第18話
数日後。パーティ当日の今日、ミレニア家別館は朝からそこかしこで忙しく従業員や騎士らが準備を行っていた。
そしてそのパーティに護衛として参加するフィスとカンバも彼らと同じように動いていた────────訳ではなく。
「……なんかキツイわ。ねぇフィス、これ似合ってる?」
「……え、えぇ。いいと思いますが、それよりもお嬢様。そろそろ決めてはいかがでしょう?」
「もっと着やすくて可愛いのがいいって言ってもこんなのしかないんでしょ?だったらこの制限された中で最大限可愛くしなきゃ。その為にもまだ試行錯誤を続けるわよ。それじゃあまた外に出て」
「分かりました……」
大人しく部屋を出たフィスとカンバ。直後、フィスはカンバの方を向いて、
「……なぁカンバ」
「逃げるなんて言うなよ」
「……チッ」
「それにお前は逃げたら処刑だからな」
「……はぁ。だよな、分かってる」
そう言ってため息をつくフィスだが、最初から逃げられるとは全く考えていなかった。どのような状況であれ、彼はキアラの言う事には絶対に従わないといけない。
「だけどキアラ様、昨日決めたはずだよな……?」
「でも気が変わったんだと。寝ている間に」
「……」
フィスは昨日みたいに長引きそうだと悟り、溜息を吐いた。ちなみに、昨日かかった時間はおよそ3時間以上である。その間数え切れないほどキアラは着替えており、その度に感想を求められていた。
(毎度の如く感想を求められるこっちの身になってほしいんだが……まぁ、無理だよな)
彼はもう何度目かの割り切りをしたのだった。
その後少しして部屋の中からキアラの二人を呼ぶ声がしたので、また中に入る。そこにはさっきとは少しだけ違うドレスをきたキアラがいた。
「ねぇねぇ、これなんかどう?」
「とても綺麗ですよ、お嬢様」
「……いいと思います」
笑顔で褒めたカンバと、大雑把に褒めたフィス。カンバはこういったことを何度か経験している為まだ大丈夫だったが、フィスはこういったものの耐性などなく。
(疲れた……)
「でもちょっと地味過ぎるのよねぇ……もうちょっと派手にした方がいいのかしら」
「……ではまた我々は」
「えぇ。もう一度外に出て」
(まだ続くのかよ……)
前の時ほどではないがそれでも幾分かの疲労を感じながら、フィスはまた部屋を出た。
それからしばらくの間キアラのドレス決めに付き合わされたフィスは、ぐったりした様子を隠しながらキアラの後ろを歩いていた。今彼女が向かっているところは執務室だ。
メイクもした今の彼女の姿をベリルに見せるためだ。
「失礼しますわ」
「入れ」
ドアを開け、一礼した彼女たちはベリルの前に立つ。いつもと違う姿を彼に見せるために。
「どう?お父様」
「おお!とても可憐じゃないか!」
「ありがとうお父様!」
自分の娘の立派な姿に満足そうな笑みを浮かべたベリルはケインに目を向け、
「それじゃあそろそろ行くとしよう。準備は」
「既に完了しております」
「よし、ではそろそろ行こうか」
そう言った後、ベリルたちは既に入り口の前にあった馬車に乗り込んだ。フィスたちは前と同じように馬車の周りに。
「それでは出発します」
ゆっくりと馬車が動き出し、貴族街の平民街よりも整備された街道を走り王城へと向かっていく。そして何事もなく無事に辿り着いた彼らはまず馬車からキアラたちを降ろし、馬車は来賓用の車庫に入れるためにフィスが万が一のことを考えて馬車について行くことに。
「それではここで待ってますね」
「お願いします」
そう言ってこの場を離れ、来る前に言われていた場所へと向かおうとしたその時だった。
「あなた、どこの兵士かしら?」
車庫の近くから貴族と思われる令嬢がフィスに近寄ってきた。彼は最初自分に話しかけられていると思わずに周りを見回すも兵士らしき者は誰もおらず、それでようやく自分が話しかけられていることに気が付いた。
「兵士とは思えないほど軽装だけど。もしかして、賊?」
「……いえ、自分はミレニア家の兵士であります」
ケインにしごかれようやく身に着けた言葉使いで敬礼をしながら彼女の問になんとか答える。
「ミレニア家の?」
「はい。ミレニア家直属騎士、フィスであります」
「へぇ、つい最近入ったのかしら。それでも護衛に任命されるってことは相当優秀ってことよね」
「……それについては何とも」
フィスが何とも言えない表情でそう言うと、彼女は軽く笑った。
「まぁ普通そうよね。あ、自己紹介を忘れていたわ。私の名前はカリーナ・ドメイン。ドメイン伯爵家の次女よ」
「ドメイン伯爵家の……」
「えぇ。ふふっ、本当は来たくなかったんだけど、あなたに会えて来てよかったって思えたわ。ありがとう」
「……どういたしまして?」
「なんで疑問形なのよ。それと、もう少しキビキビとした方がいいわよ。そこら辺煩い人とかいるし」
「っ、ご指導ありがとうございます……!」
「精進なさい。きっとすぐに会えるだろうから」
「……?」
「それじゃ」
最後の彼女の言葉に疑問を覚えている間に、彼女は一言そう告げてこの場を離れ王城へと向かって行った。
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