第43話

「レインハルト派?」


「えぇ。今月は特に、そのレインハルト派がかなり横暴しているようで。二人にはその統制を頼みたいのです」


 放課後。話があるとベラリザに呼ばれたフィスとキアラの二人は指定された教室へと入り、その話を受ける。


 何でも、近頃一年生の間で派閥争いが激化しているようで、中には暴力沙汰にまで発展しているものもあるのだとか。


 風紀委員会でもそれの規制は行っているものの、一年生の間で行われている以上中々手を出しにくい。そこで、


「二人に矛先が向いたってことだ」


「成程……それなら是非」


「ありがとう。助かるよ」


「一年生の問題は一年生で解決する。先輩方のお手を煩わせるわけにはいきませんから」


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


(しかし、レインハルト派ねぇ)


 フィスは頭の中でつい先日にあった出来事を思い返していた。あの五人組。もう死んで諸々の処理は既に終わっているが、確か彼らは、


(ただの平民だった。そんな彼らがあれほど大きな顔をしていた……あの錠剤があったから?いやしかし、それ以上の何かがあると俺の直感が言っている。レインハルト派と反政府軍。どんなつながりが……?)


 フィスはこの後レインハルト派にいるとされる生徒を洗い出すことにした。そこにきっと突破口があると信じて。


 その時だった。


「ん?なんで成鳥が帰ってきて─────っ!」


「どうしました?ベラリザ先輩」


「二人とも、すぐに行くぞ!レインハルト派の暴動だ!」


「「っ!?」」


 それを聞いた二人は教室を急いで出たベラリザの後を追う形で教室を走って出たのだった。


「ネオ!」


「委員長、これはまずいよ」


「何があった!」


「闘技場で模擬戦をしていたクラブを強襲して数人殺害したあと、闘技場を占拠しやがった」


「っ!」


 ネオの口から放たれたその言葉にこの場に到着したばかりのベラリザ、フィス、キアラは驚く。想定外の出来事で現場は騒然としていた。


 教師陣が続々と集まってくる中、フィスとキアラは黙って闘技場の入り口に目を向ける。


 それからフィスは徐に口を開いた。


「ネオ先輩」


「……なんだい?」


「こいつらと反政府軍との関係は?」


「っ!た、確かに彼らの一部がそう叫んでいた気がするけど……」


「そうですか。キアラ様」


「えぇ」


 そのちょっとした会話でネオは彼らが今から何をしようとしているのか察し、少しだけ眉を歪ませる。


「まさか、撲滅部隊を呼ぶのかい?やめてくれよ。被害を想像するだけでもヤバそうになりそうだし。それに呼ぶにしても到着に時間がかかるし」


「ここは近衛騎士と宮廷魔術師に要請を─────」


「それじゃあ遅いですよ。きっと」


「……はぁ。仕方ないか」


 別の風紀委員にそう言われたベラリザは溜息を吐きながらそう言った。そして覚悟を決めたのか、さっきまでの緩い表情が一瞬にしてキリッとしたものに変わる。


「風紀委員会委員長、ベラリザによる命令だ。直ちにこの暴動を抑えろ」


「「「「「はっ!」」」」」


「ネオ」


「はいはい。可能性を見出す魔力ポテンシャルマジック─────分身体スケープゴート


 そう彼が唱えた直後、彼の横に


 これは、ネオの可能性。自分のを魔術によって具現化したものだ。この魔術も普通の人間が使えるような代物ではない。まず自分がもう一人存在するということに耐え切れない限り使えない。


 術式は公開されているため誰でも使えるが、使用者を選ぶ魔術。それがこの可能性を見出す魔力ポテンシャルマジックなのだ。


 それをいとも容易く使いこなすネオは紛れもなく天才と言えるだろう。その実力はこの王国内でもかなり高いはずだ。


「さ、それじゃあ」


「行ってくるね」


 出現したもう一人のネオが闘技場の閉ざされた入り口へと向かって行く。この魔術の詳しい概要を知らないフィスとキアラはそのネオの行動に疑問を覚えるが、


「「っ!?」」


 壁をすり抜けた分身のネオを見て驚愕で目を見開かせた。


「あれはあくまでも魔力で維持された魔術だし、定義されていることが”ありえたかもしれない僕の可能性”だ。だからある程度の理不尽は通用するんだよ」


「……なるほど」


(この魔術の存在は知っていたけど……私には使えないわね)


 キアラはこの魔術の本質を見切り、自分には到底使えないものだと判断した。一歩間違えれば精神を崩壊させる恐れがあることに一瞬で気付いたからだ。


 更にあれはもう一人の自分であるため、仮にあれにダメージが加われば自分にもそのダメージが帰ってくる。そのリスクを考えると、


(こっちの方がいいわ)


 メリットとデメリットを天秤にかけたキアラは自分の固有魔術で十分だと判断した。


「委員長、使っていいよね」


「あぁ」


 更にネオは魔術を重ねて使う。


分身体スケープゴート


 しかし今度はその場にもう一人のネオが出現しなかった。


「あれ?」


 それに疑問を持ったフィスが思わず声を出す。そしてその疑問を素直にネオにぶつける。


「ネオ先輩、分身は?」


「あぁ、あの中」


 そう言って指さした先にあったのは闘技場だった。


 次の瞬間、


『『『ギャアアア!?!?!?』』』


「お、始まったようだね」


 闘技場から悲鳴が聞こえてきた。それと同時に爆発音やら何かを切り裂く音なども聞こえてくる。


「今僕は君たちの分身をあそこに出現させたんだ」


「……そんなことできるんですね」


「そ。まぁ同一人物がこの場にいないと言うのが条件なんだけど。要はもう一人の自分を観測されなければできることだよ。あ、僕は例外ね?」


「つまり、俺やキアラ様があそこに入れば、俺たちの分身が消えるってことで合ってますか?」


「お、そうそう。よく分かったね」


「……」


 嬉しそうに笑うネオを見て、微妙な気分になったフィスは何も言えなかった。


「そろそろ終わるんじゃないかな」


 そうネオが予言した通り、さっきまで五月蠅いくらいに響いていた悲鳴が静かになっていった。どうやら制圧できたようだ。


「それじゃあ中に入ろう」


「「「はっ」」」


 ベラリザの指示に従い、風紀委員たちは闘技場の中へと入っていく。



 ─────そこは血みどろの空間になっていた。



 あたりには血を大量に出して倒れている生徒の姿があり、隅っこには人質になっていたのだろう生徒が壁に寄り掛かる形で気を失っている。


 そしてその場にいたのはネオが最初に出したもう一人のネオだけだった。


「解除」


「─────」


 そして一言ネオがそう唱えるとそのもう一人のネオも姿を消した。


「人質の生徒を優先して保健室へと運ぶように。実行犯の生徒は纏めて隅に置いておけ。行動開始!」


 その一言で全ての風紀委員が急いで一斉に行動を開始したのだった。

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