第17話
それから半日かけて中間地点の街に着いたフィスたちはそこで一日過ごし、二日目でようやく王都に辿り着いた。今日はこのまま検問を通り、王都の貴族街にある別館に行く予定だ。
「ここが王都……」
フィスが目の前に広がる大きな壁を見上げてそう呟いた。彼は今まで街の外に出たことがなかったため、これほど大きな城壁を見たことがなかったのだ。
「初めてなのか?」
「あぁ。出たことがなかったからな」
「へぇ……」
馬車は長い行列を作っている平民門を避け、貴族門へと進んでいく。
「次。家紋の提示をお願いします」
「これだ」
ベリルが馬車から顔を出して懐からミレニア家の家紋を憲兵に見せる。それを確認した兵士は後ろにいた他の兵士に指示を出して門を開けた。
「お通りください」
「ありがとう」
そしてゆっくりと馬車を走らせ城壁を抜けると、
「わぁ……」
ミレニア領を超えるほどの壮大な街の景観に思わずフィスは静かに感嘆の声を上げる。城壁が大きく作られているからか、街の中にある建物一つ一つもミレニア領にあるものよりも大きく作られていた。
「それじゃあ別館に行くぞ。御者、馬車の速度を少しだけ上げてくれ」
「はい」
カンバの指示を受けた御者は鞭を打って馬車の速度を上げる。そうして進んでいると、前に人が歩いていた。しかしその人は後ろから馬車が来たことに気づいたのか、そそくさと横に行った。
どこの街でもそうなのだが、街道で優先されるのは貴族の馬車であり平民は事故を起こさないためにも横に避けないといけないのだ。
(なんか変な気分)
フィスはつい最近までその避ける側だったので、こうして行先を避けられるとなんだかむず痒いのを覚えた。
そうして進んでいくこと数十分。ミレニア領にある本館よりは小さいが、それでも周囲にある貴族街のどれよりも一回り大きく見えた建物の前に止まった。
「ここが別館……」
「でかいだろ?本当はもう少し小さい方がいいってご当主様が言っていたんだが、何故かこれになったんだと。今日から俺たちもここで一週間ほど過ごすことになるからな」
「は?別のとこじゃないのか?」
「あぁ。ていうか、貴族街にそんなとこないからな。別のとこに泊まるってなったら必然的に街の外になってしまう。そうしたらもしもの時何もできないだろ?」
「成程」
一人納得したフィスはケインの手を借りて降りてきたキアラがこちらに近づいてくるのに気がついた。
「フィス、早速王都観光に行くわよ!」
「……いや、まだ到着したばかりですよ?少し別館の部屋で休んだ方が────」
「別に疲れてなんか無いわ!だからすぐに行きましょ!いいですよね、お父様!」
「……駄目に決まってるだろう。これからパーティの準備があるんだから」
「むぅ……」
そう言われて彼女は顔をムスッとして、見るからに諦めきれない様子だった。しかしベリルも頑なだったため、彼女は諦めた。しかしただで終わらないのがキアラ・ミレニアだ。
「じゃあパーティが終わった後ならいいでしょ……?」
「それならいいぞ」
「やった……!」
結局いつでもよかったらしい。キアラはさっきとは打って変わって嬉しさを滲ませた表情を見せた。そしてスキップしながら別館の中に入って行った。
「……俺の拒否権は?」
「キアラの護衛になった以上、お前に拒否権などない。そもそも、そんなのが無くても最初から拒否権など無いぞ」
「……うっす」
前の買い物の地獄を思い出して顔を青褪めるフィスに、ベリルは少し同情の目を向けながら死刑勧告を彼に告げ、逃げられないことを悟りどんどん顔が真っ白になっていく。
「行くぞ」
「……」
そして魂が抜けたようにその場に佇んだフィスをカンバが引きずり別館に入っていく。容赦が無かった。
それから別館で一番広いフロアにて、明日以降の予定が今回ミレニア領から来た人たちとこの別館を維持するために雇われた従業員たちに向けて説明された。
「それでは、明日からよろしく頼むぞ」
「「「「「はい!」」」」」
「「「「「はい……」」」」」
こういう時でしかミレニア家に貢献できない別館組はかなり意欲的だ。それに対しミレニア領から来た組は旅の疲れてかなりぐったりしていた。
それから各自指定された部屋に入る。キアラたちと同じ館で過ごすとはいえ、部屋の数は勿論限られている。その為二人から三人で一部屋使うことになっている。フィスはキアラの護衛であるため同じ護衛であるカンバが今回のルームメイトとなった。
「ふぅ……」
荷解きを終えたフィスはベッドに座り、そのまま横たわった。体はまだ動けるが、ずっと探知術を使っていたせいで精神的に参っていた。
「この後キアラ様の護衛としてまた動くんだからな。そんなことしてるとこの後きついぞ」
「分かってる……っと」
カンバにそう言われ、彼はゆっくりと体を起こす。しかしかなり無理をしている感じだった。
(でも狼剣組にいた時にもこんなことはあった……それを考えればこの程度)
そう気持ちを切り替えたフィスは、カンバと共に部屋を出たのだった。
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