第24話
「……」
「……今、何て言った……?」
数日後。フィス達がまだ王都から出発していない頃、ミレニア領にベリルの訃報が届いた。それを聞いたワイズたちは絶句する。
信じることができなかったからだ。
「……っ、おい貴様!嘘を言っていたらぶっ殺すぞッッッ!」
「っ!で、ですが……」
「ワイズ」
「っ!母上……!」
しかし激昂したワイズを止めたのは、他でもないこの中で一番辛いはずのベリルの妻でありワイズたちの母であるローラだった。
「ミレニア家に生まれたのなら、こうなることも覚悟しなさいと前に言ったはずです」
「母上!でも……!」
「あなたはこの家の長男です。そんなあなたがこんな弱弱しい姿を私たちに見せるのですかっ!」
「っ!?」
「長男なら長男として、そして次期当主として相応しい姿があるでしょう!?」
「……っ、は、母上」
そう叱咤されたワイズはまるで雷に打たれたかのように背筋を伸ばした。この瞬間からもう自分の立場は変わったのだ、自分が引っ張っていくんだと言う気持ちが芽生え始める。
そして、彼の顔から甘えが無くなった。
「────────分かりました。ミレニア家長男として、そして次期当主として、私は今、責務を果たします」
「それでこそ、栄えあるミレニア家の長男です」
満足そうにそうほほ笑んだローラはそのまま奥へと戻っていった。そして────────
「っ……うっ……うぅぅ」
愛する彼を思い誰もいない自分の部屋で一人、静かに泣いたのだった。
そのまた数日後。フィス達がようやくミレニア領に戻ってきた。それを迎えたのは当主としての威厳を持ち始めたワイズだった。
「よく戻ってきた」
「……兄さま」
「既に聞いている……明後日には父上の葬儀を予定している。それまで休んでいろ」
「……っ、はい」
そう言われた彼女は不確かな足取りで屋敷へと戻っていく。その時何もないところで躓きそうになり、咄嗟にメイドが体を支え事なきを終えたが、かなり危険な状態であることは間違いない。
長時間の移動による肉体的疲労と父親が死んだことによる心理的疲労が重なり、キアラの顔色は酷いものになっていた。それはきっと、あの時魔力を解放したのも原因の一つとなっているだろう。
彼女は今まで無意識に自分の魔力をセーブしていたため、突然魔力管に膨大な魔力が流れ、一部に亀裂が走っている状態なのだ。自然としていれば治るものだが、その状態で魔術を使おうものなら二度と魔術を使えなくなるだろう。地味に危険な状態である。
ワイズはそれを即座に気づき、すぐに休むように彼女に言ったのだ。その後はミレニア家専属の医師を彼女の部屋に送るつもりだ。
(これ以上、誰かが傷つくと領地運営に影響が出てきてしまう……よし)
ワイズはこれからの事を考えながら、次に自分が何をすべきかを頭の中で明確にした。
「ケイン」
「はっ」
「父上の遺体は持ってきているな?」
「もちろんでございます」
「棺を用意している。数名を持って行ってすぐに中にお入れしろ」
「はっ」
そしてケインがこの場を離れた後、次にフィスの方を向いた。
「父上が誰に殺されたのかは聞いている。これは事前に気づけなかったお前の失態だぞ」
「……」
そう言われて、フィスは何も言えなかった。確かに事前にその可能性について分かっていればこんなことは起きなかった。
しかし、カンバはそれは巧妙に隠していた。そもそも国所属の騎士がどれだけ調査してもあのパーティ当日になってようやくアジトの一つを見つけることができたのだ。一端の、それも犯罪者だった彼に見つけろだなんて無理な話だ。
しかし事が起きたのならば責任の所在を明らかにしないといけない。国は国で、そしてミレニア家ではミレニア家で。たとえワイズにとって、キアラにとって、そしてミレニア家に所属する全員にとって不本意だとしても。
「……後で大広間に全員集合だ。そこでお前の処罰を言い渡す」
そう言ってワイズは屋敷にキアラに続き、戻っていった。
その後キアラや棺を掃除しているケインたち以外の全員が大広間に集められた。そして立ち台にはワイズが。その立ち台の下にはローラがいた。
「今回集まってもらったのは他でもない。我らがミレニア領を長く統治し、発展してくださった私の父、ベリル・ミレニアが反政府軍によって殺されたことについてだ」
「「「「っ!?」」」」
既に知っていた者は悔しげに俯き、何も知らなかった者は驚愕のあまり、目を見開いて固まった。緊張が大広間全体に走る。
「これにより、この瞬間ワイズ・ミレニアが亡き当主ベリア・ミレニアの意思を継ぎ、ミレニア家当主となった。既に学園には中退届を提出している。皆の者には今後も我がミレニア家を支えて欲しい」
それから、とワイズは続ける。
「ミレニア家直属騎士団第一部隊に所属し、その後キアラの護衛騎士に任命されていた反逆者カンバの永久除名をここに宣言するとともに、キアラ・ミレニアの護衛騎士であるフィスの処罰について執り行う」
カンバの名が挙がった瞬間、再度この大広間が驚愕と緊張で溢れる。皆信じることができなかったからだ。
もちろんワイズだって最初ベリルはカンバに殺されたと言われ信じることができなかった。しかし既にそれについては割り切っていた。
故に、もう二度とここでカンバの名を彼が言うことは無いだろう。
「護衛騎士フィスは同僚の悪行を見抜けなかった。故にここで処罰を下す。フィス、前に出ろ」
そう言われたフィスは素直にワイズの前に出ようとして、前にいた人たちが道を開けた。既に覚悟はできていた。
「これよりお前に下す処罰を言い渡す。まずは二ヶ月の無給奉仕。そして────」
「────新たに新設する反政府軍撲滅部隊の部隊長に任命する」
「「「「っ!?」」」」
死罪を言い渡されると思っていたフィス含め全員は今日何度目かの驚愕に目を見開いた。
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