしていましたよね?」
「うっ……それは今掘り返さなくてもいいじゃない。それにあのミスはもう二度としないわ」
「本当に?そう自信を持って言えますか?」
「当たり前じゃない。逆にフィスがやった方がいいんじゃないの?」
「は!?」
フィスが急に話を向けられて戸惑っている間にも二人の言い合いは加熱していく。
「私は何度もダンスレッスンをしているからいいけど、フィスはまだ数えるくらいしかしていないんでしょ?だったらそっちの方を優先した方がいいんじゃない?」
「今、フィスがダンスレッスンを受ける意味が有りませんが」
「でもこのパーティにフィスも連れていくんでしょ?だったら一応できておいた方が良くない?」
「護衛はホールの中に入ることはできませんよ?」
「でも万が一が」
「どんな万が一ですか……もう諦めてください」
「むぅ……しょうがないわね」
「それでこそお嬢様です。フィス、カンバ。また扉の前で警護を頼む。さっきのようなことがあれば次は門前払いして貰って構わない。今は時間が惜しいからな。終わったら扉を開ける」
「「はっ」」
そう言って二人は部屋をまた出て行った。キアラはまだやりたくなさそうにしていたが、二人が部屋を出ていってついに諦めてダンスレッスンを素直に受けるのだった。
その夜。
1日のスケジュールを終えたフィスとカンバは使用人用の食堂で一緒に食事をとっていた時だった。
目の前に一人の女性が立つ。
「フィス」
「ん?」
「当主様がお前を呼んでるぞ。さっさと行け」
「……おう」
口調が厳ついメイドにそう言われたフィスは途中だった食事を急いで済ませ、食堂を出て執務室へと向かっていった。
(一体何の用があるんだろ?)
「失礼します」
「来たか。入れ」
ドアをノックし、執務室の中に入ったフィス。部屋の中にはベリルしかおらず、キアラなどはいなかった。
普通だったらそばに護衛もいそうな感じだが、それもいないとなると、既にベリルはフィスを信頼しているようだった。
そしてベリルは手元の資料を見る。そこにはこの一週間のフィスの行動が記録されていた。
「ひとまず、一週間が経ったが……特に問題になるような行動は起こしていないようだな」
「……はい」
「メリルの言った通りになったか……まぁいい。くれぐれも、何か問題を起こすんじゃないぞ?」
「はっ」
そう言われたフィスは姿勢を正し直した。それを見たベリルはそのまま話を続ける。
「よし。それでは次だ。お前はキアラが来週王都で開催されるパーティに出席するのは知っているな?」
「はい」
「────お前は彼女の護衛として共に王都に出向いてもらう」
「……はい?」
彼は最初何を言われのか理解できず、思わず聞き返してしまった。
─────────────────────────────────────
“面白い”、“続きが読みたい”と思ったら是非この作品のフォロー、☆、♡をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます