第25話
あれから数か月が経ち、皆がベリルのミレニア領全体で行われた葬儀からそろそろ立ち直った頃。キアラとフィスはミレニア領の街を歩いていた。
フィスは今、新たに新設された反政府軍撲滅部隊の部隊長としてミレニア領以外の各地で反政府軍のアジトを次々と潰しまわっていた。
────そう、主人であるはずのキアラと共に。
彼女はフィスがその部隊の部隊長に任命された事を聞いたその日にワイズに直談判し、その部隊の指揮官の任を得たのだ。その為フィスは必然と部隊長であると同時にキアラの護衛という二つの役割を担っていた。
キアラの指揮官という立場は急遽彼女の為に作られたものだが、これが意外にも機能しており────やはり父ベリルに鬼才と言われていたからか、指揮する立場と言う面でもその才を如何なく発揮していた。
その為当初予定していたペースを大幅に上回る速度で次々とアジトを撲滅していた。
更に彼女自身も本来の魔力を使い始めたからか、彼女の固有魔術である
その上、フィスも止める気配を見せるどころか一緒に嬉々としてアジトを潰している姿から“魔女のお供”、“血濡れの悪魔”などと呼ばれたりもしている。
この数か月で彼らが潰したアジトの数は30にも及ぶ。国の想定では200ほどあると言われているが、そのほとんどが今まで見つからなかったため、これは相当なものだと言える。
国も国で反政府軍対策本部を立ち上げたりしているが、彼らが一つアジトを見つけている間にフィス達は三つ見つけ、即座に潰している。
そうしてアジトを潰しつついろんな情報を集めた結果、なんと反政府軍の所属はただいま戦争真っ最中である隣国だったことが判明。これにより国は本格的に隣国を潰す決断に至ったようで、それ故に隣国所属であった反政府軍の国全体での排他が更に加速し、フィス達のアジトを潰す速度も早まっていった。
そして貴族数名が殺害されたあのパーティでの出来事を“反政府軍侵略”などと言い、国は王城の再建を始め、隣国との戦争もさらに過熱。どちらかと言うとエルファニア王国側が過熱し、今まで劣勢だったのが逆に優勢になったのはまた別の話である。
そもそも今まで劣勢だったのは王太子による失態だけが原因だと思われていたが、それに加え反政府軍の動きによるものだと判明したため、その原因の一つが取り除かれつつある今、優勢になるのは誰から見ても明らかだった。
そんなことがこの数か月あったため、彼らは束の間の休息を共にしていた。
街を歩きながらキアラはポツリと呟く。
「父上がいなくなって、この街も何か変わるかなって思ったりもしたけど……何も変わらない。これもワイズ兄上の努力の成果かしら」
「そうですね。ワイズ様、ミレニア家当主として頑張っていますからね」
「そうね」
ワイズは正式にミレニア家当主となり、ローラやケイン、そしてミレニア家の人たちに助けられながらもしっかりと当主としてミレニア領を統治していた。
その働きぶりはまるでつい最近まで学生だったとは思えないほどで、既にその働きによっていくつか改善された箇所もでき始めているほどだ。
キアラはそんな兄と自分を比べて、ポツリと呟いた。
「……私は、これからどうしたいんだろ」
そう言いながら彼女は露店の一つに目を向ける。それをすぐに察知したフィスは一旦彼女のそばから離れてそこで売っていた焼き鳥を一つ買った。
「毎度」
そしてすぐに彼女に手渡した。
「ありがとう」
「いえ」
「フィスも変わったわね……私だけが変わってない。変われてない……」
彼女は俯く。その表情は何かに迫られているかのように歪んでおり、前までの明るさがほとんど陰に潜められていた。
「では、私からはこれを提案いたします」
そう言ってフィスは懐から一枚の手紙を取り出す。それをキアラに渡し、彼女は差出人が誰なのかを確かめると、
「……国立ヴァレリア学園。兄上が中退した学校ね」
「中身をご確認ください」
そう言われたキアラは大人しく彼の言う通りに従い、ゆっくりと丁寧にその封を開けた。そして入っていた手紙を読み始める。
「……特待生での入学、ねぇ」
「どうでしょう?ここにいけば、もしかすれば何かお嬢様の変わるきっかけが見つかるかもしれませんよ?」
「……でも」
そう彼女は続きを言おうとしたその時だった。
「────でも?俺を超えられていない癖に自分よりも弱い奴らが集まってるところなんて、とか思ってんのか?大した自信だな」
「っ!?」
さっきまでの丁寧な口調がいきなり崩れ、汚い言葉遣いになった彼にキアラは驚愕し、彼の顔を思わず見た。
「今までいくつもアジトを潰したから驕り始めたんだな。だったらその性根、すぐに叩き潰してやるぞ?」
「っ……そんな、驕ってなんて」
「今のお前は弱い」
「っ!?」
はっきりとそう言われ、別の意味で彼女の顔が歪んだ。しかしフィスは気にせず更に言葉を重ねる。
「あまりにも不安定だ。精神がな。そんなんじゃあ次のアジトには連れていけねぇな」
「っ!?私は!」
「私は?」
「っ!……そんなことしてる暇があったら、一つでもアジトを潰したい。それだけよ」
「……はぁ」
そう言ってフィスはキアラを追い越すと、彼女の前に立ち少しだけしゃがみ、
「むゅ!?」
「そんな顔してっと、この先楽しいことなくなるぞ?それでもいいのか?」
「で、でも……」
「でも?そんな言い訳をしてほしいからベリル様は託したのか?」
「────ッッッ!?」
そうフィスに言われた瞬間まるで電流が体中に駆け巡ったかのように体をビクッとし、目を見開かせる。
スーッとその目からぽろぽろと涙が流れ始めた。
「何がしたいのか分からなくなるのも無理ないわな。そりゃあだって、今のキアラ様は死ぬために生きているようなもんだし」
「……っ」
「報復をやめろって言ってるわけねぇんだ。確かにベリル様が亡くなって、それに執着する気持ちも分かるけど……もう別のとこに目を向け始めてもいいんじゃないか?」
「……」
そう言って彼はポンと頭の上に手を乗せた。
「これ以上、自分を責めんな」
「……うん」
涙を拭いたキアラはゆっくりと顔を上げる。その顔にはさっきまであった悲壮感が多少無くなっていた。
「……ありがと」
「いえ」
それを確認したフィスもいつものような口調に戻す。それに少しの名残惜しさを感じたキアラは手に持っていたちょっと冷めた焼き鳥を頬張ったのだった。
「そういえば」
「ん?」
と、いつもの調子に戻って三店舗目に入りアクセサリーを眺めていたキアラに、まるで思い出したかのようにフィスが告げた。
「どうやらあのパーティの詳細を反政府軍に流した貴族がいるらしいのですよ」
「……でもそれを調べるのは私たちの仕事じゃないわ。私たちはあくまでも反政府軍を撲滅するんであってその延長はしないのよ」
「そうですね。なので、この話はキアラ様には関係のない話ですが、その容疑がかかっている貴族家の子女がどうやら今年、学園に入学するそうで」
「……へぇ」
まるで何事でもないかのようなその言葉に、キアラは思わず獰猛な笑みを浮かべる。
「どうしますか?」
「────潰すに決まってるでしょう?」
それは獲物を見つけた獅子のような笑みだった。
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ここまでで取り敢えず一区切りです。
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