第31話

「いやぁ、にしても────強いね」


「そうですか」


「うんうん。互いが熱くなって危なくなったら介入しようかなって考えてたけど……最初からいらない心配だったね」


 そうやってフィスはネオと会話を重ねながら、大体の実力を測っていた。だがネオはそんな視線に気づきつつもそのまま会話を続ける。


「そんなに強いんだったらどうかな、風紀委員会に入るってのは」


「風紀委員会……ですか?」


「そ。風紀委員会。楽しいよ?」


「……」


 この学園で絶対の権力を誇る組織の一つ、風紀委員会。これに入る方法は主に二種類あり、一つ目は自分から志願し専用の試験を受ける事。そしてもう一つは────


「こうやって推薦することなんて滅多にないよ?どうかな」


「……」


 ネオがフィスにしているように、現職の風紀委員に推薦を貰うと言う方法だ。しかしこれについて、特に一年生の間で推薦を貰うことは殆ど実例が無く、どちらかと言うと実力主義な面が強い風紀委員会だからこそ一年生では実力不足な面が強い。

 しかし稀に、二年生よりも強い一年生が入学してくることがある。




 ────フィスのように。




 しかしフィスは最初誰からも注目されておらず、ネオからしたら完全に想定外だった。


 今年の一年生は豊作と言われており、特に注目されていたのはキアラ、カリーナ、そしてレインハルトと呼ばれるBクラスの生徒の三人だった。


 キアラは反政府軍侵略時に見せた反射する魔力ミラーマジックと膨大な魔力、そして撲滅部隊でアジトを潰している間についた“鏡の魔女”の二つ名からみゅうがく前から注目度が高かった。


 カリーナは幼少期から“神童”と貴族の間で称されており、その実力は今もなお研鑽を続け新入生に似合わないほどにまで成長している。そしてその努力の成果なのか彼女が使う、使用者が限られている炎系統で最強の魔術“白炎帝の纏う魔力フレイムノヴァマジック”を難なく使いこなす実力者となった。


 そして最後のレインハルトはエルファニア王国初の“勇者が放つ魔力ブレイブマジック”の持ち主で、それがあったからこそ注目されていた。

 勇者が放つ魔力ブレイブマジックとは、勇者しか扱えないとされている魔術であり、魔の者─────魔精人ステファニーへ多大なダメージを与えることができるため、魔精人ステファニー侵攻の抑制力として期待されている。


 これほどの実力者が揃っているからこそ、他の生徒はかわいそうだと思われたりしていたが、


(まさか、こんな逸材がいたなんてねぇ)


 ネオは内心ほくそ笑む。今も自分の実力を測っている彼と同じように、ネオもフィスの実力を測ろうとしているのだ。


(底が見えない……凄いな、この新入生は)


(……あまり強くない、が……なんだこの言い知れない違和感は)


 ネオが心の中で感嘆しているのに対し、フィスは目の前にいるネオと言う存在があまりにも曖昧なことに強烈な違和感を感じ取っていた。

 


 しかしその違和感は即座に解消することになる。


「うん、そろそろ時間だし、僕はここでお暇させてもらうよ。んじゃ」


「っ!」


 なんとネオの体がその言葉と同時に消えたのだ。これに驚きを隠せずにいたフィスは何とか持ち直す。


(分身……?そう言った魔術か……?だが突如出てきたことに説明がつく、が……直感は違うと言っている。なんだこれ)


「フィス~!」


「お嬢様」


 ネオの魔術について思考を巡らせていると、観客席から彼の名前を呼ぶキアラの姿が。既に観客席はまばらで、キアラともう何人かしかいなかった。


 フィスは彼女の元へと向かう。


「どうでしたか?」


「うーん……」


 この模擬戦の感想を問われたキアラは少しだけ悩んだ後、


「微妙!」


「……そうですか」


「ええ!まだ足りないわ!」


「……やはりそうでしたか」


「……はぁ、二人とも、会話が少し物騒よ」


 するとカリーナが思わずと言った感じで二人の会話に割って入ってきた。


「ローゼの顔、あなたたち見てなかったの?もう相当酷かったけど」


「あれではまだ足りないわ!……あいつは私の、そして父上の護衛を完遂していたのにも関わらず否定してきた……あんな奴に否定される筋合いなんてないわ」


 キアラは未だ彼のことが許せないらしく、少しだけ震えていた。

 家に所属する騎士を否定することはすなわちその騎士を信頼し雇っている家そのものの否定と見なされてもおかしくない。子爵家で自身の騎士を雇う金がなかった彼にはわからなかったようだ。


 故にキアラはブチ切れた。それはフィスの為であり、辺境伯家としてもプライドの為である。


 だからこそ、フィスはそれに応えるため徹底的に潰せというキアラの指示に従った。まだ足りなかったようだが。


「フィス!今から魔術で模擬戦するわよ!憂さ晴らしに付き合って!」


「……分かりましたよ」


「じゃあ私はここで観戦してるわ」


「帰れ!」


「別にいいじゃない」


「良くない!」


 二人がそうやって言い争いをしている間に、フィスはその場から離れ二度目の闘技場の使用許可を貰いに行くのだった。

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