第16話

「それじゃあ行きましょうか」


「……うっす」


 パーティ三日前。準備を終えた旨を伝えられたキアラとベリルは彼女たちの分の荷物を持ったケインを連れて馬車の中へと乗り込む。そして馬車の左右に野盗からキアラたちを守るためにフィスとカンバら騎士が立った。


「ワイズ、ローラ、私がいない間の辺境伯家を頼むぞ」


「お任せください、父上」


「行ってらっしゃい、あなた」


「馬車を出せ」


「はっ」


 指示を受けた御者は馬車をゆっくりと動かし、辺境伯領を出発した。ここから王都まで約二日。なので今日は中間にある街で一晩過ごす予定だ。

 本来その街は馬車で半日もあれば着く。道中野盗が出るという報告は今のところなかったが、それでも例外というものはある。なのでイレギュラーが起きたとしても予定通り着けるようにこうして早めに出たのだ。


 辺境まで来るような物好きな野盗など普通はいないのだが────直近で野盗に紛れた敵兵に襲われたという事実がある。あれほどの人数が襲ってくることはもうないだろうが、それでも襲われるだけでかなり対処に時間がかかってしまう。


(面倒だな、本当に)


 フィスは周囲を警戒するために無色の魔力を薄く張り巡らせた。これを探知術と言って無色の魔力で体を強化する強化術と同じようなものであり、魔術を扱う者はできて当たり前の技術だ。これは張った魔力の場所に別の者が通ればそこの魔力が揺らぎ、その揺らぎを認知することで居場所を特定できるという仕組みになっている。


 魔力を然程消費することはないが、ずっと一定量消費し続けるため魔力が少ないものがそれを使うとすぐに魔力欠乏症────通称ガス欠を起こしてしまう。

 ガス欠を起こすと強烈な眩暈と頭痛、そして魔力管の急速的な収縮が行われるため、しばらく魔術が使えなくなってしまうため、魔術師は基本ガス欠を起こさないように魔力管理を怠らないことが必要となってくる。


(さて……さっきから野生の動物ばっか反応するな────っと)


「北西方向に敵反応あり。今から斬る」


「おう」


「一応殺したら言ってくれ。何人かそっちに向かわせたい」


「了解です」


 フィスはカンバたちにそう告げてから魔力に色をつけ始める。


魔を断つ魔力サーバーマジック────断魔だんま


 彼の魔術は探知術で広げた魔力を介して遠くの探知できた場所に魔術を発動させることができる。その為遠くにいた怪しい気配に狙いを定め、魔術を放った。


 今は足を止めている暇などない。故にここで殺すと決めたフィスは手加減などしなかった。


「……殺った」


「分かった。よしお前ら、フィスと一緒に現場に向かってくれ」


「「「はっ」」」


 ここにいる騎士の中で一番位が上のカンバがそう指示を出し、三人がフィスを先頭に現場へと向かった。そこには胴に深い切傷を付けた一人の男の死体があった。


「こいつは……野盗の監視役か?」


「そのようだ。つまりこの周囲に野盗が潜んでいる……?」


「こいつの所持品を確認した後すぐに戻るぞ」


「「おう」」


 フィスたちは死体が持っていたものを回収し、死体を燃やした後少し進んだ先にあった馬車へと戻る。そしてすぐに中にいるベリルに報告した。その報告を聞いた彼は少しだけ考える。


「成程な……今は無視してこのまま馬車を進めよ」


「はっ」


 問題ないだろうと踏んだ彼はこのまま進むことを決め、御者にもそう伝えるようにフィスらに命じた。しかし、


「……ん?」


「どうした?フィス」


「……一応警戒しておいてくれ。探知術で違和感を感じた。多分敵に魔術師がいる可能性がある」


「はぐれ魔術師か……総員、探知術が使えるやつはすぐに強化をしろ!はぐれ魔術師が潜んでいる可能性がある!」


 野盗に堕ちた魔術師ほど面倒なものはない。故に彼らはこのまま野盗の殲滅を始めることにした。


 フィスたちがそのように決めている中、馬車の中では、


「お父様」


「なんだ?」


「そろそろ魔術ぶっ放したい」


「……何を言ってるんだキアラ……駄目に決まってるだろう」


「でもフィスが守ってくれるよ?」


「……まだそこまでする確信を持てないんだが」


「自分の身は自分で守るからいいわ。ね?今回だけだから」


「……駄目だ」


 と、言い合っていたその時だった。


「っ!?ベリル様!馬車の中でそのまま動かないでっ!野盗の集団が現れました!」


 突如森の奥から武器を持った集団が馬車を囲み始めた。


「騎士様どもを殺せ!憎き貴族を抹殺しろ!」


「なんとしてもご当主様を守るのだ!ここで炎系統の魔術は使うなよっ!」


「「「「はっ!」」」」


(強化術……!)


 先陣を切ったのはフィス。強化された体をまるでバネのようにして勢いよく敵陣に突っ込むと、先日届いたばかりの新調した剣で野盗の一人を斬り殺す。直後、フィスの後ろから


竜巻砲ハリケーンキャノンッ!」


 味方の放った魔術がフィスの奥にいた野盗を纏めて葬った。その中に野盗にいた唯一の魔術師もいた。


 こうなって仕舞えば野盗に勝ち目などない。一気に統制が失われた野盗が壊滅するのには然程時間が掛からなかった。


「尋問は?」


「いらない。精々何故魔術師が野盗に成り下がったのかくらいしか聞くものがないからな。後はアジトか。だが今は時間が惜しい。死体を燃やして急ぐぞ」


「はっ」


 そう指示を出したベリルは馬車の中に戻り、騎士たちは即座に行動を開始。死体を一箇所に集めて炎魔術で燃やした。


「よし、行くぞ」

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